未承認国家「アルツァフ共和国」とは何だったのか。約32年間の歴史に幕を閉じる

    旧ソ連が崩壊する直前の1991年9月、アルメニア人勢力がアゼルバイジャンから分離独立を宣言。国際社会からは認められてない自称国家として、ナゴルノ・カラバフ地域を実効支配してきました。

    旧ソ連地域にある未承認国家「アルツァフ共和国」が消滅することが決定しました。1991年に独立宣言してから約32年間の歴史に幕を閉じます。

    米紙ワシントン・ポストによると「アルツァフ共和国」のサンベル・シャフラマニャン大統領は9月28日、共和国を2025年1月1日をもって正式に解散する法令に署名しました。全ての「国家機関」が解散するそうです。

    迫害を恐れて地域住民の過半数にあたる6万6000人以上がすでに隣国アルメニアに移動しており、一部の当局者は全人口が去ると信じていると、同紙は報じています。

    「アルツァフ共和国」の国旗

    アルツァフ共和国とは?

    「アルツァフ共和国」は、アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地域にある自称国家です。隣国のアルメニアが支援するアルメニア人勢力が1990年代の戦争で勝利して建国しました。

    30年以上も独自の政権を樹立して「アルツァフ共和国」として実効支配していました。アゼルバイジャン政府の支配は、これまで及んでいませんでした。

    ナゴルノ・カラバフ地域は山梨県ぐらいの広さの山がちな土地で、伝統的にアルメニア系の住民が多く住む土地です。

    旧ソ連が崩壊する3カ月前の1991年9月2日、アルメニア人勢力は隣国アルメニアの支援を受けて「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言しました。

    1万7000人の死者を出し、100万人以上が難民になったとされる戦争の結果、アルメニア側がアゼルバイジャンを破り、そこから30年以上も独自の政権が支配していました。2017年以降は「アルツァフ共和国」という国名がメインで採用されています。国旗はアルメニアとほぼ同じ三色旗ですが「くの字」のような白線が加わっています。

    ただし、支援しているとみられるアルメニアも含めて、どの国連加盟国からも国家承認を得られていません。

    図の赤い部分が2020年の戦争以前の「アルツァフ共和国」の支配地域

    2020年の戦争で支配地域を大幅に減らしていた

    アゼルバイジャンは「アルツァフ共和国」の存在を認めず、アルメニア軍が国土を支配していると批判してきました。

    英紙ガーディアンによると2020年には2度目の戦争が起き、44日間にわたる戦闘の結果、「アルツァフ共和国」の支配地域は大幅に減少していました。

    9月の「対テロ作戦」でアゼルバイジャン軍に「事実上の降伏」

    しかし、アゼルバイジャン政府の手は緩みませんでした。同国の国防省は9月19日、ナゴルノ・カラバフ地域で国軍が「対テロ作戦」を実施したと発表

    アゼルバイジャン国営通信によると、同国のアリエフ大統領は翌20日、国民向けにテレビ演説。「対テロ作戦に成功した結果、昨日午後1時ごろ、アゼルバイジャンは主権を回復した」と述べました。「アゼルバイジャン領にあるアルメニア軍の大部分は完全に破壊された。軍事装備は破壊され、無力化された」と報告した上で、アルメニア側から武器の引き渡しも始まっているとしました。

    また、ロシア国営のタス通信も20日、「アルツァフ共和国の当局が、ロシアの平和維持軍の停戦提案を受け入れた」と地元メディアの報道を引用。「アルツァフ共和国」の事実上の降伏とみられていました。

    2020年の停戦をロシアが仲介した結果、約2000人のロシア軍が平和維持軍としてナゴルノ・カラバフ地域に駐留していましたが、歯止めにはなりませんでした。

    ガーディアンは今回のアゼルバイジャンの動きについて「ウクライナへの高コストな侵略によってロシアが気を散らし消耗したことで、これまで勢力圏と見なしてきた旧ソ連の国々に対する支配力を失っていることを示唆している」と分析しています。