本文へ移動

駅前を「マチ」と呼ぶのは浜松だけ? 日本は駅中心に町形成

2023年4月27日 05時05分 (4月27日 05時07分更新)
市民から「マチ」と呼ばれる浜松駅周辺=JR浜松駅前で

市民から「マチ」と呼ばれる浜松駅周辺=JR浜松駅前で

 「浜松では駅前を『マチ』と呼びますが、他の地域でもそうですか」。私たちに身近な言葉の疑問が、ユースク取材班に届いた。投稿者は「他の地域では町名で呼んでいる印象がある。浜松は特異なのでは」と不思議がる。調べてみると、人それぞれのマチの姿が見えてきた。 (高島碧)
 日本語に詳しい静岡大人文社会科学部の勝山幸人教授によると、「町」とは住宅や商店が多く、人口が密集している市町の中心部のこと。「『町をぶらつく』『町へ出かける』といえば、たいていは人でにぎわう商店街を指す」といい、「広場を中心に町を作るヨーロッパや、川に沿って町ができるアジアの多くの国々とは違い、日本は駅を中心に町が形成される傾向が歴史的にある」と教えてくれた。駅前を「マチ」と呼ぶのは珍しくなさそうだ。
 「昔はマチを指す範囲が今よりももっと広かった」と話すのは、浜松市の古文書編さんをする元中学校教諭鈴木正之さん(84)。昔は遠方から来た人のために「『マチ』の入口に公衆便所があった」という。浜松市史によると、戦前には浜松駅から直線で二キロ離れた鹿谷町や、駅南の海老塚町(現海老塚)など六カ所に公衆便所があった。北区に住んでいた鈴木さんは「『マチに行く』というと映画館やパチンコがあるにぎやかな場所で買い物をするイメージだった」と振り返る。
 だが、にぎやかな中心市街地も九〇年代に入ると大型店舗が次々と撤退し、活気は失われた。市産業振興課によると中心市街地の商店数は一九九一年に千六百七軒あったが、二〇〇二年には二割減の千二百八十五軒になってしまった。
 当時を知らない若者は浜松駅前をなんと呼んでいるのだろう。駅前で十〜三十代の男女十一人に聞くと、全員が変わらず「マチ」と答えたが、うち二人は並行して「マチナカ」と呼んでいた。
 市立図書館で調べると「マチナカ」という言葉を使った最も古い資料は二〇〇九年の「浜松まちなか大バーゲン」のチラシ。このバーゲンは、もう一度、街中に客を呼び込もうと、大型店と商店街が一斉にバーゲンをするイベントで〇五年にスタートした。また、一〇年に発足した中心市街地の活性化を目指す民間主体の「浜松まちなかにぎわい協議会」も「まちなか」という言葉を名称に入れた。
 協議会の斉藤恵一事務局長(57)は名称に「まちなか」を入れた「経緯は分からない」と話す。ただ「子どものころ『マチに行く』と言えば百貨店に行くことを指していた。協議会の『まちなか』の範囲はもっと広い」と言い、活動範囲は駅東のアクトシティ浜松を含め市役所近くまで広がる。「(共通駐車券の)『浜松まちなかPクーポン』などで『まちなか』という言葉がよく目につくようになり、駅周辺をそう呼ぶ認識が進んでいるのでは」と語った。
おすすめ情報