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「生活不活発病」を防ぐには? 体操だけでは不十分、自然に体を動かす機会作って

2024年2月1日 11時10分 (2月1日 12時28分更新)

厚生労働省の資料と大川さんへの取材を基に作成

 能登半島地震による避難生活が長引く中、高齢者を中心に懸念されているのが「生活不活発病」だ。地震前に比べて動かない時間が増えて生活が不活発になると、歩くことなどが難しくなり、要介護状態になる恐れもある。どのような対策が必要か。この病気の研究の第一人者で医学博士の大川弥生さん(69)=元国立長寿医療研究センター生活機能賦活研究部長=に聞いた。 
 生活不活発病は、動かない状態が続くことで、心身の機能が低下してしまう病気。歩行や立ち座りなどの日常の動作が難しくなったり、疲れやすくなったりすると、さらに体を動かさなくなる悪循環に陥る。大川さんは「幅広い世代で起こり得るが、特に震災の後は高齢者を中心にリスクが高まる。適切に対応しないと中長期に影響が及んでしまう」と警鐘を鳴らす。

大川弥生さん

 大川さんは2004年の新潟県中越地震以降、各地の被災自治体と協力し、住民への生活機能調査や現地での予防・改善指導に取り組んできた。例えば、東日本大震災の発生7カ月後に宮城県南三陸町と実施した全町民への調査では、震災前には要介護認定を受けていなかった元気な高齢者約3300人のうち、23・9%が以前より歩くことが難しくなっていた。災害時に負ったけがなどが原因ではなく、日中の活動が減ったことによる生活不活発病が最も影響していた。
 生活が不活発になった理由として多くを占めたのが「家の外ですることがなくなった」「家の中ですることがなくなった」「外出の機会が減った」だった。大川さんは「毎日の家事や農作業、地域での交流など『することがなくなる』ことが不活発病を生む最大の要因。災害時は仮に散歩などができる環境でも、被災者だから控えようという『遠慮』も働く」と指摘する。
 予防のポイントは、避難生活の中でも一日の生活を活発にすること。大川さんは「体操などの短い時間だけに限られた対策では不十分。一日全体で『すること』をつくり、自然に体を動かせる機会を増やす工夫が大事」とアドバイスする。
 例えば、日中は横にならず、いすに腰掛ける▽身の回りの物を片付け、動きやすい環境にする▽歩きにくいときも、すぐに車いすを使わずつえで工夫する―など。避難所でも例えば食事などを配る役割を担うことや、遠慮せず散歩などを楽しむことも大切だ。
 今後活動が本格化する災害ボランティアの理解も欠かせない。「何でもやってあげたいという善意が、被災者にとってはマイナスになってしまうこともある。必要以上の手助けをしないことも大切」と強調する。
 生活不活発病の早期発見には、厚生労働省ホームページで紹介されているチェックリストが役立つ。「屋外を歩くこと」「身の回りの行為」「日中どのくらい体を動かしているか」など8項目で、地震前と現在の状態で当てはまるものにチェックを入れる。地震前より状態が下がっている場合などは注意が必要だ。

厚生労働省の資料と大川さんへの取材を基に作成

 大川さんは「生活不活発病の改善や新たな発生の予防には、被災者自身が正しく理解して生活を工夫することが大事。復興に向けた行政全体の取り組みの中に位置付けることも重要だ」と話している。
 (川合道子)
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