株主総会の書面決議とは|流れ・メリット・ひな形

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弁護士相談Cafe編集部
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株主総会は原則として、現実に開催して決議を行う必要があります。

しかし、一定の要件を満たす場合には、現実に株主総会を開催することを省略し、書面上で株主総会決議を行うことができます。

これを「書面決議」と呼んでいます。

昨今、新しい生活様式・働き方が求められつつあり、株主総会の書面決議を行う会社も増えてます。

この記事では、株主総会の書面決議の概要や、書面決議を行う流れ・メリット・用いられる書面(同意書、提案書など)のひな形などについて解説します。

株主総会の書面決議とは?

株主総会の書面決議とは

株主総会の書面決議とは、実際の株主総会決議を省略して、提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなすことができる制度をいいます(会社法319条1項)。

書面決議を行うためには、株主総会の目的である事項について、「株主全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示」をすることが必要です。

特に株主の数が限られている会社の場合には、書面決議により株主総会決議の手間を省略するメリットが大きいといえます。

なお書面決議は、役員の選任や決算承認のような普通決議だけでなく、事業譲渡や定款の変更など、可決要件が厳格な特別決議にも用いることができます。

また、株主総会における事業報告や計算書類の報告といった株主総会の報告事項についても、取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知し、株主全員の書面もしくは電磁的記録による同意があったときは、株主総会において報告があったものとみなされます(会社法320条)。

そのため、一般的には決議事項と報告事項を合わせて書面に記載し、全株主の同意による書面決議を行うことになります。

通常の株主総会との違い

通常の株主総会では原則として、まず取締役会において株主総会の招集を決定し、代表取締役が株主に対して招集通知を発送した上で、株主総会を実際に開催して議案を可決することになります。

他方、書面決議では、招集決定も招集通知も必要ありません。

つまり書面決議は、通常の株主総会と比べると手続がはるかに簡略化されたものであるといえます。

書面決議のメリットやデメリットは?

書面決議のメリット

書面決議を行う場合、株主総会を現実に開催する必要がないため、開催場所の確保や招集手続など株主総会の準備を行う必要がなくなります。

したがって、招集通知などの招集手続を省略することにより、コストの削減が可能になるほか、株主総会の準備にかける時間や労力も省略できるというメリットがあります。

また、書面決議によれば、海外などの遠隔地に株主が存在する場合や、株主が株主総会に出席できない場合などにも、株主全員から議案についての同意を得ることが可能です。

さらに、M&Aのように迅速な意思決定が求められる場合には、書面決議によることで株主総会決議にかかる時間を短縮することができるというメリットもあります。

書面決議のデメリット

一方、議案について議決権を行使できる株主全員の同意が得られない場合には、書面決議を成立させることはできないというデメリットがあります。

会社の株主が親会社のみである場合や、株主の数が少ない場合には株主全員の同意を得ることは比較的簡単です。

しかし、株主が多数の場合には、すべての株主の同意を得ることは現実的ではありません。

したがって、書面決議を利用できるのは、株主の数が限られている会社に事実上限定されているといえます。

書面決議の成立要件・書面決議を行う流れについて

書面決議の成立要件としては、

  • ①取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案すること
  • ②株主の全員が書面または電磁的記録により「同意の意思表示」をすること

の2つが必要となります。

また、具体的に書面決議を行う際には、以下の3つのステップを経ることになります。

  • ①取締役または株主による株主総会決議事項の提案
  • ②株主への提案書の送付(取締役による提案の場合のみ)
  • ③株主からの同意書の返送(取締役による提案の場合のみ)

上記を踏まえて、書面決議が成立するまでの流れを詳しく見ていきましょう。

①取締役または株主による株主総会決議事項の提案

まずは、株主総会決議事項の提案に関する手続きを解説します。

 取締役が提案をする場合

取締役による株主総会決議事項の提案については、取締役会を設置していない会社では取締役が決定することになりますが、取締役会設置会社においては取締役会決議が必要となります。

なぜなら、取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項を株主に提案することは株主総会の招集決定に準じた業務であり、「重要な業務執行の決定」(会社法362条4項)にあたると考えられるからです。

株主が提案をする場合

株主が提案をする場合の典型例としては、X社がY社の完全親会社であるようなケースがあげられます。

このような単独株主のケースでは、株主総会を現実に開催する実益がないため、実務上株主提案による書面決議がよく利用されています。

この場合、X社が議案を提案し、X社が自らその議案に同意するという形になります。

そのため、1通の書面で提案書と同意書を兼ねた提案書兼同意書を作成することになります。

②代表取締役による株主への提案書の送付

取締役による提案のケースでは、取締役または取締役会が株主総会の決議事項の提案を決定すると、次は株主に対して提案書を送付します。

提案書には、株主から返送をしてもらう同意書を添付することになります。

ただし、いきなり提案書を送るのではなく、できれば事前に会社から株主に対して説明を行い、提案事項について株主全員の同意が得られるかどうか確認しておくのが望ましいでしょう。

③株主からの同意書の返送

代表取締役もしくは株主から提案書が株主全員に送付され、すべての株主から同意書が返送された時点で、株主総会の決議があったものとみなされることになります。

株主からの同意は、必ずしも書面による必要はなく、電磁的記録でもよいとされているので、電子メールで同意を取り付けるという方法でも足ります(会社法319条1項)。

また、書面決議の同意書面または電磁的記録については、どこかに提出する必要はありませんが、株主総会の決議があったとみなされた日から10年間は本店に備え置く必要がありますので(会社法319条2項)、同意書面や電磁的記録は破棄してしまわないようにしましょう。

なお、同意書には押印が求められるのが一般的ですが、法律上は押印があってもなくても同意の効力には変わりはありません。

提案書と同意書のひな形を紹介

書面決議に先立って、株主に送付する提案書と同意書のひな形を紹介します。クリック・タップで拡大することも可能です。

提案書のひな形

 同意書のひな形

書面決議でも株主総会議事録は必要?

書面決議を行う場合、実際に株主総会を開催して議事を行うことはありません。

その場合でも、株主総会議事録を作成することは必要なのでしょうか。

 株主総会議事録は必要

書面決議を利用した場合であっても、株主総会議事録は作成する必要があります(会社法施行規則72条4項1号)。

書面決議では実際に株主総会を開催するわけではないため、厳密にいうと議事録ではありませんが、通常の株主総会決議と同様に決議事項について記録を残しておきます。

この株主総会議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならない(会社法318条2項)とされているため、作成漏れがないよう注意しましょう。

また、取締役選任決議を書面決議で行なった場合には、新たに選任された取締役の登記にあたって株主総会議事録を法務局に提出する必要があります。

書面決議における議事録に記載すべき事項

書面決議における株主総会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。

決議事項

  • イ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • ロ イの事項の提案をした者の氏名または名称
  • ハ 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

報告事項

  • イ 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
  • ロ 株主総会への報告があったものとみなされた日
  • ハ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

書面決議の場合における株主総会議事録のひな形を紹介

また、通常の議事録のひな形については下記ページを併せてご参照ください。

まとめ

以上のように、株主総会の書面決議を利用すれは、株主総会開催の時間と労力を削減して、手続きを簡略化できます。

そのため、株主が少なく、株主とのコミュニケーションが比較的容易にできる会社にとっては便利な制度といえます。

株主が少ないのに毎回株主総会を開催するコストがかかっていて大変だという場合には、書面決議の導入を検討してみてもいいかもしれません。

株主総会の書面決議に興味があるという経営者の方は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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