愛媛新聞ONLINE

2024
58日()

草を刈る(上) その先に見えた愛媛の農地の実情

 

 最近、草刈りにのめり込んでいる。汗だくになりながら無心で単純作業を続けていると目の前に美しい「成果」が広がる。数カ月前、農業を営む知人の呼びかけで始めたが、この爽快感と達成感で中毒になった。近年、ネットの動画投稿サイトなどでも最新機材や裏技などが紹介されている。100万回再生超えのものもあり、草刈りへの関心の高まりを感じる。
 盛り上がる一方、素朴な疑問が湧いてきた。耕作されなくなった土地がなぜこんなに多いのか。高齢化や人口減少が理由なのか。調べていくと、日本の農地が抱える大きな問題が見えてきた。(大津貴圭)

■「原風景」とうっそうとした土地

 

美しい棚田が広がる東温市井内地区

 標高約300~650メートルに美しい棚田の風景が広がる東温市井内地区。手入れされたあぜ、整然と並ぶ石積み、金色に輝く穂を風に揺らす稲。約500枚、計30ヘクタールの水田が織りなす日本の原風景は、農林水産省の「つなぐ棚田遺産」に認定されている。そんな地区にさえ、何年も耕作されず、雑草や木で覆われた農地が点在している。

 地元で30年ほど前から古民家レストラン「ぼたん茶屋」を営む永井公一さん(74)に現地を案内してもらった。約10アールほどの敷地には、伸び放題になったススキや親指の太さほどに成長したイタドリ、木を覆うノブドウなど無数の植物が所狭しと生えている。ツタの隙間から見える石積みが、かろうじて棚田だったことを伝えている。

 

井内地区にある遊休農地

 あぜんとする私に、市の農業委員も務める永井さんは「地区の中には、こんな所がいくつもある」とさらり。「あなたの趣味にはもってこいではないか」と冗談めかしていう。地区では高齢化に歯止めがかからず、第一線で農業に従事する人の多くが80代らしい。棚田での耕作は平野部の3倍の労力が必要とされ、世代交代が進んでいない。

 所有者が判然としない土地も少なくないという。目の前の土地もそうだ。放っておけば、やがて森林になっていくだろう。

 草は根を伸ばし種を飛ばし、隣の田畑まで浸食していく。地域コミュニティー内でのトラブルにもつながりかねない。もし、こんな土地を相続したら…。自分にはなすすべもないことを想像した。

 「ここやと、さあ、黄色かなあ」。永井さんがつぶやいた。「黄色?」。「緑じゃないけど、まだ赤でもない」。その後、私は永井さんの言葉の意味を知る・・・

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