良いリサーチクエスチョンとは?問いの立て方と手順
研究を始めるとき、どこから手を付ければよいのか悩む人も多いことでしょう。研究を行うには、まず、焦点を絞ったリサーチクエスチョン(問い)を考える必要があります。リサーチクエスチョンとは、研究を行うことによって何を求めようとしているのかを問うものです。適切なリサーチクエスチョンを設定しなければ、研究自体が空回りしてしまう恐れがあります。
研究をうまく進めるためには、具体的なリサーチクエスチョンを立てることで、研究の方向性と明確な目標を示します。良いリサーチクエスチョンの特徴を理解することは、新しい研究方法を見つけ出すのに役立ちます。
この記事では、まずリサーチクエスチョンとは何かを振り返り、どのように書けばよいか例題を挙げながら、問いを作成するための手順を概説していきます。
リサーチクエスチョンとは何か
良いリサーチクエスチョンは、研究を定義し、研究を通してどのような答えを探すのか、方向性を定めるものです。リサーチクエスチョンを作成することで、調べたいことが書かれた研究論文を見つけ出し、自身の研究 の目的を明確にすることができます。リサーチクエスチョンの書き方を学ぶことは、卒業論文や学位論文から投稿論文まであらゆる論文を書くための出発点です。また、リサーチクエスチョンは、データの分析と解釈を通じて回答する問題や課題を取り上げるものでもあります。
なぜリサーチクエスチョンが重要なのか
優れたリサーチクエスチョンは、研究の設計だけでなく、研究タイプを決定し、研究目的を特定するのにも役立ちます。リサーチクエスチョンは、あなたが取り組んでいる特定の課題を示し、個々の研究によって得られる研究結果に焦点を当てるものです。研究目的を達成し、最初に掲げた課題に対して回答するために、研究を簡単なステップに分割するのに役立ちます。
リサーチクエスチョンの種類
リサーチクエスチョンは、実施したいと思う研究の性質によって、さまざまな種類に分類することができますが、その研究のタイプによって、最適なリサーチクエスチョンの種類も決まってきます。研究のタイプは、定性的研究と定量的研究に大別されます。
1. 定性的研究におけるリサーチクエスチョン
定性的研究、または質的研究におけるリサーチクエスチョンは、広範な分野の研究にも、より具体的な研究領域にも採用されます。定量的研究の課題とは異なり、定性的研究の課題は調整が可能で、方向性が限定されず、柔軟性があります。定性的研究のリサーチクエスチョンは、発見、説明、解明、探求に焦点を当てるものです。
i.探求的なリサーチクエスチョン
この種類のリサーチクエスチョンは、自らの立てた仮説に影響されることなく結果を理解することを目的としています。探求的リサーチクエスチョンの目的は、偏見や先入観を持たずに、あるテーマについてより深く知ることです。
リサーチクエスチョンの例:ある化学物質がどのように使用されているか、あるいは、特定のテーマにおける認識を尋ねるもの。
ii.予測的なリサーチクエスチョン
予測的なリサーチクエスチョンとは、質問文から自動的に最適な回答選択肢を予測する調査質問の意味を明らかにするものです。この種類のリサーチクエスチョンは、テーマにまつわる意向や将来の結果を理解することを目的としています。
リサーチクエスチョンの例:消費者が特定の行動をとるのは何故か、あるいは他の選択肢ではなく特定の選択肢を選ぶのは何故かを尋ねるもの。
iii.解釈的なリサーチクエスチョン
解釈的なリサーチクエスチョンは、自然環境における人々の研究を可能にするものです。グループが様々な現象に関して共有した経験をどのように理解したかを把握するのに役立ちます。この種類の研究では、結果に影響を与えることなく、グループの行動に関するフィードバックを収集します。
リサーチクエスチョンの例:研究において、AIが出版プロセスの手助けをすることをどのように感じているか。
2. 定量的研究におけるリサーチクエスチョン
定量的研究、または量的研究におけるリサーチクエスチョンは、記述、比較、関係によって研究者の仮説を証明したり反証したりするものです。研究テーマを決めるときや、より多くの情報を得るための追試を行うときにも有効です。
i.記述的なリサーチクエスチョン
量的研究の質問の中で最も基本的なタイプであり、いつ、どこで、なぜ、どのように起こったかを説明しようとするものです。さらに、データや統計を使って、出来事や現象を説明します。
リサーチクエスチョンの例:何世代分の遺伝子が将来世代に影響を及ぼすか。
ii.比較のリサーチクエスチョン
ある事象と別の事象を比較することが有益な場合もあります。比較のリサーチクエスチョンは、従属変数を持つグループを研究するときに役立ちます。
リサーチクエスチョンの例:男性と女性の代謝は同等か。
iii.関係性に基づくリサーチクエスチョン
このタイプのリサーチクエスチョンは、ある変数が別の変数に及ぼす影響についての答えを探るものです。このタイプのリサーチクエスチョンは主に実験的研究で使用されます。
リサーチクエスチョンの例:干ばつがその地域の山火事の発生確率にどのような影響を与えているか。
良いリサーチクエスチョンの作り方
リサーチクエスチョンは研究デザインを導くものなので、研究デザインを作成する前に設定しておく必要があります。一般的な作成手順を示します。
1.テーマを選択する
良いリサーチクエスチョンを作成するための最初のステップは、幅の広い研究テーマを選択することです。リサーチクエスチョンからさらに研究が広がっていくので、自分が興味のある研究テーマを選ぶとよいでしょう。研究をより楽しいものにするために、自分が熱中できるテーマを選ぶことをお勧めします。
2.予備調査(文献レビュー)の実施
テーマを決めたら、その分野でこれまでにどのような研究が行われてきたのかを知るために文献レビューを行います。予備調査を行うことで、まだ研究されていないテーマについて書かれた論文を見つけ出すこともできるでしょう。先行研究が扱っていない研究テーマを探求することもできます。
3.読者(オーディエンス)を考える
良いリサーチクエスチョンを書くために最も重要なことは、提案するリサーチクエスチョンに対する答えを知りたがっている読者(オーディエンス)がいるかどうかを見極めることです。読者を特定することは、リサーチクエスチョンを洗練させ、定義されたグループに関連する側面に焦点を当てるのに役立ちます。また、リサーチクエスチョンを読んだ読者が研究の目的を理解できるように明瞭な問いとなるように注意しましょう。
4.候補となるリサーチクエスチョンを作成する
候補となるリサーチクエスチョンを作成するのに最良の方法は、自由形式の質問を考えてみることです。より広範なテーマの質問を考えることで、具体的な質問に絞り込むことができるようになります。また、文献で研究ギャップを特定することが、リサーチクエスチョンを作成するためのヒントとなるかもしれません。さらに、既存の仮定に異議を唱えたり、個人的な経験を用いて研究上の課題を再定義したりすることも可能です。文献レビューの結果も踏まえながらリサーチクエスチョンの候補を絞りこんでいきます。
5.リサーチクエスチョンの候補の見直し
いくつかのリサーチクエスチョンをリストアップしたら、それらが効果的な問いになっているかを評価します。評価する際には、リサーチクエスチョンの詳細や想定される結果についても考慮し、それがリサーチクエスチョンの基準を満たしているかどうかを確認します。
6.リサーチクエスチョンを構造化する
リサーチクエスチョンを明確にまとめるためには構造化する必要があり、定式化されたテンプレートを利用するとうまくまとまります。臨床研究でよく使われているテンプレートには、PICO形式(またはPICOT形式)と、“I”(Intervention介入)を“E”(Exposure暴露)に置き換えたPECO形式(またはPEO形式)の2種類があり、PICOは介入研究に、PECOは観察研究に用いられます。それぞれを順番に見ていきましょう。
PICOTテンプレートは、下に示す語の頭文字を拾った頭字語ですが、Tを除いたPICOの方がよく知られています。
- P(Patient/Participants):研究対象者(母集団、患者)または問題
- I(Intervention):研究対象であるインターベンションまたは指標、介入
- C(Comparison):比較、対照
- O(Outcome):結果、成果
- T(Timing):研究の時間軸、観察期間
もうひとつのPECOテンプレートは、PICOのI(介入)がE(曝露)に入れ替わったもので、こちらはCを抜いたPEOと表される場合もあります。
- P(Patient/Participants):研究対象者
- E(Exposure):曝露
- C(Comparison):比較、対照
- O(Outcome):結果、成果
リサーチクエスチョンの例
- アルコール依存症の遺伝的根拠の発見は、医療施設におけるトリアージプロセスにどのような影響を与えるか
- 人類による慢性的なかく乱に対して、生態系はどのように反応するか
- 生態学的相互作用がもたらす人口動態の影響とは
- 山火事からの再生において菌類はどのような役割を果たすか
- 景観における遺伝的多様性は
- 若年層の安全運転に役立つ教育戦略とは
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- 甲状腺機能低下症を発症するかどうかを予測する遺伝的要因とは
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どのようなリサーチクエスチョンが良いかは研究分野によっても異なります。ここに書き出した例を参考に、研究の目的を明確に示すリサーチクエスチョンを作成してみてください。
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