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第1節 

1 高度成長期

 高度経済成長は、重化学工業を中心とする産業の急速な発展と国民生活の物的豊かさの向上をもたらしたが、その過程において公害が各地で問題とされ、深刻な健康被害が発生するに至った。三重県四日市地域の石油コンビナートからのばい煙により発生したいわゆる四日市ぜん息や熊本県水俣地域の化学工場からの廃液により発生した水俣病などはその代表的な例である。また、全国各地で開発が進行し、自然の大規模な改変により豊かな自然が失われていった。
 こうした高度成長期における深刻な公害と自然破壊の背景としては、エネルギーや用水使用量の大きい重化学工業の発展、石炭から石油へのエネルギー転換による化石燃料の大量消費等とともに、狭小な国土条件の下で大都市圏を中心に人口が急速に集中し、産業の集積が高まっていったこと等が大きな要因になっていると考えられる。
(1) 大都市圏への人口の集中と産業の集積
 高度成長の過程で、地方圏から大都市圏へ大量の人口流入が見られた。特に、30年代後半の流入人口は年間60万人前後にも達している。40年代に入って流入人口は40万人前後に減少したものの、人口の大量流入は40年代半ばまで続いた(第2-1-2図)。これは、高度成長の過程で、大都市圏における労働力需要の増大、大都市圏と地方圏の所得格差の拡大を背景に若年労働力が大量に流入したこと等によると考えられる。
 産業についてみると、30年代に入ってから、海外資源に依存し、広大な用地と大型の港湾施設を必要とする鉄鋼、石油化学等の重化学工業が、大消費地に隣接し良好な港湾を有する太平洋ベルト地帯、特に大都市圏の臨海部(東京湾、大阪湾、伊勢湾の三大地域)に集中して立地された。この過程で、三大湾地域ではコンビナートの建設等により大規模な工業地帯が形成され、規模の経済により高能率、低コストの生産が可能となり、急速に工業生産が拡大していった。高度成長期における大都市圏の工業出荷額(名目)は35年から45年までの間に4倍強に増大している。
 この結果、40年代前半には国土面積の1割にすぎない大都市圏に人口の4割以上が居住するようになり、また、工業出荷額については全国シェアは若干の低下が見られるものの、依然として6割が集積し、極めて高密度な国土利用が行われることとなった(第2-1-3表)。さらに、工業用地造成のために海岸の埋立て等が行われ、自然の景観の喪失や水性生物、鳥類の生息地の消失、水質浄化機能の低下等がもたらされた。


(2) 都市化とモータリゼーション
 大都市圏への人口の集中、産業の集積とともに、都市化とモータリゼーションが進んだことも高度成長期における特色である。
 都市化の動向を人口の集積度を示す指標として用いられるDID(人口集中地区)人口でみてみよう(第2-1-4図)。全国のDID人口は、35年の4,083万人から45年には5,600万人に増加しており、増加率は35年から40年が15.8%、40年から45年が18.5%と全国人口の伸び(5.2%、6.5%)を大幅に上回る勢いで伸びている。このうち、大都市圏におけるDID人口は35年から40年にかけて20.6%、40年から45年にかけて20.3%と大幅な伸びとなっている。これに対し、地方圏では、それぞれ9.2%、15.7%にとどまっているが、地方圏においても都市化は着実に進んできた。
 こうした都市化の進行は、既成市街地に残されていた緑地を宅地等の都市的な土地利用に転換させ、また、既成市街地では吸収できなくなった人口を、市街地の外延的拡大という形で吸収していった。市街地の外延的拡大は周辺の緑を消失させるとともに、下水道等の生活関連の社会資本整備が相対的に遅れていたこともあって、水質汚濁等の問題を発生させることとなった。
 次に、モータリゼーションの動向を自動車保有台数でみると35年度末には340万台であったのが、40年度末には2.4倍の812万台、45年度末には5.6倍の1,892万台に増加している。とりわけ自家用乗用車については伸びが大きく、35年度末から45年度末にかけて21倍に増加している。モータリゼーションの進展は、道路面積当たりの自動車走行量の増大をもたらし、大都市圏を中心に自動車による排出ガス、騒音等の環境問題を発生させることとなった。

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