うつ病の症状はわかりやすい…と、一般的には思われがちです。好きだったことに興味がなくなったり、態度がコロコロと変わったり、異常なほどの食欲増加や逆に何も食べたくなくなったり…などなど、「目に見えてわかるものだ」という認識の方が多いはず。

 ですが、その症状が見えにくいこともあるようです。

 と言うのも、「症状が出ていない」と言うのではなく、「自分でも気づかないくらいの非常に微妙な変化にすぎないからだ」と言うのです…。そういった方は落ち込んだ気分を抱えながらも、職場や家族・友人の前では笑顔で接することもできてしまうとのことなのです。

 それを、「smiling depression(笑顔のうつ病、または微笑みのうつ病)」と呼んでいます。これは正式な医学用語ではないのですが、近年多くの報告が上がっている症状です。

 この2語からなる病、相反する言葉の組み合わせのようにも思えますが、米国ペンシルベニア州ピッツバーグの臨床心理士であるハイジ・マッケンジー博士によれば、「うつ病と笑顔は共存し得る」と言うのです。

 「微笑みのうつ病」について、より理解し、自分に症状が当てはまる場合にはどうやって助けを得ればいいのか、または、あなたのまわりにこんな人がいないか? さらに詳しく見ていきましょう。
  

微笑みのうつ病とは一体何なのか

 「微笑みのうつ病を抱える人は、感じている症状に蓋(ふた)をしてしまう傾向にあります」と、マッケンジー博士は言います。そして続けてこう話します。「どんなに最悪の気分であろうと毎日起床しては着替え、そして仕事へ行き、何も問題がないかのように周りの人たちと接することもできてしまうのです」とのこと…。

 さらに、マッケンジー博士によれば、笑顔のうつ病はアメリカでは「High Functional Depression(日本では、「高機能型境界性パーソナリティ障害」と訳されることも多いですが、意味合い的には「社会順応型境界性パーソナリティ障害」と言うべきでしょう)」や「持続性抑うつ障害(PDD)」の別名で、慢性的に悲しみを感じ、睡眠や食欲に影響を及ぼしたり絶望や疲れを感じたり、パニック障害を起こしたり、好きだった活動に興味が持てななくなる…といった症状が現れると言います。そしてそれは、まぎれもなく深刻な苦痛となるはずです。

なぜ「微笑みのうつ病」という病名はあまり知られていないのか

 アメリカ精神医学会が出した精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)におて、「smiling depression」という言葉で調べても見つかることはないでしょう。なので、この症状の程度を判断することは難しいわけです。が、専門家たちはこの言葉を、「軽度から中度のうつ病に対する呼称するのが妥当ではないか…」と考えています。

 このように若干曖昧である呼称であるからこそ、「逆に、それの症状に対して密かに悩んでいる方々を助けられるのではないか?」という希望を抱いてもいるのです。

 「うつ病というネガティブなイメージを打ち消すような、親近感を感じられる用語を使うことがここではポイントとなっています。そうすれば、症状を抱える人たちが助けを求めやすくなるでしょう。『いまの自分の変化は、うつ病のせいかもしれない』と、自ら心配する人も多くはないので…」と、ジョージア州アトランタにあるカイザーパーマネンテの精神科医であるカレン・スチュワート医師は言います。

 この考えにはマッケンジー博士も同意見で、「微笑みのうつ病/笑顔のうつ病」という呼称によって、「うつ病の人は一日中カーテンを閉めてベッドから出られない」といった"間違ったイメージ"を、解消できる可能性があると考えています。

 「もちろん、寝たきりになってしまう(大うつ病性障害のような)うつ病患者もいます。ですが、多くの人は仕事をして家族を持ち、笑ったり笑わせたりすることもできているのです」と、マッケンジー博士は話します。

 そこで、「自分は精神病のステレオタイプ(先入観や思い込みなどで類型化された観念)に当てはまらないので、自分は元気に違いない」と思い込んで…というよりも、むしろ「これらに当てはまらないのだから、大丈夫だろう。自分がうつ病のわけないし、うつ病かもしれないということで診察をうけるのも嫌だし…」という思いで自ら蓋をしてしまう人も少なくないでしょう。すると、その兆候がある方にとっては、その後の健康に長期的なダメージを与える可能性も多々あるのです。
 

【セルフチェック】
自分が「微笑みのうつ病」かどうか知る方法

 正しい1つの答えはありませんが、注意すべき兆候や症状はたくさんあります。毎晩疲弊しきってしまい、その理由が見当たらない場合には…「そのうつ状態を乗り越えるために、感情が活発になっている可能性がある」と、マッケンジー博士は言います。

 博士によると、次のような例が挙げられます。

  • 朝起きて、身支度をして仕事に向かうのがとても大変に感じる。職場に着いてからは、元気な従業員として振る舞うことができる(同僚に週末の予定を聞いたり、ランチの誘いにのるなど)が、その間も心ここに在らずといった空虚感を感じる。
  • 予算の調整や幼稚園で子どもたちの面倒を見るなど、仕事は何とかこなせるが、集中力が保てない。家に帰るとクタクタで、夕食も食べず服も着替えずにベッドやソファで眠りに落ちてしまう。
  • セルフケアを最後にしたのが、いつかも思い出せない。最低限のことをするのにエネルギーを使いはたし、ジムをさぼったり、不健康な食事で済ませたり、友人からの遊びの誘いをすっぽかしたりしてしまう。
  • 落ち込むことに対して罪悪感や恥辱感を持ったり、何もする気力が起きない自分を責めてしまったりして、常にネガティブな感情が湧いてしまう。
  • 受動的な自殺念慮(死にたい気持ち)がある。つまり、積極的に命を絶とうとはしないが、事故などで突然命を失うことを想像しても動揺を感じない。
これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

自覚症状があるか?
自分が「微笑みうつ病」かもしれない場合

 まずは、うつ病を恥ずかしいことだと思ったり、自分を責めたり、罪悪感を持たないようにしましょう。

 2017年のWHOの報告によると、うつ病の人は世界で推計3億2200万人に達し、地域別分布比で世界全体の48%を占めたアジアでは、1位が中国の約5668万人、次いで日本が約506万人という人々が、うつ病に苦しんでいるという数値が発表されています。

 ここで明言しておきましょう。うつ病を抱えていて、「助けが必要だ」と言うことは決して恥ずべき行為ではないのです。

 スチュワート医師は、2週間以上ほぼ毎日症状が現れるようであれば、主治医や心理カウンセラーにすぐに相談し、診断を受けることを推奨しています。それは、「うつ病である」と正式に診断を受けることで、自分がどのカテゴリーに属するのかを知ることが大きな前進となり、その後、適切な治療を進めることができるからです。また、以下のような3つのステップからなる治療法もあります。

 「治療には、『ライフスタイルを変える』、『セラピーを受ける』、『薬物療法』といった複数の選択肢があります。これらの中から自分に合うものを選べますし、いくつかを組み合わせて行うこともできるのです」と、スチュワート医師は言います。

 医師によると、ライフスタイルを変えるには食事や睡眠、運動を見直すことになります。薬物療法を選んだ場合、「ジェイゾロフト(別名:セルトラリン)」、「パキシル」といった気分を高揚させるセロトニンを増やす「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」を服用するそうです。

 セラピーを受ける場合は、思考や行動を制御して、気分を良くする方法が身につく「認知行動療法」が効果的だということです。

 どの治療法を選択するにせよ、医師や専門家はもちろん、家族や友人からもサポートを受けることが重要となります。うつ病の治療には時間がかかると言われていますが、「治療を続けていれば、次第にいい結果へと結びつく…」と、治療すればするだけ結果が期待できる病気でもあるわけです。

 「自分がベストな状態を出せなくても、日々自らを労って受け入れてあげるよう練習をすることが、快方への大きなステップになるでしょう。十分治療が可能な病気なのです。助けを求める一歩を、まずは早めに踏み出しててください」と、マッケンジー博士は締めくくってくれました。

From Women's Health US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。