《概要》

  • カラスには複雑な感覚分析ニューロンの発火(=ニューロン(神経細胞)が連続的な刺激の印加によって短い時間幅のスパイクを発生させる現象を「発火」と呼びます)を伴う、入り組んだタスクを実行する能力があることが2020年に行われた研究で判明しています。
  • カラスはさまざまな実務をこなすのみならず、個体間で知識を共有し、さらには死んだ仲間を儀式的な方法で弔(とむら)うことも分かっています。
  • そして新たな研究の結果、カラスの脳内には多くのニューロン(神経細胞)が高密度で存在しており、それがカラスを賢い生物たらしめているということが示唆されています。

カラスの賢い行動・記憶力についてのエピソード

カラスは、極めて知的な生物と言えます。例えば南太平洋のニューカレドニア島に生息するカラスは、鍵爪状に加工した小枝を使って朽ちた丸太から幼虫を捕獲することなどが分かっています。そして新たな研究の結果、カラスはわれわれ人間が考えているよりも、さらに賢い生物であることが判明したのです。

カラス属の鳥類(一般的なカラスのほか、カケス類、サンジャク類、オナガ類、カササギ類など多様な種類が含まれます)は、「自らの知識に自覚的であり、また自らの思いつきを熟考することがで」という論を展開するのは、科学専門誌『サイエンス』に2020年に掲載された研究報告です。

カラスの知能が高い理由

つまりカラスには、「自己認識能力が備わっている」ということになりますが、これはサルや類人猿など、人類に近いほんのひと握りの動物に共有している特性のはず。ですがここで、カラスも持っているということが報告されているのです。

カラスはその発達した頭脳を使い、例えば自動車の通過する道の上に木の実を置いて殻を割らせるなどといった、創造的な手段を編み出したりもするのです。

果たしてカラスは、
自意識が本当に備わっているのでしょうか?

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カラスの脳内には高密度のニューロンが存在している

「カラスの脳には情報処理に必要な脳細胞の数が多いため、問題解決のために思考し、答えを導き出すといったことに長けている」との推測も発表されています。これは人類のみならず、人類以外の霊長類にも見られる特徴ではあります。

ニワトリ、ハト、ダチョウ、カラスの脳を比較した研究報告が、2022年1月に神経科学の専門誌『ジャーナル・オブ・コンパラティブ・ニューロロジー』誌で掲載されました。その研究によると、カラスの脳内に凡そ2億~3億個のニューロンが高密度で存在しており、そのため脳細胞間の連携が効率的に行われていることが分かったというのです。

「カラスの知能は少なくとも一部のサルと同等であり、実際には(ゴリラなどの)大型類人猿に備わっている知能に匹敵する可能性さえある」と論じているのは、行動科学分野のオピニオン誌『カレント・オピニオン・イン・ビヘイビオラル・サイエンス』が2017年に掲載した研究報告です。

カラスの偉大な進化には必然性があった

2020年に行われた研究調査は、「カラスに複雑なタスクを与え、その反応を観察する」というものでした。

カラスがさまざまな作業をどのように感得し、またその作業を通じいかなる学習をしているのかを追跡すべく、種類の異なる神経細胞に起こる神経活動を測定しています。感覚性意識と呼ばれる特定の意識活動を観察することで、進化の系統樹における分岐点の謎に迫ろうと、鳥類にスポットライトが当てられたのです。

単純作業とは言え、高度な頭脳の活動が要求されるタスクを与えての研究報告には次のように書かれています。

カラスが試行を開始すると同時に(中略)強度の異なる微かな視覚刺激(=視覚系に活動変化を引き起こす外界の物理的実体一般のうち視覚系以外の生体メカニズムを経由しないものを指す)が起こります。その視覚刺激に対する反応を、赤色光と青色光の刺激を用いて観測したのです。赤色光を感知した場合には『イエス』の反応をさせ、青色光を感知した場合には反応をさせない、というルールで実験が行われました

感覚性意識とは何か?

感覚性意識とは何か
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感覚性意識(sensory consciousness)とはつまり、「対象に確実にアクセスすることで獲得される主観的経験を可能にするものであり、長い進化の年月を経ることでに備わるものである」と、研究報告には述べています。

霊長類の場合、意識の知覚は主に大脳皮質によって行われます。ですが、「3億2千万年前に哺乳類と分岐した」鳥類の脳が、霊長類の脳とは異なる進化をたどって来たことは明らかと言えるでしょう。ところが研究の結果として示されたのは、「カラスにもこの感覚性意識がある」という事実なのです。

つまりこの「意識が関与する神経伝達経路」が、哺乳類と鳥類とが分岐した時点では既に存在していたと考えることができ、「哺乳類と鳥類の脳には、共通する部分がある可能性がある」と2020年の研究報告は言っているのです。

鳥類と哺乳類とに共通した感覚性意識が備わっているという事実の解釈として、鳥類と哺乳類とに通じるひとつの祖先からその形質が受け継がれたという仮説を立てることができるでしょう。仮にこの仮説が正しいとすれば、意識の進化は少なくとも3億2千万年より以前、共通祖先である羊膜類(ようまくるい)から一方が爬虫類および鳥類に、もう一方が哺乳類にと枝分かれする前にまでさかのぼって起きた…と考えることができます

まとめ & 批判的な見解

今回の研究報告が掲載された『サイエンス』誌には、この仮説に批判的な見解を示すヴァンダービルト大学の神経科学者、スザーナ・エルクラーノ=アウゼル氏の意見も紹介されています。

「研究対象の神経構造が他の神経構造と類似性を持つのは、進化プロセスが共通していたためとばかりは言い切れず、むしろ物理的な特性による可能性がある」というのが、エルクラーノ=アウゼル氏の指摘です。神経構造の規模もまた、極めて重要な要素だと言います。

「複雑さのレベル、そして新たな事象や可能性が生じる確率は、そのシステム内のユニット数に比例するものと考えられます。例えるなら、わずか数千人という単位でしか人類が存在していなかった時代に成し得たことと、80億人という人口に達した現代(『世界人口推計2022年版』によると世界人口は2022年11月15日に80億人に達し、2023年にはインドが中国を抜いて世界で最も人口が多い国になると予測)において成し遂げ得ることとを比較するようなものなのです」と…、エルクラーノ=アウゼル氏は言い添えています。

いずれにせよ、カラスが誇るに足る頭脳の持ち主であるという点については変わりません。

Source / Popular Mechanics
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。