半幅帯はおしゃれの選択肢のひとつ

着物スタイリストである私の立場は、「着物はおしゃれ着」。美しい着姿の発信を本分としており、日常着や作業着として着物を捉えることはありません。

個人的にも、着物はお出掛け用で、そのなかで半幅帯を選ぶのは、少し個性を出したいときや、締め付けを感じず長時間楽しみたいとき。

つまり、半幅帯も普段着というより、おしゃれの選択肢のひとつと考えています。

着物コーディネート 黒無地のシルクウールに白地の半幅帯
撮影=森山雅智
小さな市松模様の地紋が入った黒無地のシルクウールに、花結び模様を型染した白地の半幅帯を合わせた、お得意のモノトーンコーデ。カジュアルになりすぎないよう、帯〆を足して色みをアクセントに。

多様な結び方で個性を出せる半幅帯

半幅帯のコーディネートは、引き算の難しさがあると感じます。また、楽であることは着くずれやすさと表裏一体。

気軽な印象と裏腹に、着つけや所作に気を配らなければ使いこなせません。けれど一筋縄でいかないところが、かえって魅力的でもありますよね。

着物コーディネート 紺地の結城紬に黒地の博多織半幅帯
撮影=森山雅智
紺地の結城紬に黒地の博多織半幅帯を合わせたモダンな装い。暗色同士の組み合わせに、帯に通ったエメラルドグリーンのラインが際立っています。シンプルながら、小物なしで過不足なく整っています。

そんな玄人好みするアイテムの、一番の見どころは後ろ姿です。半幅帯の帯結びほど、その人を表すものはないと私は思います。

文庫結びを好むのはふんわり可愛い印象の方が多く、一方、粋でクールな好みの方は貝の口や矢の字を選びます。

着物スタイリスト・大竹恵理子さん 後ろ姿
撮影=森山雅智
「昔ながらの色と敬遠していた臙脂(えんじ)色が、近ごろ気になります」という大竹さん。長井紬の着物に、焦げ茶と紺の組み合わせがシックな桐生織の半幅帯。帯留と三分紐で、きちんとした印象の装いに。

その中間の方、テイストをはっきり出したくない方には割り角出しが人気ですね。はい、私はもちろん貝の口派です(笑)。

なごや帯のお太鼓結びが規定演技だとしたら、多様に結んで個性を出せる半幅帯には、自由演技の面白さがあります。

今後も自分らしく美しい着姿を目指します。

「東レシルック」の縞柄の小紋を、半幅帯の一本独鈷が切れ味よく貫く粋なコーディネート
撮影=森山雅智
「東レシルック」の縞柄の小紋を、半幅帯の一本独鈷が切れ味よく貫く粋なコーディネート。見慣れた博多織も要素を削ぎ落としたことにより、新鮮な魅力を放ちます。何と合わせても格好よくきまる頼れる一本。

おおたけ・えりこ◉2006年、株式会社くるりに入社し、広告などビジュアル全般を担当。’13年に独立し、スタイリストおよび着つけ師として広告、雑誌、書籍、CMなどで活躍中。女優からの信頼も厚く、『半幅帯の本』(河出書房新社)など著書も多数。

半幅帯の本: 普段きものがもっと楽しくなる

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撮影=森山雅智 ヘア&メイク=金田恵理子
「美しいキモノ」2020年秋号より