在日ファンク浜野謙太──音楽と政治の問題をいま一度考える

ファンクバンド・在日ファンクのリーダーを務める浜野謙太は、積極的にTwitterで政治的な発言をしたり、デモに行ったりしている。その背景にある問題意識について訊いた。

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「映画『ブルース・ブラザース』から〝白人でもブルースに出会える〟というメッセージを受けとった僕は、ずっと日本でブラックミュージックをやることの意味を考え続けてきました」

そう語るのは、バンド、在日ファンクのフロントマンであり、役者としても活躍する浜野謙太だ。浜野はジェイムス・ブラウンを高祖としたファンクの歴史のなかで受け継がれてきた問題意識やメッセージを、その歌とリズムに込める。

「『アメリカでは、黒人差別などのハードな社会状況のなかでブラックミュージックが必要とされてきたけれど、日本は平和だから……』と言われることにすごく違和感があるんです。日本にも差別があって、さまざまな社会問題を抱えている。ブラックミュージックは、そうした問題意識や社会に対する姿勢を根本的に共有してくれている。音楽的な要素を組み合わせるだけではダメで、社会状況のなかで意味がある言葉をのせるからこそ、歌もリズムも重く響くんです」

浜野は、2020年にTwitterの個人アカウントを開設して以降、積極的に政治にまつわる発信をし続けている。そのきっかけは、検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案にたいして、「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグとともに広まった抗議の声だった。きゃりーぱみゅぱみゅの投稿をはじめとして、次々と上がるミュージシャンや芸能人の抗議の声に触発され、「2015年の安保法制改正法案の強行採決からずっと怒りを抱いている自分が、何も言わないのはおかしいと思った」という。

日本ではまだ反発を生むことも多いが、海外では著名人が政治的なスタンスを表明することは珍しくない。浜野は「たしかに見当外れなリプライが飛んでくることもあるけれど、むしろ応援の声やTwitterを通した出会いのほうが多いです」と語り、「僕の音楽は真面目にやっているところを面白がってもらうようなノリがあるから、Twitterでは皮肉を言って優越感に浸るのではなく、メッセージがよく伝わるようなパワーのある言葉を発信していきたい」と思いを込める。

今年7月の参議院選挙の際には、投票を呼びかける動画プロジェクト「VOICE PROJECT」に参加し、「政治的な考え方が合わない人とも仲よくできる」というメッセージを寄せた。「有権者自体のレベルが上がらないと、政治の暴走に歯止めが利かなくなります。だから、普段からもっと、いろんなかたちで政治的な話をしていきたい。かたちを変えることによって、世代や立場を超えて話をすることができるはず」と語る。

文脈を無視する滑稽さ

同じ参議院選挙では、音楽業界4団体による自民党公認候補・生稲晃子氏らへの支持表明が問題となった。その流れのなかで、2016年のフジロックの「音楽に政治を持ち込むな」論争が形を変えて振り返られるようになった。すべての命が政治と無縁ではありえないのと同じように、音楽もまた政治と切り離すことはできない。浜野は、2016年の議論を振り返って、「歴史や文脈を軽んじて音楽を理解できるとは思えません。どうして技術的な部分だけを取り出して音楽が成立すると思えるのか、不思議に思えてなりませんでした」と怒りを滲ませる。

「安倍政権から続く自民党政治も同じで、どんどん文脈を無視していく。音楽も、いまそこで鳴っている音だけを切り取ることはできないはずなんです。いろいろなことを超越した末に、音だけを感じられる領域に到達することは理想だけれど、文脈を飛ばしてはそうなりえない。どんな音楽にも政治性があり、政治性を切り離したところで、『政治性のない音楽』という別の政治性が生まれてくる。いろんなことに見て見ぬ振りをするうちに、もっと恐ろしい流れに巻き込まれることだってあると思います」

その背景には、社会を覆う政治への無力感によって、即時的な快楽や冷笑的な態度に囚われてしまう社会状況があるかもしれない。浜野はこう疑問を投げかける。「何かを批判したり、議論したりすることにたいして、『結局そんなこと言っても何も変わらない』と悲観的に思う人が多いんでしょうね。個人が体制と一体化して、用意された正解のなかでどう振る舞うか、という感覚に陥ってしまっている。反抗したり、『嫌だ!』と表明したりすることが忌避されてしまい、そういう反抗的な表現によって社会を建設的な方向へ運んでゆく、という考え方自体が浸透していないんです」

そうした社会を前に、浜野は「怒りを秘めながら曲を書く。変にポップになりすぎない」ことを意識しながら、あくまでも聴いて楽しめる音楽を志向する。

「妻と政治的な話をする機会も増えて、そんな夫婦ってどうなんだろう?と思うこともありました。でも実際には楽しく過ごせている。だから音楽だって、怒りや皮肉やいろんな感情が混ざったうえで楽しめるものがありえると思うんです。デモも同じで、いろんな年齢や境遇の人がごちゃ混ぜになって行進している。デモという場が、そうやって刺激を受ける場所として浸透していくといい。実際にデモに行くと、若い人もたくさんいるんです。おかしいと思う問題に大人たちが声を上げて行動することは、確実に新しい世代に伝わっていく。怒っているけど何もやらないよりは、一歩前に出ることが必要だと思っています」

KENTA HAMANO

浜野謙太

ミュージシャン/俳優

1981年8月5日生まれ。神奈川県出身。バンド「在日ファンク」のボーカル兼リーダーで、俳優としても多数の映画やドラマに出演。11月30日に在日ファンクのデジタルシングル「身に起こる」が配信開始予定。12月3日にはワンマンライブ「身に起こるthe Oneマン」が恵比寿リキッドルームにて行われる。

WORDS BY KOHEI SUGIMOTO 

PHOTOGRAPH BY HIROYUKI TAKENOUCHI

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