【進化View】HIVの進化と薬剤耐性

HIVの進化と薬剤耐性

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は患者の体内で増殖を繰り返す。その過程で多くの突然変異(注1)が生じる。突然変異の多くはウイルスの生存や増殖に影響を与えないか,悪影響をもたらすと考えられる。しかし,まれにウイルスに薬剤耐性をもたらすような突然変異が生じる。患者が薬を服用すると,ウイルスに自然選択(注2)がかかり,薬剤の存在下でも増殖できる薬剤耐性ウイルスは,そうでないウイルス(野生型)よりも相対的に速くふえることができる。すると,次第に薬剤耐性をもつウイルスは患者の体内でその割合(頻度)を増す。やがて,ほとんどのウイルスが薬剤耐性を示すようになる。また,薬剤耐性ウイルスの割合が増えると体内でのウイルスの絶対量が増えることになり,患者の健康に影響を及ぼすようになる。なお,このような薬剤耐性ウイルスの出現を防ぐためには,適切に薬を服用することが大切である。

HIVの薬剤耐性の獲得は身近に短時間で生じる進化のよく知られた例である。同様の例として,細菌の抗生物質への耐性獲得や,農業害虫の農薬に対する抵抗性の獲得がある。

注1:突然変異

DNAの塩基配列や染色体が変化すること。突然変異が起こると,形質が変化することがある。

注2:自然選択

環境に適応した形質をもつ個体は,より多くの子孫を残すことができるため,集団内でその形質をもつ個体の割合が増えること。

【参考文献】

  • Coffin , J . M . 1995 HIV population dynamics in vivo: Implications for genetic variation, pathogenesis, and therapy. Science 267, 483–489.

【参考ウェブ】