耕す女子たち vol.11

農的な暮らしって、田舎に住まなければできないの?
いえいえ、そんなことはありません。東京郊外で畑を借り、自宅の庭先で鶏を飼い、自然な暮らしを楽しむ耕す女子を紹介します。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

タマネギが植わっていた畝を整理して、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕す奏子さん。
茂也さんは子どもたちをお世話しながらひと休み

今回の耕す女子

東京都あきる野市東奏子さん(あずまかなこさん)
1979年生まれ。東京都大田区出身。東京農業大学卒。畑歴4年。夫と2人の子どもと4人家族。主婦業のかたわら、昔ながらの知恵を生かした暮らしぶりをブログで紹介。『布おむつで育ててみよう』(文芸社)、『捨てない贅沢』(けやき出版)を出版。

週末は家族4人で畑仕事 

東京西部を走るJR五日市線の終点武蔵五日市駅。東奏子さんが、4年ほど前から家庭菜園用に借りている畑は、駅前ロータリーから歩いて2、3分の住宅地の一角にある。 60坪ほどの畑には、トウモロコシやキュウリ、トマトなど、何種類もの野菜がところ狭しと植えられている。奏子さんは、4歳になる希美ちゃんと1歳の翼作くんを傍らで遊ばせながら、夫の茂也さんとともに農作業に精を出す。週末は、もっぱらこんなふうに家族で一緒に畑で過ごすことが多いという。

「子どもを自転車で幼稚園に送り迎えするついでに畑に立ち寄ることもあるんですよ」

腐葉土をつくろうと、山間にある幼稚園の近くで、毎日、落葉をかき集め、自転車のかごに乗せて持ってきたりもしたが、「一生懸命集めたわりに、たいした量になりませんでしたね〜(笑)」。

「お腹がすいた〜」との希美ちゃんのリクエストに応え、畑のニラを使って「平焼き」をつくることに。ミニホットプレートで焼き始めると、次第に香ばしい香りが漂ってきた。よく野菜づくりを教わっている畑の地主の清水哲雄さんらも加わり、皆でひと休み。子どもたちが平焼きを頬張る姿が何ともかわいい!

一服した後は、雑草が生え始めた前作の畝(うね)をガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕して、次作の準備だ。

「家庭用ガスボンベでこれだけのパワー。安全だし扱いもラクでいい」と、奏子さん。

小回りがきくので、家庭菜園には心強い存在だ。奏子さんの影響で野菜づくりを始めた茂也さんも、今や奏子さん以上によく働き、農ある暮らしを楽しんでいる。

このごろは収穫や草取りなどをお手伝いしてくれる希美ちゃん。この日もニラの収穫で活躍
「やっぱり野菜の出来は、プランターより畑のほうが断然いい」と、奏子さん
ウコッケイを放し飼いにしている庭先。この日はご機嫌斜めで、家の床下から出てこなかった

農家の暮らしに憧れて

東京とは思えないほど豊かな自然が残る東京・あきる野市。25歳で結婚。翌年、出産したのを機に、のんびりとした環境を求めてこの地に越してきた奏子さんだが、もともとは生まれも育ちも東京・大田区。生粋の下町っ子だ。

緑の少ない地域とはいえ、奏子さんの幼少の頃は、近隣には空き地が残り、虫捕りなどをして遊んでいたという。ところが、年々、開発が進み、わずかな空き地が次々に消えていった。そんな中、自然を守りたいという気持ちが芽生え、大学は、環境問題が学べる東京農業大学(森林総合科学科)に進んだ。

畑仕事の初体験は大学1年の夏休み。農業ボランティアで秋田県の農家に2週間滞在した。一粒の種から作物を育て、それを食する喜び。また、生活そのものを自らの手でつくり出す農家の暮らしに憧れ、その後も、春と夏の休みには全国各地の農家に滞在。農作業はもちろん、郷土料理やその土地の生活習慣などを教わった。

畑の隅々まで細長い畝が何本ものびる。自給自足とはいかないが、ネギやゴマなどは買うことはないとか
移動用車輪一体型のキャリースタンドとキャリーボックスが標準装備されている「ピアンタ」。移動も収納もラクラク
奏子さんの草取り作業中、虫捕りや土いじりに夢中の希美ちゃんと翼作くん

「野良着は動きやすくてシンプルなものが好き」だという。だから上着はいつもかっぽう着。日除けや汗対策のストールは、綿麻の生成りの生地を買ってきて、それを3等分して3枚つくったうちの1枚。「これは古くなってしまったお茶で染めました」。暑いときは熱中症対策で中に保冷剤を包んで使っている

卒業後は、税理士事務所に就職するも、「3年働いて300万円貯め、田舎暮らしをする」ことを夢見て、ひとり暮らしを始めた古いアパートの窓辺で野菜を育てる日々。そんな奏子さんの生活ぶりを見て、ある時、大家さんが「庭を自由に使ってもいいよ」と声をかけてくれた。そして、わずかな敷地を畑にして野菜づくりを楽しむうち、「何も田舎に移住しなくても、工夫次第でいろんな作物を育てることはできるんだ」と、気持ちが変わってきたという。

同じ職場で働いていた茂也さんと結婚し、あきる野市に越してからは、プランターや共同農園で野菜づくりを続けた。そんな折、馴染みの食事処「初後亭(しょうごてい)」の店主・清水さんから、所有する畑の一部を貸してもらえることになり、初めて本格的な自給畑に挑戦することになった。

「上の子がまだ小さかったので、おんぶしながら耕して…。近所の方から種まき時期や輪作などについて教わりながらやりました」

地主の清水さん(右前)や畑のお隣さんらと一服。ガスパワー発電機「エネポ」にミニホットプレートをつないで、ニラの平焼きをふるまった
産みたての卵と、梅や野草など身近な食材でつくった加工品。「捨てることを嫌い、どんなものでも工夫して利用していた祖母が私の生き方の手本です」
子育ての合間に手づくりした品々。中央上から時計回りにおんぶ紐、おむつカバー、じゅず玉のブレスレットとお手玉。亀の子(左)は近所の方からのいただきもの

近所のお年寄りから
昔ながらの知恵を学んで

住まいは、築60年の日本家屋。懐かしい感じが気に入り購入を決めた。ちゃぶ台や火鉢、足踏みミシンなど、家の中に残っていた古い家具や道具もそのまま使っているという。

お邪魔すると、手入れの行き届いた庭先に、ハーブやゴーヤ、フキ、ミョウガなどが栽培されていた。ウコッケイも2羽飼っており、「卵は、2羽で年間200個以上とれます」と、奏子さん。餌は野菜くずを与え、鶏糞は肥料に利用。雑草や害虫も食べてくれるので、鶏との生活はなかなか快適だという。

「このお茶飲んでみてください。幼稚園の裏山のスギの葉っぱでつくったんですよ」

台所から顔を出した奏子さんが、カップを差し出した。ひと口いただくと、さわやかなハーブティーのような香りがする。見れば、台所の棚には、漬物や乾物、お茶などが入った保存瓶がずらりと並んでいる。奏子さんは、昔ながらの知恵を学びたい、食材を無駄なく使いたいという思いから、近所のお年寄りを訪ねて、身近な旬の素材を調理する方法を聞き書きして歩いているという。その成果が、梅干しやラッキョウ漬けなどの保存食や、かぼちゃの種のお茶、スイカの皮の漬物などなど「もったいない料理」だ。

奏子さんの好奇心は、食だけにとどまらない。庭で育てたじゅず玉でお手玉をつくったり、とうもろこしの皮でぞうりを編んだりと、昔ながらの無駄のない、環境負荷の少ない暮らしをとことん実践している。

「以前は田舎暮らしに憧れましたが、今は東京のサラリーマンの家庭で、どれだけ自然な暮らしができるかを追求することに興味があります。近所のお年寄りから教わったことなどを自分の生活に取り入れて、それをブログなどで発信、提案することを、ライフワークにしたいです」

節電対策の一つとして、日々の食事は日差しの差し込む縁側でいただく
「エネポ」はカセットガス*が燃料で、充填・交換も簡単。2本で最大約2.2時間発電可能。本体前面にシールを貼って自分流に楽しむこともできる

*メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。
注)エネポは使用する際に、濃度の高い一酸化炭素が発生しますので、屋内での使用は絶対禁止です。

畑のレシピ
  1. 1.きゅうり、大根、なす、にんじんなどの野菜を、輪切りやいちょう切りで食べやすい大きさに切る。塩をひとつまみ加えてもみ、少しおく。
  2. 2.水気が出たら絞り、醤油、みりん各1/2カップを加えて、1日下漬けする。
  3. 3.醤油、みりん各1/2カップ、砂糖大さじ1を合わせてひと煮立ちさせ、冷ます。
  4. 4.2の汁気を絞り、3の漬け汁に入れる。

*翌日から食べられる。保存は冷蔵庫で2週間ほど。

  1. 1.ニラは適当な長さに切る。
  2. 2.ボウルに1のニラと小麦粉、小エビ(またはかつおぶし)、水、塩を少々入れて混ぜる(生地はお好み焼きくらいのトロトロのかたさ)。
  3. 3.フライパンに少量の油を入れて、2の生地を平たくのせて焼く。両面焼いてできあがり。
  4. *お好みで、醤油やソース、味噌をつけていただく。