体質的にアルコールを受け付けない人というのがいるじゃないですか。
いわゆる「下戸」。日本人は特にその割合が多いそうなんですね。で、下戸なのに、飲み会に必ず参加する人っているじゃないですか。ソフトドリンクを飲みながら、楽しそうに参加してる。
そういう人たちって、我々飲兵衛にしてみれば、ちょっと謎な存在なんですよね。
というわけで、今回は「下戸だけど飲み会は大好き」という3人にお集まりいただきまして、下戸の人はどんなことを考えているのか、聞いてみることにしました。
▲我々の飲み会によく参加している「下戸だけど飲み会は大好き」な三人
都内の某チェーン系居酒屋で「下戸飲み会」のはじまり
── それでは自己紹介からお願いします!
酒徳:酒徳ごうわくです。映像作家です。名前に「酒」の文字が入ってますが全く飲めません!
空頭:野球観戦家のプロ空頭です。親子三代に渡っての生粋の下戸です!
VARI:福祉ギタリストのVARIです。若い時に悪い友達にブランデーを飲まされて急性アルコール中毒で倒れてから、僕の下戸道は始まりました。ちなみに中間テスト前日だったので、テストの結果はさんざんでした。
── では、みなさん、お飲み物は何を注文しますか?
酒徳:ジンジャーエールで。
空頭:さっき渋谷のクラブで烏龍茶キメてきたので、今度は冷たい緑茶もらおうかな。
VARI:とりあえずコーラお願いします。
── あの、居酒屋さんの料理にコーラって合うんですか?
VARI:どうしても下戸は飲み会だと肩身が狭いので、メニューを見ないでも注文できるのがいいんですよ。コーラと烏龍茶は、どこのお店でも必ずありますからね。
空頭:メニューをさんざん見て悩んで、「結局、ソフトドリンクかよ」とか言われますからね。
酒徳:そもそもメニューで、どこにソフトドリンクが書いてあるのか探すのが大変だったりしますからね。
── なるほど。ここのメニューでも、アルコールは見開きいっぱいに書かれてますが、ソフトドリンクは1/2ページですね。
空頭:これなんかいい方ですよ。普通は、隅っこにちょっとだけですから。
今日は僕らも下戸の気分を味わおうと、ノンアルコールで通すことにしました。
▲お酒を選ぶのはあんなに楽しいのに……
── さて、何を飲もうかな……。こんなに飲み屋さんのメニュー見て、心が踊らないのは初めてだ……。
僕とカメラマンのねじ君は、ジンジャーエールにしました。
── それじゃあ、おつまみはどうしましょうか。
VARI:えーと、空芯菜とカキのオイスター炒めと、梅水晶と。
── え、梅水晶! そりゃまたずいぶん渋い物を!
梅水晶とは、サメの軟骨と梅肉をあえた物です。日本酒には大変合う通好みの一品です。
── あの、コーラと梅水晶って、合うんですか?
VARI:合うわけないじゃないですか! 飲み物と食べ物は、別々に味わいます。基本的に、飲み物と食べ物の相乗効果って、わからないんですよね。
── マリアージュを考えない。
VARI:考えないですね。本気でマリアージュしたいと思ったら、いきなりご飯たのみますよ。ご飯とマリアージュ。
空頭:気心がしれた人だけだったら、いきなりご飯いきたいですけど、やっぱりそれはちょっと気を使いますね。
酒徳:どうせ居酒屋さんに来たんだったら、居酒屋さんらしいメニューを頼みたいんですよ。
▲居酒屋さんらしいメニューにこだわる酒徳氏
── 確かに梅水晶は、定食屋さんにはない。
酒徳:ということで、ホッケ行きましょうか。
空頭:あと、やっぱり焼鳥も外せないですね。
ソフトドリンクを頼む時の気持ちとは?
店員さんを呼んで注文します。
── 空芯菜とカキのオイスター炒め、梅水晶、ホッケ、浅漬けキュウリ、焼鳥盛り合わせ、だし巻き明太チーズ、あとエリンギと長芋のバター炒めをお願いします。
店員さん「お飲み物は?」
── ジンジャーエールを3つ、コーラを1つ、緑茶を1つ。
店員さん「……かしこまりました」
注文を取って、去っていく店員の背中を見ながらVARIさんが言いました。
VARI:ほら、今の一瞬の間。大の大人の男が5人もそろって、全員ソフトドリンクかよって目をしてましたよね!
▲店員の視線を気にするVARI氏
空頭:「それならファミレス行けよ」みたいなね。
酒徳:我々はあの視線にさらされて生きてきたんですよ!
── いや、それは被害妄想な気もしますが……。でも、確かに気恥ずかしかったなぁ。料理が酒のつまみ的なものばっかりだったぶん。
VARI:飲兵衛の好きな料理、好きなんですよ。だから、飲み会でも僕が頼んじゃうことが多いですね。
── いきなりご飯物はいかないんですか?
VARI:本当はいきたいんですけど、ちょっと気を使ってみました。じゃあ、次はご飯物いきますね。
── あの、飲まない人同士だった時は、どういうお店に行くんですか?
酒徳:時間にもよりますね。早い時間なら喫茶店。17時くらいならファミレス。もっと遅いなら居酒屋さんにも行きますが……。
VARI:ちゃんとした居酒屋さんは行きづらいですね。やっぱりこういうチェーン店。
空頭:赤羽とか蒲田とかは、飲む人に連れて行ってもらえないと、行けないですね。
▲本当は渋い飲み屋さんにも一人で行ってみたい空頭氏
VARI:一人だと、飲み屋街とか入れるお店の選択肢が無いんですよ。こんなにたくさんお店があるのに、ミスタードーナツと松屋しか入れない、みたいな!
空頭:困るのは旅先ですね。名物料理とか、軒並み飲み屋さんじゃないですか。
VARI:そういう意味で井之頭五郎は下戸界の星ですよ! 『孤独のグルメ』のおかげで、下戸でもああいうお店に行ってもいいんだってことになりましたからね。
ここで、飲み物到着。すべてのグラスにストローが刺さっています。
VARI:このストローが重要なんですよ。ソフトドリンクですよって証です。
── あー、なるほど。
というわけで、ストローがささった5つのグラスで乾杯です。
▲ノンアルコールドリンクで乾杯!
酒徳:でも、飲む時はストロー外すんですけどね。
── え、なんでですか?
酒徳:ストローさえなければ、お酒を飲んでるように見えるじゃないですか。ジンジャーエールなんて、ほら、(見た目は)ハイボールですよ。
▲確かに言われなければハイボール
空頭:コーラだといかにもコーラって感じですけどね。最近、下戸界では、ジンジャーエールがメジャーですね。
酒徳:やっぱり飲み屋さんでは、下戸であることを気づかれたくないんですよ。目立ちたくない!
▲こう見ると、普通に酒を飲んでいるような3人
▲ソフトドリンクだけでも、お通しは付いてきた
ソフドリでも「危険」!?
── うーん、ビールだと一気にグビグビっと飲んじゃうんだけど、ソフトドリンクだと、そういう感じにならないなぁ。
VARI:いや、我々もひと口目は一気に飲まないですよ。危険ですから。
── 危険?
VARI:万が一の誤爆に備えるてんです。
酒徳:コーラと言っているのに、コークハイで来ちゃうことがあるんですよ。
VARI:僕、2日前にシークワーサーで誤爆くらいました。
酒徳:ああ、怖い!
▲いかにも居酒屋さんっぽいオーダーがそろう。そしてソフトドリンクを飲む
空頭:オーダーの時に、語尾が強くなりますよね。「烏龍、茶! でお願いします」とか。それでも間違えられることがある。
VARI:こういう大型の居酒屋さんでは特になんですが、基本的にカルピスは頼まないですね。カルピスは一番誤爆の危険性が高いんですよ。
酒徳:あの甘さでひと口ふた口までわからない時があるんです。それでぶっ倒れることがありますから。
VARI:シークワーサーの時も、帰りの駅でトイレにかけこんで、ゲーゲー吐きましたからね。
空頭:ストローが差してあっても、信用しちゃいけない。間違えている可能性もあります。
VARI:なので、ひと口目は少しだけ口に含んで、本当にアルコールが入ってないのか、チェックするんです。
── ま、まるで食事の毒を警戒する戦国武将のような……。
VARI:でも、一緒にいる飲める人に確かめてもらっても「これは入ってないよー」なんて言うんですよね。いや、入ってるんだって!
空頭:同じ烏龍茶を頼んで安心してても、3杯目に誤爆されることもありますからね。
▲アルコールが入っていないことを確認して、グイっとコーラを飲むVARI氏
── 常に危険と隣合わせなんですね。
VARI:気が抜けませんよ!
── しかし、みなさんは下戸であることが悔しかったりするんですか?
VARI:悔しいですよ! 仕事終わりでクタクタに疲れて、帰り道にラーメン屋さんとかで、野球中継を聞きながら定食とビールを楽しむような大人に憧れていたんですから! それができないのが残念ですよ。しょうがないから、焼鳥買って帰って自宅でジンジャーエール飲みながら、エア晩酌やってます。
酒徳:瓶ビール注ぐのとか憧れますよね、大瓶で。
空頭:スナック文化とか、自分の性に合うんだけど、飲めないから誰かに連れて行ってもらわないとお店に入れないんですよ。すごい悔しい。あとひとりだと角打ちとか入れない。
▲玉袋筋太郎さんのイベント「スナック玉ちゃん」でスナックの魅力に目覚めた空頭氏
酒徳:ノープランで飲み屋さんには入れないよね。車で来てるから今日は飲めないんだとか言ったりして。免許も持ってないんだけどさ(笑)。あと、もう飲みすぎてるから、お酒はいいや、とか小芝居して。
▲飲めない理由の小芝居をしてしまうという酒徳氏
VARI:飲みに行って女性を口説くとか出来ないじゃないですか。飲み会でも女性に、男として見られていない感じがしますよね。
── ああ、確かに「今度、飲みに行こうか」って手が使えないわけですからね。ところで、みなさん2杯目はどうしますか?
酒徳:今日は楽しいから、ジンジャーエール2杯目行っちゃおうかな。
VARI:僕はホットのジャスミン茶を。
空頭:このソフトドリンクカクテルのシトラススカッシュってのを。
── おれ、どうしようかな……。
VARI:安田さんもねじさんも、いつもならもう5杯くらい飲んでるでしょ。でも今日はまだ1杯目……。
▲ジンジャーエールがなかなか減らない安田
── いつもは最初のビールはふたくちで飲んじゃうからねぇ。でもジンジャーエールだとなぁ。
カメラマン・ねじ:今日はホントに進みませんねぇ。
VARI:でもね、今日は僕らも進んでいないんですよ。いつもは飲む人のペースに合わせてるから。ペースが早い人たちと飲んでると、もうコーラ何杯も飲んじゃったりする」
── ソフトドリンクって、そんなにたくさん飲めるものなの?
VARI:飲めないですよ。飲めないけど、つられて飲めちゃう。
── みなさん、そろそろご飯物食べたいんじゃないですか?
空頭:じゃあ、このサーモンハラスのあぶり寿司を。
酒徳:キムチチャーハンを。あと、エイヒレ食べたいですね。
── エイヒレ? ソフトドリンクで?
VARI:大好きですよ。うまいじゃないですか。
酒徳:別に酒とか関係なくうまいと思いますけどね。
▲エイヒレをつまみに一杯やって幸せそうな空頭氏(飲んでいるのはノンアルコールのシトラススカッシュ)
▲幸せそうにポットからジャスミン茶を注ぐVARI氏
飲める人たちのわからないところ
VARI:そういえば、飲む人は最後に締めとか言うじゃないですか。あれがわからない。
── 飲んだ後に、ご飯物とかラーメンとか食べたくなるって奴ですよね。
酒徳:飲んで酔っ払って、さらにラーメンって意味がわからないですよ。吐いたりしないんですか?
▲締めのラーメン無用論を語る酒徳氏
── まぁ、だいたい後悔したりしますね。食べなければよかった、とか。
カメラマン・ねじ:僕は締めにビックマック食べるの好きなんだけど、まぁ、お腹は苦しくなりますね。
VARI:ご飯物とかは、最後に食べるんじゃなくて、途中で食べてた方がいいと思うんですよね。
酒徳:そう言えば、はしご酒っていうのもわからないですね。2次会、3次会って概念がないんですよ。
VARI:このまま1軒目で終電までいても全然いいじゃないですか。
空頭:河岸を変えるって発想がないんですよね。
酒徳:なんでわざわざ他のお店に行くのか。
── 確かに……なんでだろう。
酒徳:あと、終電逃すのはすごい怖いですよね。始発まで、ずっと居酒屋さんにいなくちゃいけないのかって。
VARI:それ、すごいわかる。11時45分くらいになった時のソワソワ感。
酒徳:え、この人たちと朝までいなくちゃいけないの? って。みんなどんどん崩れていって、ガラ悪くなっていくし。
VARI:彼らは気持ちよく寝ちゃったりするけど、こっちはそうもいかない。
空頭:知らない人ばっかりだった時なんて、最悪ですよね。
── ああ、おれたちの終電逃しちゃった時の「しょうがないなぁ、朝まで飲まなくちゃいけないな」(ニヤニヤ)みたいなのとは、違うんだなぁ。
VARI:なんかあった時はおれが面倒みさせられるのかっていう。
空頭:敗戦処理はおれか、みたいな(笑)。
▲「まるで梅酒なノンアルコール」を複雑な表情で飲むカメラマンのねじ氏
── でも、飲んでないのに、酔っ払ってるみたいな人、いるじゃないですか。
空頭:つられちゃうんですよね。
VARI:みんなの様子をみつつ、アクセル踏んでいきますね。よし、ここまで行っていいんだ、って。
空頭:言われたこと、ありますよ。ものすごい説教酒だったけど、烏龍茶じゃねぇかって(笑)。シラフで怒鳴ってたのかって。
VARI:学生の頃、サークルのりで飲み屋さんで全裸とかなってましたけど、今思い返すとシラフでやってたんですよね。
── それは、ただの露出狂……。
空頭:不思議に思うのは、この人たちはなんで酒を飲まないとこういうこと言えないんだろうっていうね。おれなんかは、もういつでも下ネタでも何でも言えますからね。
酒徳:なんでアルコールの力が必要なのか、わからないですよ。
VARI:だから、こいつシラフなのに無理してるな、とは思ってほしくないんですよ。
▲酒がないとつい料理を食べるペースも早くなる
── 飲めないのに誘うと悪いのかなって気持ちはあるんですよね。
VARI:全然そんなことないんですよ! どんどん誘って欲しいです。
酒徳:おいしい食べ物と面白い話、それが魅力だから来るんですよ。
── 飲めない人同士で集まって、飲めない愚痴をこぼしたりとかしないんですか?
VARI:あのですね、下戸仲間という概念はないんですよ。こうやって話してると「あるある」って共感はするけど、連帯感があるわけじゃない。
酒徳:ラーメン食べない人同士で連帯感ってないでしょ。そういうことですよ。
空頭:アンチ巨人とかとは違うんです。別にアンチ酒飲みじゃないから。
▲こんなにストローがたくさんというのも、居酒屋さんでは珍しい光景かもしれない
というわけで、2時間以上に渡った「下戸飲み会」。僕もねじ君もソフトドリンクでおつきあいしたんですが、2杯ずつ飲んだだけ。それなのに、お腹がタプタプになったような感覚がありました。お酒だったら、10杯とか平気で飲めちゃうのに……。
いや、しかし、下戸の方々の気持ちを味わえて、なかなか面白かったです。飲兵衛のみなさまも、たまにはこうして下戸体験をしてみると、いろいろと見方が変わってよいかもしれません。
わかりあえるようで、わかりあえない、近くて遠い隣人。それが下戸……。