浮力と重心の釣り合いが鍵 「浮いて待て」に記者挑戦 意識せず浮く身体に驚き

 「ういてまて」の講習会場になったジャカルタ日本人学校のプールでは30日、国家捜索救難庁隊員ら約40人が水面にぷかぷかと浮かぶという、一見奇妙な光景が広がっていた。ランニングシューズとTシャツだけの人間が、なぜ真水の中で平然と浮き続けれるのか。記者も実際に水に入り、体験してみた。

 大きく息を吸い、靴を履いたままの足を底から持ち上げた。最初の数秒ほどは呼吸できたが、じわじわと足が沈み、すぐに口が水で隠れてしまった。こんなはずではなかったと思った時、指導員が「もっと腹を突き出して、あごを上げて」と声を掛けてくれた。
 助言に従い身体を反らせようとすると、急に腰の辺りが持ち上がり、膝から頭までが水平になった。こうなればもう、何も考えなくても浮いていられた。事前に聞いた「誰でも簡単にできる」との触れ込みは大げさではない。手や足を動かせば移動だってできる。
 ではなぜ浮くのか。それには物理の法則にかなった理由があった。
 水難学会の斎藤秀俊会長によると、人間の身体は同じ体積の水よりもわずかに軽く、空気を吸った状態では、体積の2%ほどが水面から出る。身体を水平にした場合、鼻と口は水から出る計算だ。
 ただ、やっかいなのは浮力の中心と重心にずれがあること。重心はへそのあたりにある一方、浮力の中心は、浮きやすい肺がある上体側に偏る。上に向かって働く力と、下に向かって働く力のかかる位置が異なるせいで、足が水底の方向に回転し、立ち泳ぎの姿勢になりやすいのだ。立ち泳ぎ状態になった場合は、頭の一部しか水面に出ず、鼻も口も水中に隠れてしまう。

■靴の浮力を利用する
 そこで役立つのが靴だ。靴の浮力で足が浮くことで、浮力の中心と重心のずれが解消し、下に回転する力がなくなり、シーソーが釣り合ったようになる。身体を水平に保てば、顔は自然と水から出る。
 最初うまくいかなかったのは、足の方を見ようと、無意識のうちに身体がくの字に折れて、足の沈む力が増していたからだった。実際の事故では、助けを求めようと、手を挙げた場合は、手の先だけが水面から出て、顔は深く沈む。もがけば肺の空気が抜け、ますます沈む。浮かぶ理由だけでなく、溺死のメカニズムも理解できた。
 水難事故の多くは転落など、泳ぐつもりで水に入ったのではない場合に起きるという。心の準備ができていないいきなりの事故で、冷静を保つのは難しい。ただ、「浮いて待つ」テクニックを知っているのと知らないのでは、大きな違いが出るのも確かだと思う。水辺を訪れた際、一度体験しておけば、いざという時の助けになるだろう。(道下健弘、写真も)

日イ関係 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly