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齋藤潤の経済バーズアイ (第134回)

新しい将来人口の推計値:以前のものとどこが違うのか

 

2023/06/02

【将来人口の推計値が6年ぶりに改訂】

 国立社会保障・人口問題研究所は、4月26日に新しい将来人口の推計値を公表しました。以前のものは2017年4月に公表されており、通常の5年サイクルに従えば昨年の4月に改訂されるべきところでしたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大(以下では「コロナ」)のため、1年延期されての公表となりました。

 新しい将来人口の推計は、2021年から2070年までの基本推計と2071年から2120年までの長期参考推計とから成り立っています。それぞれは、将来の出生率の推移に関する三つの仮定(中位、高位、低位)と、将来の死亡率の推移に関する三つの仮定(中位、高位、低位)を組合わせた9つのケースについて行われています(ただし、長期参考推計では出生率等の値については期間中一定と仮定されています)。

 今月は、この新しい将来人口の推計値がこれまでの推計値とどのように違っているのかを見ていきたいと思います。なお、将来の人口推計に関する議論は、通常、9つのケースのうちの、出生率と死亡率がともに中位であるケースに基づいて行われることが多いので、以下でも、この「出生中位・死亡中位」のケースを念頭に考えて行くことにします。

【高齢化・人口減少は今後100年間も続く】

 第1図が示しているように、新しい将来人口の推計値によれば、今後100年間にわたって総人口(外国人を含む日本に常住する人の数)は減少を続けるものと見込まれています。日本の総人口は、戦後増加を続け2008年には1億2808万人を記録しましたが、それをピークに減少傾向に転じ、2020年には1億2615万人となりました(国勢調査の結果)。新しい将来人口の推計値では、それ以降も減り続け、2070年には8700万人(2020年の69%)、2120年には4973万人(2020年の39%)にまで減少するものと見込まれています。この100年間の年平均人口減少率は約0.9%に達します。

 この間の総人口の減少を年齢階級別で見ると、0~14歳人口は2020年の1503万人(総人口に占める割合は11.9%)から2070年の798万人(同9.2%)、2120年の445万人(同8.9%)にまで減少すると見込まれています。同じように、15~64歳人口も2020年の7509万人(同59.5%)から、2070年の4535万人(同52.1%)、2120年の2517万人(同50.6%)へと減少を続けます。

 他方で、65歳以上人口は、2020年の3603万人から2043年の3953万人へとしばらくは増加をしていきますが、その後は減少傾向に転じ、2070年の3367万人、2120年の2011万人へと減少を続けていくものと見込まれています。しかし、第2図でも分かるように、総人口に占める65歳以上人口の比率で見ると、2020年の28.6%から2070年の38.7%まで上昇を続け、それ以降も40%前後の高水準で推移することになっています(2120年には40.4%)。これを見ると、人口が減少する中にあって、高齢化も続くことが分かります。

 高齢化の進展を老年従属人口指数(65歳以上人口の15~64歳人口に対する比率)で見ると、第3図が示しているように、2020年は48.0%でしたが、上昇を続け、2070年には74.2%、2120年には79.9%になるものと見込まれています。この指数は、高齢者一人が、生産年齢人口の何人によって支えられる必要があるかを示していますが、いわゆる「騎馬戦型」(一人が三人によって支えられる)から「肩車型」(一人が一人によって支えられる)へと移行しつつあることが確認できます。日本の社会保障制度の財政基盤がさらに大きく損なわれていくことが示されています。

【将来人口に関する新旧推計の違い】

 第4図は、今回の将来人口の推計値が、前回のものとどのように違うかを見たものです。ここで示されている総人口について見ると、(前回の推計期間は2115年までなので)比較可能な2115年までの期間については、今回の推計値は前回のものに比べて上方改訂になっていることが分かります。この理由の一つとしては、2015年から2020年までの間について出てきた実績値が、推計値を上回っていたことが挙げられます。しかし、上方改訂の幅がそれ以降拡大していることを見ても、それだけではなさそうだということが分かります。

【推計値が上方改訂された理由】

 今回の推計値が前回に比べて改訂をされた理由としては、以下の三つが考えられます。

①合計特殊出生率

 まず第1に、合計特殊出生率の下方改訂です。

 今回の推計の前提となっている日本人女性の合計特殊出生率(人口動態調査の定義とは異なることに注意)を、前回推計の時の想定と比べたのが第5図です。これを見ると、前回の推計では、2020年の出生率を過大推計していたことが分かります(前回推計では1.3988と見ていたのに対して、実績値は1.3126)。これを受けて、2021年以降の推計でも下方改訂されています。特に2021年~2023年はコロナの影響を受けて大幅なものとなっていますが(2023年には1.2028 にまで低下)、その後、この影響は徐々に収束するものと想定されています。

 この結果、日本人女性の合計特殊出生率については、2024年以降はいったん2034年の1.2959まで回復した後、徐々に低下していき、2046年に1.2853まで低下するが、その後は横ばいで推移するものと想定されています(前回の推計では、2033年以降、1.3973で一定との想定)。

 もっとも、このような日本人女性の合計特殊出生率の下方改訂は、その影響としては総人口の下方改訂につながるはずなので、総人口の上方改訂の理由としては当てはまらないことに注意しなければなりません。

②平均寿命

 そこで第2に、平均寿命の上方改訂です。

 平均寿命の長期的な推移については、今回の将来人口の推計において、男性と女性の両方で上方改訂が行われています。ただし、第6図で示されているように、上方改訂の姿は、男性と女性とでは異なっています。

 直近の平均寿命を見ると、コロナの影響で低下が見られています。例えば、2021年がそうです。このことを反映して、今回の推計でも、2020年代初頭の平均寿命は下方改訂されています。男性の場合は、その後、推計期間を通して上方改訂が一貫して行われています。しかし、女性の場合には、2040年まで下方改訂が行われ、その後は上方改訂に転じています。その結果、2070年における平均寿命は、男性で85.89歳、女性で91.94歳となっています。

 このような平均寿命の上方改訂は、高齢者を中心とした総人口の上方改訂をもたらす要因になっているはずです。

③外国人人口

 そして第3に、外国人人口の上方改訂です。

 今回の推計のおける総人口の推計結果は第1図で見ましたが、これは日本人と外国人を合わせた合計の動きです。総人口の内訳を日本人と外国人に分けてみると、第7図のようになります。

 これによると、日本人人口は2020年の1億2340万人から、2070年の7761万人、2120年の4123万人へと減少するものと見込まれています。これは2020年に比べて、2070年には37.1%の減少、2120年には66.6%の減少となっています。この間の年平均減少率は、1.1%に達しています。

 しかし、このような日本人の減少を一部相殺するように、並行して外国人人口が増加するものと見込まれているのです。外国人人口は、2020年の275万人から、2070年の939万人(2020年の3.4倍)、2120年の850万人(2020年の3.1倍)まで増加するものと推計されています。この結果、総人口に占める外国人の割合も、2020年の2.2%から、2070年に10.8%、2120年には17.1%まで高まることになっています。

 第8図は、日本人人口と外国人人口とに分けて、今回と前回の推計を比較したものです。これを見ると、日本人人口については下方改訂している一方、外国人人口については上方改訂をしていることが分かります。外国人人口の上方改訂によって、日本人人口の下方改訂による総人口への影響が、多少緩和される結果となっているのです。

 外国人人口について言うと、2015年~2020年における増加を受けて、2020年における外国人人口の実績値は前回推計値を64万人上回っていました。その後も着実な増加を見込むことで、外国人の上方改訂幅は、2070年には516万人、2093年には594万人まで大きくなった後、若干小さくなりますが、それでも2115年には542万人の規模となっています。

 以上を要約すると、今回の推計において総人口が上昇改訂されたのは、日本人人口が、平均寿命の上昇改訂を上回る合計特殊出生率の下方改訂があったため、全体としては下方改訂となったものの、外国人人口がそれを上回る上方改訂となったためだと考えられます。

【公的年金の財政検証への影響】

 5年毎に将来人口の推計が公表されるのは、同じく5年毎に行われる公的年金の財政検証のためのインプットを提供するためです。

 前回の財政検証は、2017年4月に公表された前回の将来人口の推計値を基に、2019年4月に行われました。これまで通り財政検証は5年毎に行われるとすると、次回の財政検証は来年(2024年)に行われることになります。

 そうであれば、財政検証のための時間はあまり残されていません。それまでの限られた時間の中で、政府は、今後100年にわたる公的年金の財政状況について試算を行い、そこで顕在化する可能性のある問題を洗い出し、それに対する対応策を整理することになります。今回の将来人口の推計を受けて、その内容がどのようなものになるのか。特に、合計特殊出生率が下方改訂、平均寿命が上方改訂されるなかで(いずれも財政悪化要因)、外国人人口が増加してくるということがどのような影響をもたらすことになるのか。年金のあり方は私たちの生活に深く関わっているだけに、大いに注目されるところです。