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 印刷 2023年11月29日デイリー版1面

自動車船、喜望峰経由の迂回検討。紅海拿捕。イスラエル関係船

「ZIM EUROPE」はスエズ運河経由の予定を変更した(マリントラフィックのウェブサイトから)
「ZIM EUROPE」はスエズ運河経由の予定を変更した(マリントラフィックのウェブサイトから)

 イスラエル系船主が保有するとみられる自動車船が紅海で拿捕(だほ)されたことを受けて、自動車船を運航している海運会社が対応を急いでいる。アジアから欧州に向かっているイスラエル関係船について、ある船社はスエズ運河を避けて喜望峰経由にルートを変更した。非イスラエル関係船への積み替えを検討しているところもある。輸送サービスに影響が出るのは必至だが、安全を最優先する。

 世界の自動車船の船腹量は750隻規模。そのうちイスラエル系船主の保有船は約80隻を占める。それらイスラエル関係船抜きに、自動車船サービスは成り立たないほど存在感は大きい。

 自動車船事業を手掛ける海運会社は、自社船と他社からの用船を組み合わせて輸送サービスを提供している。主要な船社のサービスにイスラエル関係船が多かれ少なかれ組み込まれている。

 紅海はアジアと欧州をつなぐ物流の要衝。紅海と地中海とを結ぶスエズ運河は月70隻程度の自動車船が通航する。

 イエメンのホデイダ沖を南下していた自動車船「GALAXY LEADER」が、今月20日に武装グループに拿捕された。イエメンの親イラン武装組織フーシが犯行声明を発表。イスラエル関係船が標的になると警告を発したことで、海運会社は対応を迫られている。

 イスラエル関係船の紅海への配船を取りやめる動きが出てきた。

 ある船社はアジアから欧州に自動車などを運んでいたイスラエル関係船について、スエズ運河経由を避けて喜望峰経由にルートを変更した。

 別の船社はスエズ運河を通り欧州に向かう計画だったイスラエル関係船の貨物をスリランカやシンガポールで非同国関係船に積み替える予定だ。

 迂回(うかい)や積み替えにより、輸送期間は長期化し輸送コストもかさむ。だが、自動車船関係者は「乗組員や貨物の安全を最優先する」と力を込める。

 旺盛な輸送需要を背景に、自動車船は需給が逼迫(ひっぱく)した状況が続く。イスラエル系船主の保有船に同国船社の運航船も合わせると、同国関係の自動車船は約85隻に上る。それらの配船に一定の制限がかかればサービスへの影響も避けられない見込みだ。

■コンテナ船も進路変更の動き

 コンテナ船でも喜望峰経由の動きが出ている。

 イスラエル船社ジムがアジア―地中海航路に投入するコンテナ船「ZIM EUROPE」(5936TEU型)は米国のボストンを出港後、スエズ運河経由でアジアに向かう予定だったが、喜望峰経由に進路を変更した模様。

 AIS(船舶自動識別装置)などを活用した、船舶情報サービス大手マリントラフィックによると、同船は24日、ジブラルタル海峡を通過し地中海に入ったが、25日夕刻、スペイン・カルタヘナ沖に差し掛かる手前で進路を反転。再度ジブラルタル海峡を抜け、アフリカ西岸沿いに南へと進路を変更している(画像参照)。

 ジムは27日、顧客に対して「アラビア海・紅海での安全な輸送が脅かされている。船員、船舶、顧客の貨物の安全を確保するため、アジア―地中海航路ZMPのダイバージョン(迂回)を含む一時的な対策を講じている」と書面で通知した。

 「ZIM EUROPE」の実質所有者は、独立系コンテナ船主大手グローバルシップリース(GSL)だが、ジムはイスラエル企業が関与する船舶のリスクが高まっていると判断したようだ。