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論説主幹:林義亮
「歪んだ選良意識を憂う」 安保法案強行採決 

政治・行政 | 神奈川新聞 | 2015年9月18日(金) 03:00

国会前で安保関連法案に反対し、気勢を上げる若者たち=17日夜(共同)
国会前で安保関連法案に反対し、気勢を上げる若者たち=17日夜(共同)

 歴代政権が認めなかった集団的自衛権の行使を解禁する安全保障関連法案は17日の参院平和安全法制特別委員会で、与党などの賛成多数により可決した。与党は、民主党など野党が審議打ち切りに反対する中で採決を強行した。参院本会議に緊急上程し、18日成立を狙う。民主、維新、共産、社民、生活の野党5党は国対委員長会談で、内閣不信任決議案を衆院に共同提出する方針を決めた。閣僚の問責決議案なども参院に提出し、成立阻止へ抵抗を強める。



 「決める時には、決める」。首相が会見の場などでしばしば口にしてきた。政策決定における果断さ、すなわち政権基盤の強さを強調したいがための、見得(みえ)にも似たせりふだろう。

 しかし、参院特別委員会で繰り広げられた安全保障関連法案可決の光景に、信頼感に裏打ちされた政権の強さを感じた国民がどれだけいたか。

 民意を顧みようとしない歪(ゆが)んだ選良意識とたけだけしいヒロイズムの行き着く先を憂える。

 首相は孟子の勇ましい言葉もよく引いた。「自らかえりみてなおくんば、千万人といえども、われ往(ゆ)かん」。自分が正しいと思えば、たとえ相対する者が千万人いようとも、恐れることなく対処する-というほどの意味である。

 同法案が強行採決された衆院特別委員会での答弁。首相はPKOや日米安保条約など反対意見が多かったとみなす法案を例に挙げ、「確固たる信念があれば、自らかえりみてなおくんばという信念と覚悟があれば、しっかりとその政策を前に進めていく必要がある」と述べた。

 同法案も先の2法案同様、反対の声が高まっている状況はあくまで一時的なもの。可決成立した後は理解が広がり、やがては国民に「よかった」と言われよう。確かな根拠に根差しているとは思えない身勝手な期待がのぞく。現実から目を背けていると言わざるを得ない。

 多くの国民が不安や疑念を抱いたままの法案を、それでもかまわぬとばかり衆院に続いて参院でも「議論は尽くした」と押し通そうとする。民意を畏(おそ)れるどころか、国民を蒙昧(もうまい)と見下す誤った選良意識にほかなるまい。

 国会審議の場で、首相自ら質問者にやじを飛ばす。法案に異議を唱える専門家を門外漢扱いする。立場が違う人の意見に謙虚に耳を傾ける、政権党として当たり前の振る舞いがついぞうかがえなかった。

 コラムニストの山本夏彦が「自らかえりみて-」という言葉について、山本一流の解釈を記している。「千万人も往くなら俺も往こうと訳すのが本当である」(「笑わぬでもなし」)。ヒロイズムを振りかざす挙措には眉につばを塗って臨むのが世間の知恵ということかもしれない。

 これもまた幾度も耳にした「総合的に判断する」という曖昧な理由で他国との紛争に指導力を発揮されては国民が迷惑する。

 参院本会議で法案が可決成立しても事が終わるわけではない。国の針路に関わる国民の覚悟が求められるのはこれからである。


参院平和安全法制特別委で、安保関連法案の採決をめぐり委員長席付近でもみ合う与野党の議員=17日午後4時31分(共同)
参院平和安全法制特別委で、安保関連法案の採決をめぐり委員長席付近でもみ合う与野党の議員=17日午後4時31分(共同)
 
 

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