皮膚潰瘍

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は皮膚潰瘍について解説します。

 

古賀哲也
福岡和白病院皮膚科部長

 

 

Minimum Essentials

1成因は多岐にわたり、臨床症状と基礎疾患などから原因を考えることが重要である。下腿に多くみられ、血流不全による場合が多い。

2動脈性血行障害による場合は、四肢尖端に疼痛を伴って打ち抜き状(深掘れ潰瘍)に出現し、バージャー(Buerger)病や閉塞性動脈硬化症などで認められる。

3静脈性血行障害による場合は、大半に静脈瘤によるうっ滞を認め、下腿に好発する。膠原病、血管炎による場合は、多発性で紫斑や網状皮斑を伴うことが多い。

4原因に応じた治療を行うが、血流改善と二次感染防止、創傷治癒促進は共通した治療目標であり、下肢の挙上、安静などの生活指導が重要である。

 

皮膚潰瘍とは

定義・概念

表皮から真皮あるいは皮下組織に及ぶ皮膚欠損を皮膚潰瘍という。その成因は多岐にわたるが、発症の背景、遷延化の要因、管理の困難さには、原因や病態によらず共通点もあるため、ここで一括して取り扱う。

 

なお種々の誘因により、下腿には難治性皮膚潰瘍がみられることが多く、下腿潰瘍とよばれる。

 

原因・病態

さまざまな原因により皮膚潰瘍が出現するため(表1)、臨床症状と基礎疾患などから原因検索していくことが重要である。

 

表1皮膚潰瘍の原因

表1皮膚潰瘍の原因。動脈性血行障害…バージャー病、閉塞性動脈硬化症(図1)、糖尿病性(図2)、コレステロール塞栓症など。静脈性血行障害…静脈瘤、うっ滞性皮膚炎、深部静脈血栓(図3)など。リンパ管循環障害…リンパ浮腫、リンパ節腫大、リンパ管圧迫など。膠原病・血管炎などの炎症性疾患…強皮症、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、関節リウマチ、結節性多発性動脈炎など。血液疾患 多血症、クリオグロブリン血症、プロテインS欠損症など外的障害…外傷(図4)、熱傷(図5)、凍傷、異物、化学薬品、放射線(図6)など。感染症…蜂窩織炎、骨髄炎、壊死性筋膜炎、帯状疱疹、ガス壊疽など。腫瘍…悪性リンパ腫、白血病、皮膚癌(図7)、癌の皮膚転移など。医原性…抗がん薬や造影剤の点滴漏れ(図8)など。難治性皮膚疾患…壊疽性膿皮症、水疱性類天疱瘡など

閉塞性動脈硬化症:図1
糖尿病性:図2
深部静脈血栓:図3
外傷:図4
熱傷:図5
放射線:図6
皮膚癌:図7
点滴漏れ:図8

 

図1閉塞性動脈硬化症による潰瘍

閉塞性動脈硬化症による潰瘍

 

図2糖尿病による潰瘍

糖尿病による潰瘍

 

図3深部静脈血栓による潰瘍

深部静脈血栓による潰瘍

 

図4外傷による潰瘍

外傷による潰瘍 

 

図5熱傷による潰瘍(接触皮膚炎併発)

熱傷による潰瘍(接触皮膚炎併発

 

図6放射線による潰瘍

放射線による潰瘍

 

図7‌皮膚癌(扁平上皮癌)による潰瘍

‌皮膚癌(扁平上皮癌)による潰瘍

 

図8点滴漏れによる潰瘍

点滴漏れによる潰瘍

 

病態としては、皮膚組織を支持する側の異常(血管・血液の異常)、皮膚組織を損傷する要因の増大(外的・炎症的損傷)、皮膚組織の創傷治癒を遷延化させる要因の増大、悪性腫瘍、感染などが考えられる。

 

下腿は外傷を受けやすく、血流不全も生じやすい。さらに、骨・筋・神経系の機能低下により皮膚組織の創傷治癒が遷延化しやすいなどの理由も加わり、皮膚潰瘍が頻発する部位である。

近年の生活様式変遷による運動量減少、椅子着座時間の延長、肥満、長時間の立仕事などにより下腿の静脈うっ滞が長期間続き、わずかな機械的刺激ないし微細な外傷によって皮膚潰瘍を形成する。

 

さらに、感染や湿疹化などの修飾を受けて難治化しやすい。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

皮膚潰瘍の原因により性状、経過、分布が異なり、さまざまな症状を呈する。

 

動脈性血行障害による皮膚潰瘍では、チアノーゼ、四肢冷感、安静時疼痛、間欠性跛行(一定の距離を歩くと痛みのために歩行困難となり、しばらく休むとまた歩行可能になる)がみられる。外傷がきっかけとなり、肢端に深い潰瘍が打ち抜き状に出現、急速に壊死を伴う。周囲にヘモジデリン色素沈着を伴わず、肉芽形成も不良のことが多い。

 

静脈性血行障害による皮膚潰瘍では、大半が静脈瘤によるうっ滞が背景にあり、下腿に好発する。不整形で比較的浅めの潰瘍が、静脈瘤ないし蛇行・拡張した皮下静脈に伴ってみられ、潰瘍の周辺の浮腫、ヘモジデリン色素沈着を伴う。ある程度の肉芽形成がみられ、壊死組織はあまりみられない。


膠原病や血管炎などの炎症性疾患による皮膚潰瘍では、多発性で紫斑や網状皮斑を伴うことが多い。

 

検査

動脈性血行障害に対しては、末梢動脈での拍動の減弱、足関節上腕血圧比(anklebrachial pressure index:ABPI)や皮膚灌流圧(skin perfusion pressure:SPP)の測定などを行う。

 

静脈性血行障害に対しては、ドプラー聴診やカラードプラーエコーなどを行う。異常があれば血管外科専門医に精査依頼する。

 

膠原病・血管炎などの炎症性疾患、腫瘍による皮膚潰瘍に対しては皮膚生検が必要である。感染症が疑われる場合は、培養検査を行う。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

原疾患と皮膚潰瘍の双方に対する治療が必要である。血流改善と二次感染防止、創傷治癒促進(肉芽形成促進、上皮化促進)は、共通した治療目標である。

 

動脈性血行障害による皮膚潰瘍に対しては、軽症例は禁煙と薬物治療(血管拡張薬や抗血小板薬、微小循環改善薬など)で対処し、重症例で難治性潰瘍や疼痛の強い症例では、血行再建術(人工血管によるバイパス手術やステント留置による血管形成術など)の適応について血管外科専門医に相談する。

 

静脈性血行障害による皮膚潰瘍に対しては、静脈還流不全の改善がもっとも基本的で、静脈還流不全や皮膚症状の程度により手術治療、硬化療法、圧迫治療などを選択する。

 

下腿潰瘍に対しては、下肢の挙上、安静などの生活指導が重要である。

 

局所療法としては、皮膚潰瘍の成因と潰瘍の状態に応じて各種潰瘍治療薬(感染抑止、肉芽形成促進、上皮化促進、血流促進、デブリードマン効果などをもつもの)を用いて行う。

ただし、外用薬や消毒薬で接触皮膚炎を発症することがあるので注意する。

 

壊死に対しては物理的・化学的デブリードマンを行う。潰瘍底からの良好な肉芽形成や周囲皮膚からの上皮化が始まっている時期には、適切な創傷被覆材を使用することもある。

陰圧化で治療する局所陰圧閉鎖療法(vacuum assisted closure:VAC)が有効である場合もあるが、十分な感染コントロールが必要である。

 

合併症とその治療法

易感染性患者の皮膚潰瘍に感染が合併すると、骨髄炎併発、敗血症などのリスクも高まるために、抗菌薬の外用や内服を行い、二次感染防止に努める。

 

治療経過・期間の見通しと予後

原因により予後は異なる。

原因不明の場合や複数の誘因が関与している場合は、長年にわたり寛解・増悪を繰り返すことも多い。

原疾患の増悪、動脈性血行障害の増悪、感染症の併発、糖尿病性壊疽などで、患肢切断になることもある。

 

看護の役割

治療における看護

局所的には、安静、患肢の挙上、保温などに留意して看護を行う。皮膚潰瘍の二次感染の予防が必要である。

 

静脈性血行障害による皮膚潰瘍に対しては、長時間の立位を避けたり、弾力包帯、弾性ストッキングによって患肢を圧迫し、静脈のうっ滞を減少させる。

 

創傷治癒を促すため、バランスのとれた食事をとるように配慮する。

 

寛解と増悪を繰り返し、治療が長期化することもあるため、看護師は患者と良好なコミュニケーションをとり、患者の抱える問題などを傾聴して精神的負担の軽減に努める。

 

フォローアップ

長時間の立ち仕事や座位を避け、安静時は下肢挙上を心がける。寒い時期には防寒を図り血行障害の悪化条件を減じ、外傷を避けるように指導する。

 

全身的には、心血管疾患、高脂血症、高血圧、糖尿病などのコントロール、禁煙を指導する。

 

下腿潰瘍は難治性であるが、長期間にわたる治療と生活環境改善が重要であることを患者に十分納得させ、患肢切断となった患者に対しては、強力なリハビリを勧める。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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