Inc.:「長い冬眠から精神的に目覚めたような気分です」。これは、私のポッドキャストを聴いている、あるリスナーが寄せたメッセージです。私も関わっている「Bored and Brilliant」は、スマートフォンとの付き合い方を見直し、創造性を高めるための、さまざまな課題に1週間挑戦するプロジェクトです。

その効果は明白でした。「急に学校の勉強が良くわかるようになった」というティーンエイジャー、「原稿を完成させられた」という作家、「以前ほど消耗しなくなった」という会社員、「今までずっとビジネス上の悩みの種になっていたことについて、しっかり考えてみる時間ができた」という起業家など、良い効果があったという体験談が次々と寄せられてきたのです。

常に他人とつながっていることにはマイナス面があり、それを認めると楽に生きられるようになるはずです。

私はWNYCの「New Tech City」という、デジタル時代におけるライフスタイルについて追求するテック系ポッドキャストのホストをしています。

「Bored and Brilliant」プロジェクトは2、3カ月前に思いつきました。その時私は、「スマホがない時代は、地下鉄に乗っている時やコーヒーショップで列に並んでいる時は、所在なさげにしていたものだったなあ」とスマホのない時代を懐かしんでいました。

ところが今では、スマホがあるばかりに、メールに返信したり、保存してある記事を読んだり、カレンダーアプリで予定を動かしたりと、否応なく「生産的」にならざるを得ません。その後、神経学者へのインタビューによって、私が密かに抱いていた疑念は確信に変わりました。

所在のない状態になれないことは、実はよくないことです。というのも、心をさまよわせている時にこそ、最も独創的な発想ができることが判明しているからです。脳がスイッチを切り替えて「デフォルト・モード」と呼ばれるネットワークを使い始めるのはこういう時です。シャワーを浴びている最中にひらめいて「あ、これだ!」という瞬間がありませんか? そういう時はデフォルト・モードが作動しているのです。

「Bored and Brilliant」の目的は、スマートフォーンの使用を減らすことで、このプロジェクトに参加している人のデフォルト・モードが、より活発に作動しているかを調べることでした。

参加者は、電話で通話した時間と1日に何回電話をチェックしたかをモニターするアプリをダウンロードします。基準値を設定するために、1週間いつも通りに電話を使った後で、課題に取り組む1週間に入ります。

スマホをポケットでなくカバンに入れるなど、毎日の習慣に微調整を加えることから始め、周囲の人たちのことを気にするのをやめることまで、さまざまです。課題はニュースレターとポッドキャストで通知され、それぞれの課題のコンセプトを裏づける研究や個人的な体験談も送られます。もちろん私もすべての実験を試しました。

実験の結果、参加者達は、「挑戦1:スマホをポケットに入れたままにしておく」を実行し続けるのに1番苦労しました。その日の課題は「移動中に絶対電話を見てはいけない」というものでした。歩きながらメールを送るのも禁止です。

私の場合は、「そのアプリを消去する」という課題が特にきついと感じました。アンケートに回答した参加者たちは「時間を浪費するアプリを消去するのが何よりも大変だった」と口々に言っていました。

私が個人的にはまっていたのは『2Dots』と呼ばれるゲームでした。そのゲームは今でも私のスマホから消去されたままになっていますが、ちょうどタバコに恋い焦がれる喫煙者のように、そのゲームがないことを寂しく思っています。

ですから、スマホを使う目的のトップ3にゲームが入っていると言う人たちが、プロジェクトの1週間を終えてからは、ほとんどスマホに時間を使わなくなったという報告を聞いても驚きませんでした。

スマホを使用する時間の数字以上に驚いたのは、目的を持ってガジェットを使うことで、どれだけ人は深く考えられるようになり、自分をより肯定的に受け止められるようになるかを示すエピソードを聞いたときです。

ロサンゼルス在住のパトリックは「私とスマホの関係は完全に変わりました。もう前ほどスマホに影響されなくなり、大切でもなくなった気がします。それは再びただの道具に戻り、常に一緒にいる存在ではなくなりました」というメッセージを書いています。

その他にも、スマホ依存から脱却するためのカリキュラムを立ててほしいという依頼が学校から来たり、神経科学者や認知心理学者から我々の取ったデータを見せてほしいという依頼が来るなどの反響がありました。また、ある企業は各部署一斉にこのプロジェクトの課題に挑戦させようとしています。

どうやら所在のない状態を欲しているのは私だけではないようです。しかし、今までは、これだけ多くの人がスマホに依存していて、その状態を改善したいと思っていることに気がつきませんでした。テクノロジーに対してもっと目的をもって対峙すべき時が来たのではないでしょうか。

新しいツイートや「いいね」を見るために、これほど頻繁にスマホを確認してしまう自分の反射的行動に関して、マインドフルネスを培うべきです。どうしてそんなことをしてしまうのか、必要があるのか、もし自分にスマホの使用を禁じたらどうなるのか、ということを客観的に見ることで良い結果になるということが判明しています。

念のためにはっきりさせておきますが、私はテクノロジーを禁じようとしているわけではなく、もっと注意深く使うべきだと言いたいのです。そもそも「Bored and Brilliant」のための専用アプリをダウンロードして、ポッドキャストを聞き、ニュースレターを読む一方で、スマホの使用を減らすと言うのは、本質的に矛盾があります。

ここでのポイントはバランスです。私たちは十分な睡眠をとり、健康的な食生活をしようと心がけています。デジタルの消費に関してももっと慎重になるべきです。必要なときに使うべきであって、反射的に使ってはいけないのです。私なら毎日20通のメールに返信するより、素晴らしいアイデアを1つ考えつく生き方を選びます。「Bored and Brilliant」の課題を是非、あなたもお試しください。

Now Is the Time to Fall Out of Love With Your Smartphone|Inc.

MANOUSH ZOMORODI(原文/訳:春野ユリ)

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