他人を喜ばせようとする傾向がある人ならよくご存じだと思いますが、人にいい顔をしたことが裏目に出るというパターンはとても多いものです。事実、Quora(実名制のQ&Aサイト)では、八方美人が災いすることになった体験談を聞かせてほしいという質問に対し、こんなはずではなかったという話や、気の毒な知り合いの話、お人好しゆえの忙しさなどのエピソードがごまんと寄せられています。

しかし、著者で幸福エキスパートであるChristine Carter博士によると、自分の言動を調整してまで人にいい顔をするという行為には、もっと根本的な問題があるというのです。それは、自分に災いするだけでなく、他人にもあまり喜ばれないことが、科学的に示されているそうです。

Carter 博士は、Greater Good Science Center(幸福、社会的絆、利他的行動などを研究する、カリフォルニア大学バークレー校の学際的研究機関)への投稿記事で、八方美人の傾向で苦労している自らの体験を共有し、常に愛想を振りまくことが、どのように裏目に出るかをまとめています。たとえば、自分の集中力を削ぐ、ストレスレベルが上がるといったことが挙げられています。しかしCarter 博士の主張のなかで最も重要なのは、あなたがいくら頑張っても、他人もうれしくはない、ということです。

仮にあなたが、家庭生活が不安定な状況にあるなかで、職場では必死に笑顔をつくっているとします。週末にパートナーと大ゲンカしたことを職場の同僚に知られたくなかったとしましょう。しかし、本当は平気ではないのに平気なフリをしていると、周囲の人たちにも不快感を与えてしまうのです。それはいったいどういうことでしょう?

実は私たちは、自分の感情を隠すことが、それほど上手ではありません。周囲の人たちは、私たちが発するマイクロ・エクスプレッション(微細な表情)に、はっきり気づかないながらも、意識下でミラーニューロンが働いて、脳の一部でネガティブ感情を感じ取っているのです。私たちは、たとえば誰かと話しているとき、自分の個人的苦悩で相手を煩わせるべきではないと考え、感情を抑えようとしますが、実はそうすることで、自分と相手の双方のストレスレベルを、最初から苦悩を明かすよりも大幅に上げているのです。

要は、無理に笑顔を振りまくことは、自分の感情が鬱積するだけでなく、周囲の人たちの心の平穏にも悪影響を及ぼしてしまうということです。つまり、自分を犠牲にしてまで他人を喜ばせようとすると、ほぼ確実に逆効果になるのです。

ただ、それはもちろん、人の立場を考えるなということではありません。共感力は、自己実現にも、良き社会の一員であるためにも、良きリーダーであるためにも必要不可欠なものです。しかし、共感することと、愛想を振りまくことは違うのです。人の考え方や願望に心から興味をもち、それらに配慮することは大切です。しかし、本当の自分を曲げてまでそうするべきではありません。

Why Being Too Nice Totally Backfires|Inc.com

Jessica Stillman(訳:和田美樹)

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