いろんな刃文を観てみる - ホームメイト
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「分かりやすい」刃文
先日、「刀剣ワールド桑名・多度」にて、弊社所蔵品をNHK様に撮影して頂きました。10月31日から2月21日に大阪歴史博物館、及び刀剣博物館にて開催される特別展「埋忠〈UMETADA〉桃山刀剣界の雄」に、名古屋刀剣ワールドが所蔵する埋忠明寿の短刀を出品するからです。
埋忠明寿は、安土桃山時代から江戸時代にかけて活躍した刀工であり、金工師です。室町幕府将軍「足利義昭」に仕え、次いで「豊臣秀吉」に召し抱えられました。大阪歴史博物館の学芸員、内藤さんによると、埋忠明寿の特徴は「分かりやすさ」。埋忠明寿自身が施す玉追い龍の彫刻も見事ですし、刃文も分かりやすいのです。
豊臣秀吉のように、元々武家生まれでない武士が増えてきた時代において、このように分かりやすい刀が求められたのではないかと考察していらっしゃいました。では、分かりやすい刃文とはいったいどのようなものでしょうか。今日は最後に埋忠明寿の刃文を観てみたいと思います。
刃文とは
刃文はどこを指しているのか
刃文は光を当てないと見えない
刃文は、刀身に光を当てるとその周りに浮かび上がってきます。昔は、暗い部屋でろうそくに火を灯して刀を鑑賞していたそうです。
この写真は明るい部屋で撮っているので、刀には一通り光は当たっているはずですが、それに加えてスポットライトを当てたり、光源と目線の角度を合わせたりしないと、刃文は見えてきません。なので、一目で刀全体の刃文を観ることは難しいと思います。
手に持って鑑賞するときは、手で光の当て具合を自由に変えられますが、博物館の展示を観るときは、ライトの位置や刀の位置を変えられませんから、立つ場所や観る角度を変えてみて下さい。
刃文、刃縁、刃中の働き
光を当てると刃文が浮かんでくると聞いたので、その部分が刃文なのかなと思ったのですが、そういう風に説明している本はないんですよね。それどころか、結構曖昧というか、読んでも良く分かりませんでした。
「地鉄との境界線と刃の間の白いところと、光を当てると浮かんでくるところの違いは?刃中の働きは刃文ではない?互の目って刃文というより境界線の模様では?」といったとりとめのない疑問が頭の中を往来するようになり早1年半。
しかしある日、図譜における刃文の説明を見て、思うところがありました。それは「上半は広直刃基調にところどころ丁子・小互の目交じり、下半は互の目・丁子・角ばる刃・小のたれごころなど交え、総体に足・葉よく入り、小沸つき、砂流しかかり、金筋少し入る」という、半ば呪文のような文章なのですが、いろんな要素が入っていますよね。
結局は、これらすべてが刃文に関することなんだと思います。つまり、細かく観ることももちろん可能ですが、刀1振1振の刃文を理解するには、トータルで観なければならないのではないでしょうか。
また、これはとらえ方次第かもしれませんが、直刃、丁子、小互の目といった個別の要素が組み合わさって刃文全体を構成しているというよりは、どちらかと言うと無数にある刃文の模様を、比較的単純なパターンの組み合わせで表現できるようにしたのが、直刃とか互の目といった用語なのではないかと考えました。
なぜそう考えるかと言うと、入札鑑定に参加してみて感じたのですが、刀の部分部分の特徴を捉えることができても、そもそも刀工の特徴、全体の作風を覚えていないと、刀工を当てることはできないからです。全体を理解するために、部分に分解しているようなイメージです。
それに、鑑定後の解説を聞いていると、まずは全体の印象があって、最後の詰めで細かい要素を検討しているような感じがしました。
用語は、全体の模様を細かく解き明かしていくツールであって、積み木のように組み合わせていくものではないのかなと感じたのです。
いろんな刃文を観てみましょう
鳥が先か卵が先かみたいな話をしてしまいましたが、いずれにせよ、刃文の要素を知ることは刀を鑑賞するうえで非常に有益ですので、まずは基本の刃文を観ていきます。
直刃
直刃と言うのは、地の通り、真っ直ぐな刃文です。刃に沿って真っ直ぐな白い刃文が特徴ですね。刀を見始めたころは、「直刃はどれも似たような感じだし面白みに欠けるなあ」と思っていたのですが、いろいろな刀を観ているうちに「控えめな感じが逆に良いな」と思うようになりました。
今は直刃が一番好きなんですが、どの刃文も良さがあるなあと感じられるようになって良かったです。
互の目
互の目は、規則正しく繰り返す波のような文様です。「碁石を並べたような」と評することもあるようですが、「尖り互の目」や「片落ち互の目」のように尖った模様があることを考えると、碁石と言うのは不適切ではないかと思います。
- 銘
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兼元
- 鑑定区分
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特別保存刀剣
- 刃長
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71.1
- 所蔵・伝来
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刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕
こちらは「尖り互の目」(とがりぐのめ)と言われる刃文ですが、それだけでなく、ポツポツポツ、ポツポツポツ、と3つぐらいの波が続いていますよね。これは、孫六の特徴で、尖り互の目の中でも「三本杉」と言われる刃文です。
丁子乱れ
湾れ刃
大波がゆったりと波打つような刃文です。理解はしやすいんですが、個人的には湾れが一番厄介に感じています。湾れのカーブが急になると互の目に近くなりそうですし、カーブが浅くなると直刃のように見えてくるからです。
例えばこの刀の刃文は「焼幅の浅い湾れ乱れ」と解説されているように、相当カーブが浅いですよね。浅いというよりも、一部が湾れているだけなんじゃないかと感じます。
特にこの部分は、右の部分を除いて直刃なのではないかと思うのですが、どうなんでしょうか。確かに本当の直刃と比べると、直線っぽさが弱いです。
埋忠明寿の刃文
さて、冒頭で書いたように、最後は埋忠明寿の刃文を観てみます。やっぱり彫刻に目が行ってしまいますが、刃文を観てみると、この短刀の刃文は、手元のあたりに大きな山があり、右のほうは緩やかな波のようになっています。
大きな山の部分が互の目、緩やかな波が湾れとして解説されています。互の目と言うと規則的な波というイメージがあるので、ひとつしか山がないのにそう言っていいのか疑問ですが、湾れと比べると波の大きさ、幅が全然違いますよね。
刃文とは関係ない話になってしまいますが、この刀は刃のあたりが全面的に白く光を反射していますよね。これは「切刃造り」というもので、よくある平造りの刀は棟から刃までなだらかになっていますが、これは刃のあたりだけ切り立った傾斜になっているのです。
これは埋忠明寿の特徴的な造りらしいので覚えておきたいと思います。分かりやすい刀なのかどうかと言うと正直よく分かりませんが、2種類の刃文があり、彫刻もあり、珍しい切刃造りもあり、確かに見どころがたくさんあって面白い刀だなと感じました。