みんながつなぐ“いのち”臓器移植と造血幹細胞移植

臓器移植法が施行されてから25年。この間、脳死下臓器提供は増加してきています。一方で、移植希望登録者数と移植実施数にはまだ大きな差があり、また、臓器提供をする・しないにかかわらず、その意思表示をしている人は未だに少ないのが現状です。

また、造血幹細胞移植においても、少子高齢化に伴い、若年層の骨髄バンクドナー登録者の確保やさい帯血の確保が課題となっています。

本特集では、移植医療に関する最新情報などをお伝えします。10月の「臓器移植普及推進月間」「骨髄バンク推進月間」に、改めて、臓器移植や造血幹細胞移植について考えてみませんか。


<第1部>
臓器移植


第1部では「臓器移植」を取り上げます。臓器を提供された方の家族や臓器移植を受けた方の声、移植医療の変遷と現状、意思表示の方法などを紹介します。

■臓器移植とは

人間の身体のなかには心臓や肺、肝臓、腎臓、小腸や膵臓などのさまざまな臓器があり、それぞれがきちんと機能することで健康を保っています。これらの臓器が機能しなくなり、薬や手術などでは治せなくなった場合、亡くなった方のまだ健康な臓器と交換することで、健康な身体を取り戻す治療法が「臓器移植」です。

臓器を提供する人をドナー、移植を受ける人をレシピエントと言います。

■誰もがドナー・レシピエントになる可能性がある

臓器が提供できるのは、「心停止」あるいは「脳死」の場合です。

「心停止」の場合は、心臓が止まった後に臓器の摘出手術を行い移植をします。提供できる臓器は、腎臓・膵臓・眼球です。臓器の摘出に必要な体制が整備されていることが前提となりますが、手術室がある病院であれば提供が可能です。

脳が機能しなくなる「脳死」の場合は、血圧・脈拍・体温・尿量などが安定した状態で臓器摘出手術を行い、摘出直前まで血液の流れがあることから、心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球(角膜)の7つの臓器を最大11人に提供することができます。脳死下の臓器提供ができる医療施設は、高度な医療を行う大学病院などに限られ、かつ必要な体制が整備されていることが前提となります。

移植が必要な病気になる可能性は、誰にもあります。また、脳死や心停止も、事前に予測できるものではありません。提供する側・移植を受ける側になる可能性は、皆さん一人ひとりが持っているのです。





<第1部Part2>臓器移植
臓器移植法施行から25年
移植医療の今


臓器移植に関する現状や臓器提供の意思表示を考えるヒントについて、厚生労働省の担当者に聞きました。


解説者:山口昂久
健康局 難病対策課移植医療対策推進室調査総務係長・臓器移植係長





●提供に関する意思表示をしていない人がまだ多数

臓器移植法が施行されて25年が経ち、移植医療の発展や、さまざまな形での周知が進んできたことで、脳死下の臓器提供件数が増えてきました。一方、今年8月31日時点で移植希望登録者数は1万7,430名であり、移植希望登録者のうち移植を受けられる人は、年間で5%程度にとどまっているのが現状です。

臓器提供件数が増えてきている一方で、提供についての意思が決まっているのに意思表示をしていない人が多数いるのも事実。本人の意思がわからない場合、臓器提供をする・しないは家族の意思で決まります。家族のためにも、今の気持ちで意思を記入したり、家族と話し合ってみてほしいです。記入した意思はいつでも書き換えられますし、「提供しない」というのも意思の一つ。臓器提供をしたい人だけが表示をするものではありません。





●意思表示するに当たって考えてほしいこと

臓器を提供するか・しないかだけでなく、自分が病気になった場合に移植を受けたいか・受けたくないかという意思も等しく尊重されます。

JOTのホームページには、移植を受けた方々やドナー家族の方々の声が多数掲載されています。臓器提供の意思表示を検討するに当たりぜひ、〝いのち〟をつないだ方々の声を聞いてみてください。

また、10月は「臓器移植普及推進月間」であり、昨年度は、移植医療のシンボルであるグリーンへのライトアップが40都道府県109カ所で実施されました。今年も実施しますので、10月はお近くのライトアップをご覧いただければ幸いです。

この特集を読み終えたときに、家族と提供に関する意思について話してみたり、自分の意思を記入してみたり、そんな行動につなげてもらえるとうれしいです。


<10月は臓器移植普及推進月間>

毎年10月は「臓器移植普及推進月間」です。臓器移植についての知識や理解、協力の一層の定着・推進を図るために普及啓発を行っています。移植医療のシンボルであるグリーンへのライトアップなども各地で行われます。また、臓器移植対策推進の功労者(個人・団体)への感謝状の贈呈や、医療者、移植を受けた方、学生などが臓器提供について考えるトークセッションを行う「臓器移植推進国民大会」は、今年は北海道で行います。




<第2部Part2>造血幹細胞移植
一人でも多くの人を救うために
若いドナー登録者を増やしたい


造血幹細胞移植に関する現状や課題について、自身も骨髄を提供したことがあるという、厚生労働省の担当者に聞きました。


解説者:山崎  翔
健康局 難病対策課移植医療対策推進室室長補佐





●若いドナーを増やすためSNSなどでも周知

骨髄や末梢血幹細胞を提供することになった場合、ドナーの健康状態がよくないと採取ができず、移植にまで進むことができません。ドナーが若い方ですと健康状態がよいことが多く、また、移植後の患者さんの治療成績もよいことがわかっているため、若い方のリクルートに注力しています。

しかし、現在の日本は少子高齢化で、若い人が少なくなっています。母数が少ないなかで、これまでと同じ周知方法では登録数を増やしていくことが難しいと危機感を持っており、国や日本骨髄バンクでは近年、SNSなどを活用した普及・啓発にも力を入れています。

新型コロナウイルス感染症の流行前は、献血と並行して学域でのドナー登録を進め、登録数も増えてきていたのですが、コロナ禍で一時的に少ない状態に。現在は少しずつ回復しつつあります。





●適合通知が届いてから提供するかを考えても

「骨髄バンク」という言葉の認知度は高いのですが、その仕組みや骨髄採取方法など、細かい情報が行き届いていないのかなとも感じています。そうした部分を補いつつ、まずは楽な気持ちで登録していただき、適合通知が来たときに改めて詳細を知ってもらい、提供するかどうかを考えていただくのもよいのではないかと思っています。

骨髄を脊髄と勘違いされる方も少なからずいるようで、「神経にかかわるから怖い」という声を聞いたことも。私自身、実際にコーディネートが進んで提供したこともあり、通院や入院が必要となりましたが、つらい痛みはありませんでしたし、その後も問題なく過ごせています。やってよかったと実感しています。

現在、造血幹細胞移植が必要な患者さんの多くに適合するドナーが見つかります。しかし、希少な型の人もなかにはおり、ドナーの数が増えても、適合する型の人がいないことがあります。また、ドナーの健康理由や都合により移植に至らない場合もあります。そうした場合には、さい帯血移植や、HLAの型が半分同じである親子間移植が検討されます。医療技術の進歩により治療の選択肢が増えてきていますが、引き続きドナー登録者を増やしていくことも積極的に行っていきます。





 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2022年10月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省