塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-1 塗装方法を知ろう

文献番号1)~5)

 

〈1〉はじめに

建築現場における塗装作業に注目すると、図3-1に示すように外壁を仕上げるのに、窓枠の養生をしている人、ローラ塗りをしている人、吹付け作業をしている人など様々です。1)一方、車の補修塗装現場を見学すると、打痕部分の塗膜をサンダーで削り取っている人、パテ付け、研磨、プラサフの吹付け塗り(エアスプレー)をしている人など、塗装作業には沢山の技能が駆使されています。これら自補修の作業内容と技能要素については第2章をご覧ください。

図3-1

 

〈2〉塗装方法を知ろう

単に塗り広げるだけの操作は塗装とは言えません。塗装効果を果たすには、塗膜が被塗物に良く付着し、規定膜厚を維持した上で、ブツや穴、はじきなどの欠陥があってはなりません。

塗装方法は塗料の変遷と相まって進歩してきました。明治維新前後の塗料は漆や乾性油、あるいはボイル油をベースとした油性調合ペイント(洋式ペイント)であったため、乾燥が遅く、刷毛(はけ)とヘラがあれば塗り作業で困ることはありませんでした。ところが、速乾性のニトロセルロースラッカーが出現した時に刷毛塗りは難しくなり、スプレーガンが開発されました。国産初のスプレーガンと吹付け装置が上市されたのが1930年です。2)これを契機に、自動車を中心に一気に工業塗装が進歩しました。スプレーガンのように塗料の変遷に応じて開発された塗装機もありますが、工業塗装では製品が主体であって、これらを塗装仕上げするためにはどのような塗料と塗装装置が必要かを考え、開発を進めます。

大量生産の金属製品を例に取ると、成型前に塗装するプレコート(Pre-coat)と成型後に塗装するポストコート(Post-coat)方式が考案されました。ポストコート方式は自動車などのように、車体に成形した後で塗装仕上げする一般的な加工方式ですが、プレコート方式は図3-2に示すように画期的な方式です。3)~5)プレコートメタル(Pre-Coat Metal)、略してPCMと呼ばれる塗装鋼板から家電用製品やスチール物置などが生産されています。この装置の概要は次のようです。

図3-2

コイル状に巻かれた幅1m弱,長さ数百mもの薄い鉄板を巻き戻し、毎分50m以上の速さで走る鋼板はまるで印刷のように塗装されます。脱脂、皮膜化成処理後に、下塗り、上塗りをロールコーターで塗装し,そのまま220℃ほどの高温焼付け炉を30秒くらいで通過して塗膜となります。一般に、裏面は上塗りの塗装・焼付けが1回、表面と同時に行われます。冷却後,コーティングコイルとして巻き取られます。塗装ラインで回収した溶剤は焼付け炉の熱源に使用され、VOCはほとんど発生しません。5)

プレコートとポストコート方式を比較して、両方式の特徴を抽出すると、図3-3のようにまとめることができます。4)とりわけ、大きな差異は生産ラインのスピードです。PCMラインでは50~150m/minと高速です。吹付け塗装では10m/min以上は困難です。均一な膜厚の高速塗装が可能な塗装法には後述するカーテンフローコーターもあります。PCM装置には図3-2に示すロールコーターが一般的に採用されています。

図3-3

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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