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【解説】東日本大震災・原発事故「風評被害」

ゼロからわかる福島のいま 第7回
  • 2023年02月15日

「風評被害」とは?

ふだんニュースでよく耳にする原発事故の風評被害とは、そもそもどのようなものなのか。

福島県では、原発事故のあと、放射性物質の検査結果が基準値を下回っているのに農産物や水産物などが売れなくなったり、原発から離れた地域まで放射線量を気にして観光客が来なくなったりする状況が続きました。こうした状況が「風評被害」と呼ばれています。

食品価格の変化から見る「風評被害の現在地」

農林水産省の資料より

国は、風評被害の実態を把握するため、コメ、牛肉、モモ、あんぽ柿、ピーマン、ヒラメの6つを
重点品目として、東京の卸売市場の取引情報などをもとに価格変化などを公表しています。

そのデータを見ると、原発事故の発生した直後は軒並み価格が下がっていることがわかります。出荷制限がかかっていたためヒラメはデータがありませんが、あんぽ柿が全国の干し柿の平均価格の半値以下になったほか、モモも40%以上値下がりするなど、5品目すべてが全国平均を大きく下回りました。

こうした状況は、事故後徐々に落ち着いてきてはいますが、まだまだ風評の払しょくは道半ばです。ヒラメとピーマンは、おととし、原発事故後初めて全国の平均価格を上回りましたが、ほかの品目はまだ全国平均を1割から2割ほど下回る状況が続いています。

観光客数の推移から見る「風評被害の現在地」

福島県の資料より

次は、観光面から風評被害の現状を見ていきます。原発事故が起きる前の年、年間5700万人あまりいた観光客は、平成23年には3500万人あまりと4割近く減りました。その後、徐々に回復し、コロナ禍になる前の平成30年には事故前とほぼ同じ水準にまで戻りました。こうして見ると風評被害は落ち着いたと言えるかもしれませんが、そうとも言えない状況があります。

地方別に見ると、平成30年は事故前と比べて、中通りが+16%、会津が+4%となった一方で、浜通りは-32%となっていて、地域によって大きな差があります。帰還困難区域など立ち入りが制限されている地域が残っている影響も大きいと思いますが、こうして見るとまだまだ風評を払しょくできたと言える状況ではないと思います。

風評払しょくのために

風評払しょくのため、食品に含まれる放射性物質の検査を徹底して安全性をPRするとともに、新たな県産品を開発したりする取り組などが続いています。例えばコメは、今でも原発周辺の10市町村のものはすべて検査されていて、水揚げされる魚も県と県漁連によるサンプル検査が行われています。

また、福島県の内堀知事が、1月にアメリカでトップセールスを行い、全米でスーパーを展開する企業との間で年間100トンを目標に県産のコメを輸出することで合意するなど、消費者や流通関係者への働きかけは国内だけでなく海外に向けても続けられています。観光面でも、被災地の状況を見て復興の現状を知ってもらう「ホープツーリズム」の取り組みを進めるなど、風評被害の払しょくに向けた官民挙げての取り組みが続いています。

  • 出原誠太郎

    NHK福島放送局

    出原誠太郎

    広島県福山市出身。2018年入局。福島が初任地で、警察司法担当を経て、いわき支局で被災地取材に当たり、現在は遊軍担当。

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