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2022年8月3日(水)

移住新時代 過疎地域にチャンスあり

移住新時代 過疎地域にチャンスあり

今、都市から過疎地へ移住する若者が増えています。最新の国勢調査によると過疎市町村の半数近くで20代後半から30代の転入者が転出者を超えました。リモートワークを活用し転職せずに移住したり、町の支援策を使って資金150万でパン屋を開業したり、農業で売り上げ1千万を目指す若者が現れたりと、新たなトレンドが。チャンスの少ない都市を脱し、人手の足りない過疎地で暮らし始める若者たち。可能性と価値観の変化を見つめました。

出演者

  • 藤山 浩さん (持続可能な地域社会総合研究所所長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

新移住時代 過疎地域にチャンスあり

桑子 真帆キャスター:
地方への移住、今大きく様変わりしています。こちらは今、20代~30代がどのように移動しているかが分かる地図です。

青は出ていく人が多い市町村、赤は逆に移住してくる人が多い市町村です。

この赤い地域の中で、過疎の市町村だけに絞って見ても、半数近くで移住してくる人のほうが多いことが分かりました。一体何が起きているのでしょうか。

新移住時代 "転職なき移住"

急速な過疎化に悩んできた、群馬県みなかみ町(まち)。今、若い世代の移住が急増しています。

2年前、東京から移住してきた田宮幸子さんです。

ITエンジニアの田宮さんはコロナで出社が難しくなり、仲間と会う機会が減りました。そのため東京に住む必要性を感じなくなったといいます。そこで田宮さんは、いわゆる「転職なき移住」を決意します。東京から新幹線で1時間余りという地の利を生かし、テレワーク施設でこれまでの仕事を続けています。

最新の調査によれば、転職を伴わない移住者は全体の半数以上に達しています。田宮さんが移住していちばんよかったと感じるのは、地元住民や、ほかの移住者とのつながりができたことです。

地元で家業を継いだ桐製品の職人や、東京の広告代理店に勤めながらクマやシカの狩猟をしている女性。この町から環境問題を発信したいと意気込む若者など、経歴や仕事は多種多様。都会では会話を交わすこともありませんが、ここでは自然に仲良くなり、互いに刺激を与えあう存在になりました。

東京から移住 田宮幸子さん
「日本の田舎にこんなおもしろい人がいるんだと知って、そこから定住して、そういう人たちと深く関わりたいなとか、同じ生活をしてみたいと思うようになった」

この町では3年前に9人だった移住者が、去年は64人と急増。背景には町の移住促進策もあります。移住者の新幹線通勤を3年間、月最大3万円補助する仕組みなどを設けています。

みなかみ町 移住・交流促進係 中山文弥さん
「東京から距離が近い、テレワーク施設が複数ある、引っ越し感覚で入りやすいんじゃないかと思っている」

若い移住者30%増 地域の宝をなりわいに

一方、都会から遠く離れた過疎地でも若者の移住が増えています。

若い世代が5年間で30%も増加した、福島県昭和村。移住者を惹きつけているのは、安定した収入が得られる村の特産物です。

日本有数の生産量を誇る、かすみ草。標高500メートル以上の気候が栽培に適し、市場で高く評価されています。

30代の菊地進二さんと妻の結さんは、ことし4月に福島市から移住してきました。映画が好きで、レンタルビデオ店の正社員として働いていた2人。業績低迷で中古パソコンや携帯電話など、映画以外の商品を扱うようになる中、やりがいを見失ったといいます。

福島市から移住 菊地進二さん
「自分のあずかり知らないところで出来上がったものを、ただ売っていくのに自分が納得できない。自分が一からやっているものなら納得して、お金をちょうだいして生活していくことに迷いがなくなるんじゃないか」
福島市から移住 菊地結さん
「(以前は)バタバタと年数が過ぎていく感じだった。これからの人生を考えたときに(農家として)やってみるのもいいんじゃないかと思った」

新たにかすみ草の栽培を始める移住者は、2年間指導を受けることができます。

菊地進二さん
「技術も惜しげもなく教えていただけるので、不安どんどんなくなっている」
指導農家
「最初の年でも(売り上げ)400~500万円はいくんじゃないか。3年くらいで1,000万円以上になっている子いっぱいいますよ」
菊地進二さん
「頑張ります」

都会からチャンスを求めて、また若い移住者がやってきました。仙台で保育士として働いていた佐々木尭さんと、妻の由惟さんです。

仙台から移住 佐々木尭さん
「かすみ草は、たまたま見つけた。ここに書いてあるが『稼ぐ』。かすみ草で稼げるというのをみて『えっ、稼げるの?』って。いろんな可能性があるんだ」

佐々木さん夫妻は、持ち主が高齢化し、貸してくれることになった畑で、かすみ草の栽培に取り組みます。

研修中は、国からの給付金が夫婦合わせて年300万円。独り立ちしたあとも最大3年間225万円が支給されます。村からも栽培指導のみならず、畑を借りたり、苗を購入したりする際に、さまざまな助成金が出ます。こうした支援の背景には、高齢化でかすみ草の担い手が不足しているという事情があります。

指導農家
「昭和かすみ草というブランドが出来上がっているが、数が減ってしまうとブランド力も落ちてしまう。担い手がよそから入ってきてもらえるのはありがたい」

それでも、佐々木さん夫妻に不安がない訳ではありません。かすみ草栽培がうまくいくのか。給付金の期限が切れても生活ができるのか。それだけに、むだな支出はなるべく抑えようとしています。

仙台から移住 佐々木由惟さん
「壁も塗り終わって、ようやく整ってきた」

暮らし始めた築70年の古民家の家賃は、月5,000円です。この辺りは公共交通が少なく、移動は車頼りでガソリン代がかかります。冬は雪深く、燃料代もかかります。それでも、畑で自家用の野菜を育てるなどして支出を抑え、月々の生活費は仙台にいた時の半分以下になりました。

佐々木尭さん
「小さい幸せがたくさんある。お向かいさんが野菜をくれたり、(以前は)感じられなかった幸せがたくさんある」
佐々木由惟さん
「厳しいけど、ワクワクするよね」
佐々木尭さん
「ワクワクするね」

"お試し移住"で35人 村に変化が起きた

昭和村には、コロナをきっかけに自分らしい生き方を求めて移住してくる若者も増えています。

伝統工芸の「からむし織」。村では糸を作り、帯を織り上げるまで自分の力でおよそ1年かけて体験するコースを用意しています。

この体験コースをきっかけに、35人が村に定住。ことしも東京などから4人が体験にやってきました。

百貨店の販売員だった中野さんは、自分の手を使ってじっくりとものづくりをしたいと考えました。

東京の百貨店で販売員をしていた 中野美沙さん
「(コロナで)休業があって自分が販売とかできなくても、世の中は回っていく。販売を辞めるなら何をしようかと思ったときに、必要なものと好きなものと吟味した生活ができたらいいなと思った」

過疎地で自分らしさを見つけ出そうとする、若者たち。昭和村の暮らしに大きな変化を生み出しています。

廃校になった小学校で、週末に開かれているマーケット。

移住者を中心に、手作りの洋服やアクセサリーなどを販売。村の外からも大勢の人が訪れます。

千葉から移住 島村美緒さん
「豊かさを受け取っている感じがある。大変なこともあるけれど、それを含めて自分が何を選ぶかが大事な気がします」

移住者なぜ増えた 都会と過疎地の事情

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、長年過疎地域の再生について研究をされてきた藤山浩(こう)さんです。よろしくお願いいたします。

スタジオゲスト
藤山 浩さん (持続可能な地域社会総合研究所所長)
過疎地域の再生に詳しい

藤山さん:
よろしくお願いします。

桑子:
今見たように、過疎地域に移住する若者が増えている、これはどうしてだと思いますか。

藤山さん:
そうですね。都会側の押し出す要因と、過疎地側の引き入れる要因、両方が効いていると思います。

都会側では、やはり雇用とか暮らしが厳しいというので、夜8時、9時になっても帰れないような状況もあります。「これ、一生できるんだろうか」という不安がある。

過疎地域側では今本当に担い手が減っていて、地域側も働く場としていろんなものを用意したり、空き家を改修したりということがあると思いますね。

桑子:
なるほど。若者が移住してるという点については、いかがでしょうか。

藤山さん:
特に、30代にかけては人生にとって大切な時期ですよね。結婚あり、子育てあり、その世代で過疎地を選ぶ人が増えてるというのは僕はすごく注目してます。

桑子:
ただ、移住してもなかなか定住できない、失敗してしまうケースも聞くわけですが、原因はどんなことだと思いますか。

藤山さん:
逆に言うと、成功するには3つの要素が要るんです。

桑子:
3つ。

藤山さん:
1つは「仕事」ですね。2番目は「住まい」。3番目が見過ごされやすいのですが「移住先のコミュニティ」ですね。

やはり過疎地域は、例えば草刈りなんかのように、みんながちゃんと助け合うことで成り立っているわけです。例えば道も通れるようにするとか。これがなかなか都会にはない話なので、事前には知らなかったと。これが移住のトラブルの大半なんです。

桑子:
なにか対策というのは打たれているのでしょうか。

藤山さん:
私は、受け入れる側の地元も簡単なものでいいので「うちはこういうルールでやってるよ」というような手引を作るとか。移住する側も(移住先に)通ってほしいし、とにかく相談できる人を1人でも作ってから移住してほしいですね。

桑子:
移住した先に相談できる人を作っておくということも、受け入れる側には求められているかもしれないですね。

藤山さん:
そうですね。そういう一種の後見人的な人ですよね、要ると思います。

桑子:
過疎地域への移住でよく挙げられる心配事として、生活に必要な公共交通やお店、それから病院などが十分でないこともあります。今、その状況を逆手に取って、移住者を迎えようとしている自治体があります。

過疎を逆手に対策打つ 店の呼び込みに成功

人口およそ4,500の小さな町、宮崎県美郷町(みさとちよう)。過疎化が進み、地域から生活に必要な飲食店やガソリンスタンドなどが次々と姿を消しています。

しかし町はこの状況を逆手に取り、移住者の増加や新たな起業につなげようとしています。町の担当者の1人、髙城陽子さんです。

髙城さんたちは、まず町にどれだけの起業のチャンスがあるかを知るため、町民の消費動向を調査しました。すると驚くべき結果が出ました。

例えば食費。町民全体の支出額は年間およそ14億円。このうち、7割にあたるおよそ10億円が町の外で支出されていたのです。

美郷町 地域おこし協力隊 髙城陽子さん
「10億円、70%が流出しているということは、これだけ町内におかず市場のニーズがあることになる。パイをちょっと取るような感じで経営の作戦を練っていければ、そこでも十分おかず、お弁当の起業はできるんじゃないか」

飲食店やガソリンスタンドなどは本来、町になくてはならないもの。それをもう一度開業し、移住者に担ってもらえば安定した収入が得られることが分かったのです。

実際の成功例もあります。町の支援を受け、ことし、この町に移住した岩佐さん夫妻。この町唯一のパン店が廃業し、町が新たな経営者を公募したのをきっかけにやってきました。

買えば1,000万円以上する調理器具をそのまま利用できたため、開店資金は150万円ほどに抑えることができました。地元産の卵や野菜を使ったパンは、週末は昼過ぎに完売するほどの人気です。

町民
「ありがたい、パン好きですから。(近所の)何軒分もまとめて買いに来ます」
岩佐千香子さん
「店を開けるときに『パン屋さんができるのうれしい』とすごく言ってもらえた。美郷町を選んでよかったなと、そのとき思いました」

これまでは、自然の中で子育てしたいという若者世代のニーズにも十分に応えられていませんでした。

結婚を機に、この町に移住してきた上村(かみむら)かおりさんです。子どもを預けられる選択肢を増やしたいと、ことし豊かな自然と触れあえる新たな保育園を立ち上げました。

保育所を立ち上げた 上村かおりさん
「美郷町は無いものは無いことがすぐにわかる。だったら(自分で)やるしかないということが、すごくシンプルだった」

美郷町では、もとからの住民と移住者が協力して、どんな地域を作っていくか話し合いを重ねています。

移住者
「増谷川があるのがいいかなと」
住民
「地元の人では、それに気づかん。増谷川は確かに財産、いいわ」

地域の隠れた魅力や課題を掘り起こせば新たなチャンスが生まれると、取り組みを進めています。

美郷町 企画情報課 菊池秀樹さん
「コミュニティが20年後も存続、存在して、皆さんがその中で暮らしていけるような地域であるための取り組みを目指している」

過疎地域への移住 時代のフロンティア

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
藤山さん、地域にとって弱点とされる部分を逆にチャンスに変えるという取り組みでしたが、こういった動きはほかに見られるのでしょうか。

藤山さん:
結構全国的に広がっていて、山奥の空き家にカフェが出来たりとか。

桑子:
カフェ?

藤山さん:
ええ。商店街も、空いた一角に本屋さんが出来たりとか、かなり今は全国的に広がっていますね。

桑子:
実際にカフェとか本屋さんが出来て、地元の方の反応はどうですか。

藤山さん:
すごく歓迎されていますよ。1人でふらっと行けたりする場所があるというのが、特に若い女性の方も含めて喜ばれていますね。

桑子:
そこで新たなコミュニティが出来上がっているということですね。まさに移住者がやりたいことと、過疎地域が必要としていること、うまくマッチングできるかが大事だと思うのですが、そのためにはどんなことが必要だと思いますか。

藤山さん:
私は、誰でもいいから来てくれというのはだめだと思っていて「うちは、こういうふうな地域にしたいから、こういう得意技とか、こういうポジションの人に来てほしい」とか。移住する側も「何でもいいから」ではなくて「自分はこういうことしたいし、こういうポジションがあったら」と、そういうのをきちっとマッチングする、確かめ合うようなプロセス、時間のかけ方は必要だと思います。

桑子:
そうした中で、移住というと「農業」というイメージを持つ方が多いと思うのですが、農業という観点で移住についてはどういうふうに考えていらっしゃいますか。

藤山さん:
農業もこのまま何もしないでいると、多くの地域で農業する人が10年で半減してしまうんです。本当にピンチなんですが、逆に、そういう意味ではレギュラーポジションが空き始めているチャンスでもあると思います。ですから農業だけではなくて、先ほど言ったカフェも本屋もするとか、いろんな合わせ技も要ると思います。

桑子:
半分農業、半分カフェとか。

藤山さん:
一人で孤軍奮闘するのではなくて、美郷町の例でもあったように、パン屋さんをするのでも地元の農家から仕入れてあげるとか。そうすると、少ない売り上げでも地域の中、循環していきます。これがすごく大切なんです。

桑子:
なるほど。こうして若者が移住が進んでいくと、どういう未来があるというふうに思いますか。

藤山さん:
実は、こういうふうに地方の人口がすごく減って、一極集中が続いてる先進国はほとんど日本だけなんです。

桑子:
そうですか。

藤山さん:
ヨーロッパを見ると、2、30年前から「田園回帰」が始まっています。

田園回帰
都市から地方への移住が活発化している状況

桑子:
それはどうしてなんですか。

藤山さん:
やはり、農村での暮らしをしっかり評価する価値観がありますし、政府のほうもかなり本腰を入れた所得保証の政策をしています。国民の食料など、命を支えるということが共通理解されていますから。

桑子:
そういう保証について、日本は現状どうなのでしょうか。

藤山さん:
比べてみると、まだそこまで行っていないですね。これは、都市の人にとってもすごく大切な未来へ長続きする暮らしへの「投資」だと思います。

これから循環型社会に進化していくと。そこで本当に鍵を握ってるのは、再生可能な資源とか、エネルギーがたくさんある過疎地域だと思うんです。そこが本当に時代のフロンティアになっていくと。

そこへ今度は、若者世代が入っていろいろチャレンジするというのは過疎地域にとってのみならず、都市も含む国民全体にとって大切な流れが今起きようとしているのではないかと期待してます。

桑子:
ありがとうございます。

有機野菜で副収入 耕作放棄地を活用

宮崎・美郷町で起業支援を担当している、髙城さん。実は髙城さんも去年、家族と共にこの町にやって来た移住者です。

髙城さん一家は、地域に広がる耕作放棄地を活用。有機野菜を作ってネット販売し、月およそ10万円の収入を得ています。こうした環境に優しい小規模な農業ができることも、若者を過疎地域にひきつけています。

夫 嘉樹さん
「こうやって家族みんなで食卓を囲むことがなかった。それがいま6時、7時にみんなでいただきます、ごちそうさまが言えるのが幸せです」

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