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【豪雨】熊本豪雨から学んだ命を守る10の教訓【防災】

  • 2023年07月04日

2020年7月4日の未明、熊本県には突如、線状降水帯が発生。球磨川が氾濫するなどして、県内で死者・行方不明者が69人出るという甚大な被害をもたらしました。

これが令和2年7月豪雨(熊本豪雨)です。
ぜひ皆さんにおぼえてほしい、この災害から得られた命や財産を守るための10の教訓を振り返ります。

①線状降水帯の危険性

発達した積乱雲が次々と連なる「線状降水帯」。最近、雨の降り方が激しくなる中で発生が相次いでいます。熊本県では2020年7月4日、南部の人吉球磨地方を中心に線状降水帯が発生し、予想をはるかに上回る大雨となりました。

(2020年7月4日の線状降水帯)

この大雨によって、この地域を流れる球磨川が氾濫。人吉市や球磨村では中心部が完全に浸水しました。球磨川の流域だけで50人が犠牲となりました。

ひとたび線状降水帯が発生すれば、甚大な災害になりうることを示した災害となりました。この災害のあと、気象庁は予測技術を向上させ、線状降水帯の発生予測(最大で半日前)や、発生情報の発表を始めました。

発生予測が出された場合は災害が起こるかもしれないという心構えをして避難の準備、発生情報が出た場合は命を守る行動が必要です。

②被害を拡大させた“夜間”の大雨

熊本豪雨では、深夜から雨が強くなり、夜間から朝方にかけて雨のピークとなりました。避難が難しい暗い時間帯の豪雨で、逃げ遅れて亡くなる人が出るなど、被害が拡大しました。

雨が強くなったのは日付が4日に変わった時刻からでした。
避難の難しい夜間の豪雨で、多くの人が危険に気づかず、気がついたときにはすでに逃げ遅れていたと話す人も多くいました。実際、熊本県では夜間や朝方に大雨が多いというデータがあります。

提供:熊本地方気象台

このグラフからも、夜間や朝方に大雨が多いことが分かります。気象台によりますと、詳しいメカニズムはまだ解明されていないものの、夜間に西の海上で発達した雨雲が熊本県に流れ込んでくるためだということです。

夜間に大雨が予想される際には、安全な場所で寝ること、事前に安全な場所に避難しておくことが重要です。

③梅雨の大雨の予想の難しさ

豪雨の前の日に熊本県で予想されていた24時間で降る雨の量は、いずれも多いところで球磨地方で200ミリ。しかし、実際には各地でその2倍の400ミリ以上に上りました。

この日降った雨が、気象台の予想をはるかに上回るものでした。平年の1か月に降るような量の雨が1日で降ったのです。

大気中の水蒸気の量をはかる新技術などが投入されるなど、予測技術は毎年高まっていますが、それでも、梅雨の大雨は特に予想が難しいとされ、予想外の大雨になることがあります。

「梅雨の時期は予想よりもひどい雨になるかもしれない」ということを頭に入れておくことが大事です。

④避難を妨げる「内水氾濫」

熊本豪雨では、球磨川の氾濫より前に、町を流れる水路や小さな支流から水があふれる「内水氾濫」が発生し、避難を妨げて、逃げ遅れた人がいると指摘されています。

人吉市で球磨川の水が市内に流れ込んだと見られるのは午前7時ごろ。しかし、水路や小さな支流から水があふれたのはそれよりも前の時間でした。あふれた水は流れを伴っていて、最新のシミュレーションでは、内水氾濫の水だけで避難が難しかった地区があることも見えてきました。

(人吉市内の内水氾濫のシミュレーション)

また、人吉市の中心部では、飲食店をしていた50代の女性が内水氾濫によって店のドアが開けられずに逃げ遅れ、その後の球磨川の氾濫で亡くなったとみられるケースもありました。

専門家は、身近な水路や小さな川のリスクを認識して避難の計画を立てておくことが大事だと呼びかけています。

中央大学の福岡捷二教授
「雨の降り方が激しくなっているなかで、内水氾濫で避難が難しくなったあとに、大きな川があふれるというケースは今後も考えられる。命を守るため、内水氾濫のリスクを踏まえた避難の計画をそれぞれが立てていくことが重要だ」としています。

⑤家も流される「氾濫流」

球磨川の氾濫では「氾濫流」と呼ばれる、住宅ごと押し流してしまうような威力の流れが発生し、そのまま亡くなった方もいました。

球磨川で発生した「氾濫流」は、流れが秒速3メートル以上、付近の水深は6.2メートルに達し、水の力が住宅を押し流すほどにまでなっていたところもありました。実際に住宅ごと流されて亡くなった方もいました。

(多くの家が流された球磨村)

球磨川に限らず、傾斜の急な山間部などの川では大雨の際に氾濫流による住宅の倒壊や流出のおそれがあります。
こうしたリスクのある場所は、「家屋倒壊等氾濫想定区域」に指定されていて、ハザードマップで確認することができます。

氾濫流の発生する場所では、建物の2階以上に逃げる垂直避難では命の危険がある場合があり、早い段階で安全な高台などへ移動しておくことが大切です。 

⑥過去の経験よりハザードマップ

何度も水害に見舞われてきた人吉市では、過去の水害の経験から「この高さまで水は来ないだろう」と考えた人も多くいました。しかし、過去の水害を上回る水害となり、逃げ遅れた人が多く発生しました。雨の降り方が激しくなる中で、過去の経験で油断をしないことが大事です。

過去にも水害に見舞われてきた人吉市では、過去の水害の経験を基準に避難行動を考えていた人も。

「過去の経験が油断になった」「前の水害では浸水しなかったから、まさか水が来るとは思わなかった」。そのような声が多く聞かれました。

(過去の水害の標識よりも上まで浸水した)

一方、人吉市の浸水エリアは最新のハザードマップで想定されている浸水エリアとほぼ一致していました。

雨の降り方が激しくなる中で、過去の経験から安易に「大丈夫」と判断せず、ハザードマップなどを確認しておくことが重要です。

⑦その避難所は大丈夫?
 浸水する場所も

熊本豪雨の際には、人吉市の避難所が浸水してしまい、急きょ別の場所に避難者が移動を強いられたケースがありました。水害の時に使える避難所なのかどうかをしっかり把握しておくことが大事です。

人吉市では市の指定緊急避難所が実際に浸水。そこに向かっていた高齢の女性が危険にさらされたケースがありました。

(当時浸水した避難所)

実は、避難所に設定されている建物のうち、浸水のリスクがあるところは少なくありません。避難所は洪水や土砂崩れ、地震など、災害別に使用できるところが決まっていて、水害時には安全ではない場所もあるのです。事前に水害時の安全な避難先と避難ルートを確認しておくことが大事です。

⑧避難は快適に!選択肢を増やそう

避難とは、避難所に行くことだけではありません。安全で快適に過ごせるよう、避難の選択肢を増やしましょう。

避難とは、「難を避ける」こと。避難所に行くことだけが避難ではありません。

▼避難所に行く
▼家が安全な人はそのままに家にいて外に出ない
▼安全な場所に住む親族や知人の家に行く
▼ホテルに泊まるホテル避難
▼離れた安全な地域に旅行に行く など

熊本豪雨のあと、人吉市内のホテルではホテル避難をする人の姿も見られるようになりました。いかに快適に難を避けられるか、住む場所と自分に合った選択肢を選ぶことが大事です。

⑨「あなたの避難が誰かを救う」

一人ひとりが早めに避難をすることで、本当に救助が必要な人のところに救助を集中されることができます。

「あなたの避難が誰かを救う」。豪雨の被災地を管轄していた消防のトップが話していた言葉です。

当時、消防には逃げ遅れて救助を求める人から救助要請が殺到。しかし、人員も機材も限られるなか、救助要請の一部にしか対応できませんでした。実際、救助要請の中には亡くなった方も複数含まれていました。

(当時の消防の通報記録)

一人ひとりが早めに避難することで全体の救助者数が減れば、本当に救助が必要な人のところに救助に向かうことができるのです。あなたの避難が、見えないところで誰か他の人の命を救うことになるかもしれません。

⑩火災保険の水災補償も検討を

水害のリスクのある場所では、被害を受けた時のため、火災保険に水災補償をつけることも重要な選択肢です。

水災補償は、住宅にかける火災保険に付帯させるもので、
住宅が浸水したり土砂崩れで被害を受けたりした場合に
再建やリフォームする費用を受け取ることができます。

(被災後のリフォーム工事の例)

球磨村が行ったアンケートでは半壊以上の被害を受けた世帯のうち4割が水災補償に加入していませんでした。こうしたことを受けて、被災者の再建を促進しようと、村は年額の保険料の一部を補助する制度を設けています。

もちろん保険は金融商品です。自分の住む場所のリスクと保険料をてんびんにかけ、しっかり検討することが重要です。

教訓を生かして次の水害に備える

熊本豪雨は、多くの教訓を私たちに残した災害でした。

雨の降り方が激しくなるなかで、次の災害はどこで起きてもおかしくありません。命や財産を守るため、その教訓を生かして次なる災害へ備えてほしいと思います。

  • 岸川優也

    熊本局記者

    岸川優也

    2020年入局
    豪雨災害や事件事故の取材を中心に担当

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