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写真加工アプリ・美容整形が人気 顔の見た目とどう向き合う?

  • 2023年3月3日

自分の顔写真をアプリなどで加工する人が増えています。技術の進歩により、目を大きくしたり、口のかたちを変えたりするなど、理想の自分を作り出すことが可能になってきました。

そうした中、現実の顔を理想に近づけたいと、美容整形をする人も増えています。美容整形で人生が豊かになったという声がある一方で、生きづらさを感じるという人も。
見た目の悩みとどう向き合っていけばいいのか、取材しました。
(首都圏局/ディレクター 古田優季・竹前麻里子)

証明写真を加工する写真館に全国から客が

証明写真など、公の場で使う画像の加工を希望する人が増えています。履歴書や学生証などに使う証明写真を加工する写真館です。
※運転免許証などに使う画像の加工・修整は認められていません。

20代の女性は以前、撮影した証明写真が気に入らず、この写真館をインターネットで検索して訪れました。

20代女性

証明書って結構、長い間持ちますよね。ずっと気に入らない写真を持つのは、あまり気分がよくなかったです。身分証明を求められたときに、気に入らない写真よりは、気に入ったもののほうが、出しやすいかなと思いました。

撮影が終了すると、スタッフが写真を女性に見せながら、修整したい部分をヒアリングしていました。

スタッフ

まずフェイスからやっていきます。ご要望ありますか?

女性

あごですかね。あと、ほっぺたがもうちょっとシュッとなったら。

 

ちょっと削りながら、あごのラインも整えていきます。

 

眉毛が若干下がっているので、ちょっと上げてほしい。

 

眉山のあたりが下がってる印象ですかね。上げていきます。

輪郭や、眉毛のかたちを整え、肌の色や唇のバランスなども修整しました。

 

めっちゃいい感じ。いつも撮る証明写真よりも、ずっときれいに撮れたなと思うので、これなら使うのも嫌じゃないです。

画像を加工したいという希望は男性客にも多く、写真館の予約は連日満員。小学生から80代まで、幅広い層が訪れています。

写真館 マネージャー つぐみさん
「沖縄、福岡、北海道など、全国からお客さんが来ています。顔写真を少し修整することで、より自分の理想の顔になれるということで、皆さんが利用してくださっています」

アプリでも理想の顔を作ることが可能に

自分の顔を自在に修整できる、加工アプリの利用も広がっています。アプリでどれだけ「理想の自分」に近づけるのでしょうか。お笑いコンビ・真空ジェシカのガクさんに協力してもらい、実験しました。

ガクさん

目が切れ長なのが嫌ですね。もうちょっと柔らかい感じなったら。「ごはん食べてる?」とか「元気ないね」とかすごく言われるので、輪郭も、もう少しふっくらしていたらいいのにと思っています。

目や鼻、顔のかたちを自在に変えられるアプリを使って、ガクさんの画像を加工すると…。

 

すごい!シンプルに、人間として好みの顔。あこがれていた顔かもしれない。

理想の顔に近づきたい 整形する人も増加

こうした中、いま増えているのが「現実の顔も変えたい」という人たちです。大学生のりおさん(仮名・21歳)は、目や鼻、輪郭など10種類以上の美容整形を受けてきました。

りおさん(仮名)
「加工後の写真が『実物と違う』と言われたらショックで悲しいです。加工アプリを使うと、『ここを整形したら、もっと加工した顔に近づけるのかな』と思って、整形欲が高まっちゃいます」

加工アプリで美容整形後の顔をシミュレーションする

実家で暮らしている、りおさん。整形について、当初は親から反対されましたが、思いとどまることはありませんでした。

りおさん
「ほかの子も『ねえ見て。きのう整形してきたんだよね』といった感じなので、後ろめたさはありませんでした。顔にメスを入れることにあまり抵抗がなくなっちゃって、『切ったほうが早くない?』と思い、鼻を切っちゃいました」

これまで美容整形に250万円以上を費やしました。アルバイトで費用を稼ぎながら、これからも美容整形を続けていきたいと考えています。

りおさん
「終わりはないと思います。この顔はまだ理想じゃない。加工の画面の中の、自分の顔になりたい」

美容整形を手がける都内のクリニックでは、5年間で患者数がおよそ8倍に急増しました。

美容整形に対する捉え方が変わって来ているというデータもあります。

クリニックが10代から30代の女性に、「コンプレックス克服のために美容整形をすることをどう思うか」聞いたところ、2019年の調査では、65%の人が「肯定する」と答えていましたが、2年後には、「肯定する」と答えた人が90%にまで増えていました。

こうした背景には何があるのでしょうか。臨床心理学が専門で、容姿に関する人々の心理を研究している、東京未来大学の大村美菜子さんに聞きました。

東京未来大学 こども心理学部講師 大村美菜子さん
「SNS上に美容整形に関する情報や画像なども上がっていますし、若い世代にとっても手をだしやすいものになってきていることが考えられます。もう一つとしては、コロナ禍のマスク生活で、美容整形後のダウンタイム(施術後の腫れなどが回復するまでの期間)が隠せるということです。
例えば、スキンケアやメイクアップなど、化粧をすることでメンタルヘルスが向上するという研究もあります。美容整形することで自信が持てたり、自分が満足したりするのであれば、選択肢の一つとして、とりうる社会になってきています」

美容整形してもつらい 生きづらさ感じる人も

一方で取材の中では、見た目で判断される社会の風潮に、生きづらさを感じている人もいました。大学時代に、目や鼻など10種類以上の美容整形をしたというゆいさん(仮名)です。美容整形するきっかけは幼少期からたびたび受けてきた、容姿に対する“評価”でした。

ゆいさん(仮名)
「彼氏が友達に、私の写真をLINEで送ったところ、『え?ブスじゃね?』という返信が来ているのを見たり、通りすがりの人に、『うわ、ブス』と言われたりしました。普通に生きているだけで見た目をジャッジされる世の中だなと感じていました」

理想の顔に近づくには、美容整形におよそ300万円かかる計算でした。大学に通いながらその費用を稼ぐため、ゆいさんはパパ活をしたり、風俗店で働いたりしました。

ゆいさん
「パパ活は1回に5万円くらいもらえるので、1日に2回やると10万円とか。月で100万円くらい稼ぎました。パパ活は嫌だなと思っていたけれど、『あと何万で鼻が整形出来るな』とか思えたから我慢できました。

整形のためにはじめたけど、汚れていくし、病んでいたし、『何でこんなことしてまで整形しなきゃいけないんだろう。でも整形しないと生きていけないし。ブスのままだったらお先真っ暗』と思っていました」

10代の多感な時期から、そうした生活を3年間続けたゆいさん。見た目は理想に近づいても、心が満たされることはありませんでした。

ゆいさん
「整形したら、自分に投げかけられる言葉が、『うわ、ブス』から『うわ、かわいい』に変わったけれど、それはそれでムカつくようになりました。

『そんなに人の目を気にしなければいい』と思う人もいるかもしれないけれど、町なかを歩いているだけで、ジャッジの視線とかジャッジの言葉にさらされる世の中だから、気にせずにいるのは無理でした。

心ない言葉を突然かけられることがなければ、パパ活までして整形しなかった。生きづらいです」

“ルッキズム”とどう向き合うか

“ルッキズム”=人を見た目で判断する風潮に、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか。再び、東京未来大学の大村美菜子さんに聞きました。

大村美菜子さん
「現代はSNSなどで他者を簡単に批判しやすい時代だと思います。

まず大前提として、容姿で他者を差別したり冷笑したりしないこと。そのためには思いやりを持った発信をしていくこと。当たり前のようですが、そういったことを積み重ねることで容姿に苦しんでいる人を救う手立てになったり、これから苦しむかもしれない人を守ったりすることにもつながります。

また、社会で目にする、『まぶたが二重じゃないとかわいくない』といった、一方的な価値観を植え付ける広告は、コンプレックスを刺激してしまうし、容姿を気にしている人をより苦しめることになります。大人たちが、このような表現をするときに踏みとどまる思考力やリテラシーを身につけるべきだと思います」

もし自分の家族や子どもが、「美容整形したい」といってきたら、どう向き合えばいいのかも聞きました。

大村美菜子さん
「美容整形することで前向きになれるような、自分軸の整形なら悪いことではありません。SNSなど、他人の評価軸ではない決断をすることが大切です。
また、美容整形は手段でしかありません。ご家族でしっかり話し合ってお互いの気持ちを理解しあう姿勢が大切です。その際に、ご家族が美容整形の知識を身に着けておくことも、本人が気持ちを素直に話せる手だてとなると思います」 

美容整形には、医療面でのリスクや気をつけるべきポイントもあります。専門家に聞きました。

聖心美容クリニック 統括院長 鎌倉達郎医師
「美容整形の中には、元に戻せるものと、1回やったらなかなか元には戻せないものがあります。また、『治療の限界』もあります。『こうなりたい』と思っても、患者さんのベースの顔から治療を行うので、限界があるということを理解してほしいと思います。

最終的に後悔しないための判断を、客観的に冷静に行うことも重要です。中には思いつきで、気持ちが高ぶって治療に来る方もいます。特に若い方は注意が必要です。

冷静に判断するためには、クリニックで話を聞いたあと、1回持ち帰って自分の気持ちを整理することが重要です。また、クリニックによっては、対応できることとできないことがありますので、複数のクリニックに話を聞いてから決めることも有効だと思います」

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  • 古田優季

    首都圏局 ディレクター

    古田優季

    2021年入局。きつ音や不登校などをこれまで取材。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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