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海で雷が少ない理由〜日経サイエンス2023年3月号より

雲が高く発達するのを塩の粒子が抑えているらしい

地球上で雨の大半は海に降っているが,海に雷が落ちるのは驚くほどまれだ。その理由は長らくはっきりしていなかったが,最近の研究は海水飛沫(波しぶき)が雲の帯電を邪魔して落雷を妨げている可能性を示唆している。

嵐の際に頭上に生じる厚い雲は,上昇気流の助けを得て十分な高さに成長すると上部で水滴が凍って丸い粒状の「霰(あられ)」と微細な氷の結晶が混合した状態になり,電気を帯びるようになる。これらの氷と霰の粒子が互いにぶつかると,電荷が移動するためだ。より大きな霰の粒は負に帯電する傾向があり,小さな氷の結晶は正に帯電することになる。

こうして帯電した氷の結晶は非常に軽いので上昇気流によって雲の最上部に達するのに対し,より重い霰は下へ沈む。時がたつにつれ,この分離によって,正に帯電した雲の上部と負に帯電した下部の間に電場が生じる。雲の上部と下部の間の電位差,あるいは雲と地表の間の電位差が十分に大きくなると,雷が発生する。



だが,比較的大きな海塩の吸水性粒子(波しぶきに多く含まれている)が存在する場合,通常は微細な塵やすすを核に凝縮して雲を形成する小さな水滴がはるかに急速に成長し, 雲が高く伸びて帯電するよりもずっと前に,それらの水滴が重さを増して雨となって降ってしまう。海上での落雷を妨げるこのメカニズムは以前から考えられていたものの,気象観測データにそれを裏づける証拠は見つかっていなかった。

微粒子のタイプを考慮してデータ解析
その証拠を求めて,中国とイスラエル,米国の共同研究チームが雲と落雷に関する世界の観測データを集め,大気中の汚染物質や塵,海塩などの粒子の分布予測と併せて解析した。異なるタイプの微粒子による雲系がどう発達するかを調べ,降雨や落雷が起こるかどうか,落雷に至るならいつ発生するかを記録した。この結果,波しぶきが多い領域では落雷が最大で90%少ないことを見いだした。Nature Communications誌に報告。

「小さな粒子の影響と比較的大きな海塩粒子の影響を切り分けることができた」と,論文を共著したヘブライ大学(イスラエル)の大気科学者ローゼンフェルド(Daniel Rosenfeld)はいう。降雨の場所と時期を予測する一般的な予報では,これらの効果が考慮されていないことが多いと付け加える。「天気予報モデルにこれらの効果を組み込まないと,状況を正しく把握できず,正確な降雨量は予測できない。気候予測モデルではなおのことだ」とローゼンフェルドはいう。(続く)

続きは現在発売中の2023年3月号誌面でどうぞ。

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