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猫とのおしゃべり〜日経サイエンス2023年4月号より

飼い主の話をちゃんと認識している

ネコの飼い主なら誰でも,自分のネコに話しかけるのはごく普通のことだというだろう。ネコはその愛情のこもった語りかけに無関心に見えるかもしれないが,Animal Cognition誌に掲載された最近の研究は,ネコたちは話を本当に聞いていることを示唆している。

フランスの研究者たちが,ネコに飼い主が語りかける声とそれ以外の見知らぬ人の声を聞かせる実験をした。様々なフレーズを,ネコ向けに語りかける口調と人間向けの口調で話す声を録音し,それらを聞かせた。ネコ向けの口調は一般に,赤ちゃんに語りかけるベビートークに似てピッチが高く,短いフレーズの繰り返しになる。ネコが明確に反応したのは飼い主がネコ向けの“キティートーク”で話した場合で,大人向け口調には反応しなかった。見知らぬ人の声の場合,大人口調でもキティートークでもネコは反応しなかった。


Pixabay

キティートーク
イヌについて同様の結果が以前の研究で示されていたが,ネコに関してはほとんど何も知られていない。「ネコは独立心が強く,人間と本当に親密な関係は築けないと考えている人はまだいる」と,この研究論文の筆頭著者で仏パリ・ナンテール大学でネコの行動を研究している動物行動学者ドゥ・ムゾン(Charlotte de Mouzon)はいう。ネコ向けに特別な声色を使うのを気恥ずかしく思う人もいるかもしれないが,この研究は「恥じるべきではない」ことを示していると彼女はいう。

ドゥ・ムゾンらはネコの飼い主16人が「遊びたい?」や「おやつほしい?」といったフレーズをネコ向け口調と人間向け口調で話す声を録音した。その後,それぞれのネコについて,自分の飼い主と別のネコの飼い主の声の録音が流れる前と最中,流れた後の様子を撮影した。そして画像解析ソフトウエアを使って,話し声に対するネコの反応の大きさを評価した。

「ネコは飼い主を無視するものだといわれているが,実のところ人間に細心の注意を払っていることを示す研究が増えている」と,メイン州にあるユニティ大学の動物行動学者ヴィターレ(Kristyn Vitale,この研究には加わっていない)はいう。また「ネコは特定の発声が持っている意味を十分に学習できる」という。今回の研究は小規模だが,将来はこれを他のネコ集団に拡大できるだろうと指摘する。

ネコが私たち人間の言っていることを理解しているとしても,「彼らには関わりたくない場合にはそれを無視する権利がある」とドゥ・ムゾンはいう。■

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