日経サイエンス  2017年8月号

特集:アルツハイマー病はこう防ぐ

アルツハイマー病に負けない力を蓄える

D. A. ベネット(ラッシュ大学)

神経病理学者アルツハイマーが1世紀以上前に報告した脳の病変──異常なタンパク質が固まってできた「老人斑」と,神経細胞の中で絡み合った線維状のたんぱく質「神経原線維変化」は,実のところ,大半の高齢者の脳に見られる。だが同程度の病変があっても,認知症の症状が表れるかどうか,表れたあとに病気がどのように進行するかは,人によって大きく異なる。この違いはどこから生じるのだろうか?

 

米国で実施された大規模な追跡研究と,参加者が死後に提供した脳の解析から,幼少期から引退後の暮らし方に関係があるらしいことがわかってきた。たとえば教育を受けた期間が長いほど,脳は病変があっても認知機能を高いまま維持する傾向がある。だがいったん認知機能が低下し始めると,教育を長く受けた人のほうがより速いスピードで落ちていくという。

 

アルツハイマー病に負けない抵抗力を備えるにはどうすればよいのか,最新研究から探る。

 

 

再録:別冊日経サイエンス224「最新科学が解き明かす脳と心」

 

著者

David A. Bennett

シカゴにあるラッシュ大学アルツハイマー病センター所長で,同大学の神経科学教授も兼任している。米国国内の機関,国際的機関の両方で編集委員や諮問委員を務めており,これまでに600本以上の査読付き論文の著者となっている。

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原題名

Banking Against Alzheimer’s(SCIENTIFIC AMERICAN MIND July/August 2016)