日経サイエンス  2023年7月号

鈍る世界人口の増加

K. ピーク(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

人口統計学者の推計によると,地球上の人間の数は2022年11月15日に80億人に達した。世界人口は過去数十年,およそ10年ごとに10億人のペースで着実に増えてきた。だが,そのパターンが変わりつつある。人口増が鈍り始めており,専門家は世界人口が2080年代のどこかで104億人でピークに達するだろうと予測している。 

この減速は少子化が一因だ。世界のほぼすべての地域で子をもうける数が減っている。ただし程度には違いがある。高所得国は出生率が低く,低所得国は高い。「富裕国と貧困国の出生率の差は広がり続けてきた」と,ワシントンにあるシンクタンクのウィルソン・センターで地球規模の人口動態の変化を追ってきた社会科学者のシュバ(Jennifer Sciubba)はいう。「だが,より長期的に見ると,収束の方向に向かっている」と指摘する。言い換えると,各国間の出生率の差は永久不変の溝ではない。今後数十年で狭まっていくだろう。

世界人口の増減は多くの要因による。移住や死亡率,寿命,その他の主要な人口動態指標が関係している。だが,世界の総人口が低下に向かうように見えている理由を知るには,出生率に注目するのがよい。人口統計学では,ある地域や国の1人の女性が一生の間に産む子供の人数の平均値を「合計特殊出生率」と定義している(なお,この記事のグラフィックスで「女性」としたのは,出生時に性別を女性とされたすべての人のこと)。例えば米国の現在の合計特殊出生率は約1.7,中国は1.2だ。

そして合計特殊出生率2.1が,人口が維持されるのに必要な「人口置換水準」はだと考えられている。現在,富裕国のなかでも最も豊かな国々の合計特殊出生率はこの置換水準に達していない。すべての国のうち約50%が置換水準を下回っており,2022年に合計特殊出生率が最も低かったのは香港の0.8だった。今後の数十年で,世界の他の国・地域のほとんどがこれに続くとみられる。以下に,その概要を順に示す。 


続き2023年7月号の誌面でどうぞ。

著者

Katie Peek

原題名

Population Growth Is Slowing Down(SCIENTIFIC AMERICAN March 2023)

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合計特殊出生率人口置換水準