調査が示す10倍株の特色 7割は時価総額50億円未満
日の丸テンバガー大研究(下)
2008年のリーマン・ショックの直後から今年のコロナショックの直前までの間に10倍以上に値上がりしたことのある銘柄は、839に上った。日経マネーが東証1部・2部、新興企業向けの東証マザーズとジャスダックの4市場に上場している3675銘柄(7月末時点、外国企業を除く)を対象に実施した調査の結果、こんな実態が浮かび上がった。
時価総額1000億円以上から10倍高になった例も
最安値を付けた時の時価総額を調べると、8割超が100億円未満、さらに73.2%が50億円未満の小型株であったことが判明した。テンバガーの候補は、小型株の方が見つかりやすいと言えそうだ。
下は、最安値を付けた時点でも時価総額が1000億円以上あった大型株15銘柄の一覧表だ。ソニー(6758)、キーエンス(6861)、ソフトバンクグループ(9984)など、日本を代表する有名大企業が並ぶ。
ソニーはコロナショックの後にも上昇し、8月4日には一時8705円と、01年6月以来約19年ぶりの高値を付けた。この日の時価総額は10兆9535億円。12年11月に7927億円まで減っていた時価総額を、8年近くで13.8倍に増やし、再び10兆円の大台に乗せた。
この復活の過程に当たる15年から17年にかけてソニー株を保有し、大きな売却益を上げたのが、著名投資ブロガーの会社員投資家、奥山月仁さん(ハンドルネーム)だ。家電量販店の売れ筋にソニー製品が並び始めたことに復活の兆しを嗅ぎ取り、早期に購入したのが奏功した。
このように、業績不振から立ち直り始めた大企業の株でテンバガーを狙うのも一つの有効なパターンだが、残念ながら「難易度が高い」(奥山さん)。時価総額の小さい銘柄の中から、業績成長の初期段階にいて、大きく伸びていくことが期待できる会社の株を探す。こうした投資の方が取り組みやすいだろう。
大化け株の大半は稼ぐ力のある成長企業
839銘柄の企業がリーマン・ショック後に計上した売上高経常利益率の最高値の分布を取ると、「10%以上」が56.2%と過半を占めた。大化け株には稼ぐ力のある成長企業の株が多いことを裏付ける結果だ。
一方で、経常利益率が調査期間中に一度もプラスにならず赤字だった銘柄が5銘柄あった。そのうち3銘柄は、バイオベンチャーのDNAチップ研究所(2397)、ナノキャリア(4571)、アンジェス(4563)。これらの銘柄は、新薬などの発売に至れば一気に黒字に転換して大きな利益を計上するという期待から買われて、テンバガーとなっている。
日経マネーが取材してきたスゴ腕投資家の中にも、バイオベンチャー株で大きな売却益を上げて、億円単位の資産を築いた人がいる。弁護士が本業の槙谷健吾さん(仮名)はその一人だ。
大化け株が出やすいバイオベンチャーとゲーム会社の株を時価総額が小さいうちに購入する。そして、株価が上昇して時価総額が大きくなり、機関投資家も購入し始めるようになったら売却する。こうした投資法で30億円を超す規模まで運用資産を膨らませてきた。バイオベンチャーの中から大化け株が出やすい傾向は確かにある。だが、着実な利益拡大といった裏付けがないだけに、バイオベンチャーの売買も、投資の難易度は高い。
業種ではサービスと情報・通信が双璧
東京証券取引所が定めている33の業種分類に基づいて、839銘柄の業種別内訳を調べると、サービス業が19.0%で最多。情報・通信業が17.9%で続く。それ以下は電気機器(8.8%)、小売業(8.6%)、機械(6.6%)と続いている。
この内訳は、リーマン・ショック後に新たなサービスの台頭とICT(情報通信技術)の活用が進み、その関連業種からテンバガーの候補が出やすかったことを改めて示す。この傾向は依然として顕著だが、これらの業種がいつまでも有望株を育む肥沃な大地であり続ける保証はない。
IPOして日が浅い銘柄を狙うと効率的
839銘柄が上場してからの年数を調べると、上場から20年未満が494銘柄で、全体の6割近く(58.9%)を占めた。上場から30年未満に範囲を広げると、675社で全体の8割(80.5%)に及ぶ。上場して年数の浅い若い企業ほど、テンバガーになる可能性が高いと言えそうだ。
839銘柄の中で上場からの年数が最も浅かったのは、17年3月に上場したジャパンエレベーターサービスホールディングス(6544)。エレベーターとエスカレーターのメンテナンスを専門に手掛けている。設置後20年程度経過したエレベーターが主な対象で、その数が増え続けているため、同社の業績も右上がりに伸びている。
上場して間もない銘柄に絞って、その中から成長企業を探すのは効率が良さそうだ。実際、スゴ腕の個人投資家にも、この方法を実践している人が少なくない。ページビューが毎月約100万に上る人気ブロガーの会社員投資家、弐億貯男さん(ハンドルネーム)は、その一人だ。
弐億さんは、購入の対象を「IPO(新規株式公開)から少したち、注目されず会社の予想値で算出した予想PER(株価収益率)が10倍台前半」と割安な銘柄に限定している。その中から、一定の収入が定期的に入るストック型のビジネスを手掛ける会社の株を買う。そして、業績の拡大が止まらない間は持ち続ける。
この投資法で5銘柄前後に集中投資し、複数の銘柄で大きな売却益を計上してきた。12年から19年にかけて保有した介護付き有料老人ホーム運営のチャーム・ケア・コーポレーション(6062)では、テンバガー(10倍株)も達成。19年に念願の運用資産2億円超えを実現している。
ちなみに、839銘柄の中で上場初日に最安値を付けた銘柄は、ジャパンエレベーターをはじめ6銘柄。これは裏返せば、大半のテンバガーは上場して最初に付けた初値から下落し、そこから上昇して10倍以上になったことを意味している。
そうした値動きになる要因は、大きく2つある。一つは、初値が高かった銘柄では、上場直後に値上がり益を確定するための売却が相次ぐこと。もう一つは、ベンチャーキャピタルなど、上場前からの株主が利益確定の売りに動き、保有株を大量に放出することだ。これらの現象を踏まえると、上場後に最安値を付けて上昇に転じたことが鮮明になった段階が、テンバガー候補を買い始めるポイントの一つと言えそうだ。
最後に、今回の調査で明らかになったテンバガーの特色と投資のポイントを掲載する。今後の参考にしていただきたい。
(中野目純一)