避難呼びかけ、分かりやすく 「勧告」「指示」一本化
政府は、水害や土砂災害発生の恐れがあるときに自治体が出す「避難勧告」と「避難指示」を一本化する。名称は「避難指示」を軸に今後検討する。自治体の多くは分かりやすくなるとして歓迎しているが、変更による混乱を懸念する声もある。早期避難に生かすには周知徹底が求められる。
政府の中央防災会議の作業部会が21日の会合で見直し案を取りまとめた。2021年の通常国会で災害対策基本法の改正案提出を目指す。改正が実現すれば、1961年に同法が制定されて以来初めての見直しとなる。
政府が19年5月に導入した5段階の警戒レベルで最も危険度の高い「レベル5」の段階で、緊急に安全を確保するよう促す情報の名称も新たに検討する。作業部会では「緊急退避」「安全確保」などの案が出ている。
災害発生の恐れが強まった際、市町村はレベル3の段階で「避難準備・高齢者等避難開始」の情報を出し、高齢者などに避難を促すとともに他の人に避難の準備を呼びかける。レベル4では全ての住民に安全な場所への避難を求めて「避難勧告」を発令し、さらに緊急性が高まった場合などに「避難指示」を出す。
レベル5で自治体が災害の発生を確認した場合は「災害発生情報」を出すことになっている。
勧告と指示が同じレベル4に区分されていることについては、住民や自治体から「分かりにくい」との声が上がっていた。19年の台風19号の後に実施された調査では、被災住民約3千人の中で勧告と指示の違いを正しく理解していたのは2割弱にとどまった。
19年の台風19号で長野市では千曲川が決壊し、多くの住民が自宅などに取り残された。同市の加藤久雄市長は「勧告と指示の2段階は分かりづらいのではないかと感じていた。一本化で分かりやすくなる」と評価する。
11年の紀伊半島豪雨で逃げ遅れによる犠牲者が出た和歌山県那智勝浦町の担当者も「住民に切迫した状況が伝わりやすく、早期避難の一助になる」と期待する。
内閣府が実施した自治体へのアンケート調査でも一本化に賛成の声が多かった。
ただ、回答の中には「警戒レベル導入から間がなく、さらなる変更は混乱を招く」「勧告と指示それぞれの意味について周知を図ってきたのに」といった批判もあった。
東京大大学院の関谷直也准教授(災害情報論)は「2段階だったことで自治体として勧告を出しやすかった面もある」と指摘。新設されるレベル5相当の情報を含めて「語句の意味や各段階でとるべき行動を整理し、繰り返し周知していくことの重要性は変わらない」と話している。