[社説]米軍高官人事の空白が心配だ
米軍海兵隊トップの総司令官が今月、100年以上ぶりに不在となった。人事は米議会の上院で承認する仕組みだが、野党・共和党の1人の上院議員が承認手続きを妨害し、後任が就いていないためだ。国防総省によると、この影響を受けている米軍高官人事の数は260人超にのぼる。
9月に退任する制服組トップの統合参謀本部議長の後任も含め、妨害が続けば年末までに最大650人の人事に支障を来しかねない。ウクライナ戦争への対処や中国抑止戦略への余波が心配だ。
米政権の高官人事の承認は上院(定数100)の過半数の賛成を要する。現在は与党・民主党系(無所属をあわせて51)だけで承認が可能だ。ただ、米軍高官人事は多くの場合、複数の案件をまとめて全会一致で承認手続きを進める慣例がある。
これを悪用し、共和党のトミー・タバービル上院議員が手続きを止めている。トランプ前大統領に近く、身内の共和党幹部が妨害をやめるよう促しても耳を貸そうとしないという。
バイデン米大統領は「米国の安全保障を危機に陥れている」と非難し、タバービル氏に手続きを進めるよう求めた。当然の対応だ。
指名された人物の承認手続きが進まない場合、代行がその職を担うこともできる。ただ、そのような状況が長引けば、米軍の士気や即応体制に影響が出かねない。ウクライナ侵攻で緊張が続くさなかではなおさらだ。
タバービル氏が手続きを妨げているのは、米兵への人工妊娠中絶の権利確保を支援する国防総省の政策への反対が理由だ。妊娠中絶は米国を二分する重要な問題だがそれを盾にするのは筋違いだ。
国務省でも共和党の別の上院議員が大使人事などの承認を遅らせているが、米軍の場合は国防に直結するだけに影響は甚大だ。残念ながら、こうした党派対立が米国の外交・安保政策に影を落としているのが現実だ。その土壌となる分断の解消は待ったなしだ。