重要2法案が未提出・継続審議 日程窮屈、調整不足も影
フリーランス保護法案など先送り
国会は10日、会期末を迎えて閉幕した。政府は岸田文雄首相肝煎りの重要法案の提出見送りを余儀なくされ、新型コロナウイルス対策に絡む法案も成立させることができなかった。窮屈な日程に政府・与党の調整不足や3閣僚の辞任が重なり、課題を残す国会運営となった。
参院本会議では10日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る被害者救済法を含む政府提出の5法などが与野党の賛成多数で可決、成立した。衆院でも閉会中審査などの会期末処理のため同日、本会議を開いた。
衆参両院の先例集では特に必要がない限りは休日に会議を開かないと記す。
参院事務局によると本会議を土曜に開くのは、前日から日付をまたいで審議したケースを除くと細川護熙政権の1994年1月以来およそ29年ぶりだ。小選挙区比例代表並立制を導入する政治改革関連法が成立した。
衆院では2011年4月以来となる。このときは東日本大震災への対策を盛り込んだ補正予算を可決した。
会期末の土曜にずれ込んだ異例の審議は拙い国会運営を象徴する。それだけではない。首相は10日の記者会見で「ほとんど全ての政府提出法案を成立させることができた」と自賛したが、組織に属さず働くフリーランスを保護する新法案は提出すらできなかった。
首相は10月の新しい資本主義実現会議で「フリーランスが報酬の支払い遅延などでトラブルに直面しないよう、取引適正化のための法案を今国会に提出する」と述べていた。
首相が昨年の同会議で法制化を表明するなど力を入れた法案だった。自民党の部会で議論が始まると「フリーランスは形態が様々で定義が難しい」「ひとくくりに保護する考え方が適しているのか」といった疑問や反発が上がった。
首相が重視する割には、党内の反対論を抑えて法案了承に汗をかく動きも少なかった。
新型コロナの感染が疑われる客の宿泊を拒否できるようにする旅館業法改正案は審議時間を確保できず、継続審議となった。
政府・与党は同じ厚生労働省が所管する障害者総合支援法を参院先議とし、衆院での旅館業法改正案の審議時間を確保する算段だった。
ここに10月の山際大志郎前経済財政・再生相の辞任が波及した。自民党の石井準一参院議院運営委員長が山際氏の辞任を求める野党について「首を取れるのか。だらしない」と発言した。
野党側が反発し、参院先議を認めなかった。
10月3日に召集された今国会は当初から日程に余裕がないことが予想された。12月の閉会後は例年と同じく税制改正大綱や23年度当初予算案の編成が控える。
さらに今年は国家安全保障戦略などの防衛3文書の改定もあって大幅な会期延長は難しい。
それにもかかわらず今国会は序盤から足踏みした。鈴木俊一財務相が20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席するため訪米したことで、10月の衆院予算委員会の開会が1週間ほど遅れた。他の委員会もほとんど開かれなかった。
国際会議の日程は事前に決まっており、政府と自民党の協力態勢に疑問符が付いた。首相は会見で「政府・与党の緊密な連携」を実現できたと強調した。党幹部は「政府と党でより密接にコミュニケーションをとらないといけない」と語る。拙劣な国会運営は閣僚辞任による審議の停滞で拍車がかかった。
立憲民主党と日本維新の会が国会運営で「共闘」した。閣僚の不祥事と辞任が相次いだことなどから野党がペースを握った。今国会の成立を迫られた被害者救済法は急ごしらえで1日に提出、閉会日4日前の6日にようやく審議入りした。
立民の泉健太、維新の馬場伸幸両代表は10日、国会内で会談し、通常国会でも共闘を続ける方針を確かめた。泉氏は会談後、記者団に「両党の国会対策委員長でよく話しあい、政策項目を出していこうと確認した」と説明した。両党の幹事長、国会対策委員長も同席した。
立民は来年の通常国会で自民党と教団とのかかわりや、政治資金問題を抱える秋葉賢也復興相への追及を続ける方針だ。立民幹部は「今の状態では政権はたちゆかなくなる」と話す。