変わる働き方、賃金配分に変化 大企業の中堅社員が減少
厚生労働省は27日、2023年の賃金構造基本統計調査の概況を公表した。一般労働者の平均賃金は過去最高を更新したが、世代別にみると大企業の35〜54歳の賃金が減るなど、若手に重きを置く傾向が目立つ。働き方が多様化し、企業の人的投資のあり方も変わってきている。
非正規雇用が増え、大企業の賃金は3年ぶりマイナス
調査は23年6月の賃金について4万8651事業所の回答を集計した。全体の賃金は31万8300円で前年から2.1%増えた。
従業員1000人以上の大企業では平均賃金が34万6000円と前年比0.7%減った。人手不足の業種で非正規雇用による人材の穴埋めが広がったことが影響したという。マイナスとなるのは3年ぶりだ。
非正規労働者の増加が平均賃金を押し下げる要因となった。正社員に比べ給与水準はまだ低い。特に製造業は非正規の平均賃金が前年比13.9%のマイナスだった。情報通信や小売りでも非正規の増加に伴い、全体を押し下げる形になっている。
女性の非正規就労が増えた結果、全体が下がった可能性もある。男性の賃金を100としたときに女性は71.0と前年調査から1ポイント近く下がり、男女間格差が拡大した。
若手は賃金増え、35〜54歳は減少
年代別では35〜39歳で2.1%、40〜44歳で0.6%、45〜49歳で1.3%、50〜54歳で1.2%のマイナスだった。一方で若手は伸び、20〜24歳は3.0%、25〜29歳は1.6%増えた。
大企業でも相対的に人数の少ない若手の人材確保を優先し、新卒らの給与を手厚くしているとみられる。産労総合研究所の調査でも23年4月の新入社員の給与を引き上げた企業割合が68.1%と、前年度から27.1ポイント上がった。
日本の労働構造の変化も賃金に反映されている。日本の賃金形態は終身雇用と年功序列の色が濃く、年齢に応じて給与が上がる傾向が強かった。ただ、企業側が若い人材の確保に注力したことで変わってきた。
もともと手厚かった中堅社員の給与は若手引き上げのあおりを受けて減った可能性がある。中堅社員は同期でも給与に差が出てくる時期で、賃上げでも濃淡が出やすい。育児後の就労復帰が30代や40代に多いことも中堅社員の給与減に影響したとみられる。
足元ではジョブ型など年功制によらない賃金制度づくりが進む。東京大の水町勇一郎教授は中堅社員の賃金減少について「市場評価に近い賃金への漸進的な移行ではないか」と強調する。
年齢に応じて単純に給与が上がるのではなく、労働市場の中で人材価値を見たときの評価額が給与に反映されるようになるとみる。
中小企業はどの世代も賃金増、大企業との差も縮小
一方で中小企業は賃金が伸び、従業員100〜999人で2.8%増、10〜99人で3.3%増だった。どの世代でも賃金が増えた。大企業の賃金を100とした時の10〜99人規模の企業の賃金指数は85.0で、前年から3.3ポイント上昇し、格差は縮小した。
政府は「物価上昇を上回る賃上げ」が進むよう企業に促している。特に中小企業や地方にある企業の賃上げに重点を置いている。
今回の調査は中小での賃上げの勢いが示されたが、24年の春季労使交渉(春闘)では大幅な賃上げを表明する大企業が相次ぎ、中小企業の動向が焦点となっている。
中小企業は人手不足感が強く、防衛的な賃上げを余儀なくされているとの見方もある。大企業ほど価格転嫁が進まず、賃上げの原資に乏しいとの分析もある。賃金と物価の好循環が定着していくかは中小の動向が左右する。