お風呂研究20年の医師が教えてくれた最高の入浴法:シャワーだけで済まさず、ゆっくり湯船に漬かろう!

医療・健康 家族・家庭 暮らし

毎日のように湯船に漬かる習慣を持つのは、日本人だけだと言われている。日本が「長寿国」であることは知れているが、その理由の一つに入浴習慣が一役買っているという調査結果もある。お風呂研究20年の医師がその健康効果を解き明かす。

温泉大国が生んだ浴槽入浴

世界中の国でほとんどすべての国民が毎日浴槽に漬かる習慣がある国は、私の知る範囲では日本以外にはない。欧米では入浴時に湯に漬かるのは1割程度で、シャワーを浴びるだけで済ます人が多いが、日本ではその逆で、年間を通してシャワーしか浴びないという人は1割以下だ。

私は医学的見地から生活習慣としての浴槽入浴を20年にわたって調査、研究してきた。運動や食事、睡眠については、全世界の研究者が毎年のように多数の論文を発表している。しかし、浴槽入浴習慣が健康に及ぼす影響についてはほとんど報告がなされていない。それは、そもそもその習慣がないからだ。

日本では浴槽入浴のことを通常「お風呂」と呼んでいる。日本人は毎日浴槽入浴をしているだけに、2004年に時事通信が実施した「入浴に関する世論調査」では8~9割の人がお風呂好きと回答している。 そもそも日本でお風呂が好まれるのは、温泉が豊富で浴槽にたっぷりと湯を張って入浴できるという恵まれた自然環境があったからだ。

日本には狭い国土に約2万7000もの温泉の源泉がある。欧米では源泉の数は多い国でも200カ所程度で、日本は桁違いに温泉が多いと言える。このことが古来より簡単に大量の湯を手に入れることを可能にし、浴槽での入浴を盛んにしたと考えられる。今から1300年前に記された歴史書『日本書紀』にはすでに当時の天皇陛下が温泉を利用したという記述が見られる。

今でこそ蛇口をひねれば湯が出る給湯器があるが、このような設備が整備されてきたのはついここ数十年のことだ。給湯器のない時代には、温泉の出ない多くの国では大量の湯を入手することは困難で、庶民が湯に漬かる習慣などなかっただろう。

また宗教的な背景も日本人をお風呂好きにしたとも言える。日本では仏教が信仰されてきたが、その中に「施浴(せよく)」という考え方がある。人々をお風呂に入れてあげる事が施しになるというものだ。実際に日本最古の浴槽は奈良の大仏で有名な東大寺にある。お風呂の功徳を説いたお経もあり、入浴そのものが「善行」というイメージが広がり、その生活習慣が脈々と受け継がれた可能性もある。

介護予防や脳・心臓疾患のリスク軽減にも

日本人の生活に根付いているお風呂の生活習慣だが、最近になってその医学的な健康効果が明らかになってきた。2018年に私と千葉大学が共同で行った研究で、1万4000人の高齢者を3年間追跡調査したところ、毎日お風呂に入っている人は、週に2回以下しか入らない人に比べ、要介護状態に陥るリスクが約3割も減るということが分かった。つらい筋力トレーニングをすることなく、気持ちよく毎日お風呂に入るだけで介護予防につながるのだ。この研究によって、お風呂の健康効果が予想以上に大きいことが明らかになった。

さらに20年には、大阪大学の研究グループが3万人の成人を約20年間かけて追跡調査し、毎日お風呂に入る習慣がある人は、脳卒中や心筋梗塞など脳・心臓疾患のリスクが、週に2回以下しかお風呂に入らない人に比べ3割近く軽減されるという疫学的な研究結果を発表した。日本人の健康長寿の一因はお風呂である可能性が高まってきた。

血流を良くして心身をリラックス

お風呂の主な医学的な効果には、1.温熱作用、2.浮力作用、3.静水圧作用がある。もちろん体を洗う清浄作用もあるが、これはシャワーにもある。しかし、1〜3の三つの作用は、湯船に漬からないと得ることができない。

温熱作用は、湯によって体が温められることによって発生する作用だ。体温より高い38℃以上の湯に漬からないとこの効果は得られない。湯に漬かると体が温められ血管が拡張し、血流が良くなる。血液は全身に37兆個もあると言われる細胞に酸素や栄養成分を運び、不要になった二酸化炭素や老廃物を回収する。お風呂に入ると、すっきりして疲れが取れた感覚になるのは血流の改善によるものと考えられている。

また温熱作用は痛みを緩和する効果もある。身体が適度に温められると神経の過敏性が抑えられ、腰痛や肩こりなど慢性の痛みを改善させることができる。さらに関節を包むじん帯は主にコラーゲンなどのタンパク質でできているが、温めることにより柔軟性が増し、関節が柔らかくなる。結果として体の柔軟性が増すので、関節痛なども和らげてくれる。さらに、寝る1〜2時間前に入浴で体を温めることで質の良い睡眠が得られるといういくつかの報告もある。

しかし湯の温度は高ければいいというものではない。日本人を対象にした多くの実験結果では、42℃以上の高温の湯に漬かることによって、自律神経のうち交感神経が強く刺激される。交感神経は戦闘態勢の神経であり、心臓の拍動は早くなり血圧は上がり筋肉が緊張する。お風呂に入る目的は、多くの場合リラックスしたり疲れを取ったりするためなので、好ましくない体の変化とも言える。

一方40℃以下のぬるめの湯に漬かることによって副交感神経が刺激される。この神経が刺激されると体がリラックスし緊張が取れてくる。だから、40℃の湯に漬かるのをおすすめする。しかし、欧米人と日本人では湯に対する温度感覚が2〜3℃違うとも言われている。そのため日本人にとって心地の良い40℃という湯温は、欧米人にとってはやや熱すぎると感じるかもしれない。

浮力作用は文字通り身体が浮く作用だ。肩まで漬かると体重は10分の1になるので、お風呂では体重が60キロの人は6キロ分だけ体を支えればいいということになる。そのぶん筋肉が休まるので、リラックス効果につながる。

静水圧作用は水圧によって体が締め付けられることによるものだ。特に下肢に水圧が掛かることで、うっ血した静脈血は心臓に戻り、むくみが解消し血流が改善する。

健康になるための入浴法とはどのようなものだろうか? 基本的な入浴法は40℃の湯を浴槽に入れて10分間肩まで漬かるだけだ。額に汗が出てきたら、十分に体が温まってきたサインだ。難しく考えることはない。新型コロナウイルス禍をはじめストレス多き時代、浴槽にたっぷり湯をためて、お風呂で心身ともにリラックスしよう。

バナー写真:PIXTA

温泉 健康法 長寿 入浴法