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学校のハテナ(1)掃除 なぜ黙々とするの

 児童生徒が私語を慎み、黙々と掃除する「もくもく掃除」。福岡都市圏の小中学校では、そんな取り組みが広がっている。自分たちが使う教室なのだから、自分たちの手で集中し、隅々まできれいに。そこまでは分かるのだが、「黙々」まで掲げる必要があるだろうか?

 教室はクラスの秩序を映す

 福岡市博多区の市立吉塚中学校では毎日、朝の会終了後の午前8時半から15分間、生徒たちが教室や廊下の「もくもく掃除」に当たる。4月19日、2年1組の様子を見た。

 主に男子が机といすを移動。ほうきで掃いた後、女子が膝を床につけ、ぞうきんがけを始めた。黒板を丁寧に消す生徒もいる。本当に黙々だ。

 担任の手嶋将人教諭(31)は時折、ある男子に小声でささやいていた。後で聞くと、転校生だった。終了後は改善点を挙げる「反省会」。前日は一部に作業の遅れがあったが、その日はテキパキと進み、「あすも頑張りましょう」で終わった。

 「掃除の時間って、まじめが輝くんですよね」。手嶋教諭がつぶやいた。なるほど、授業では、勉強ができる生徒が輝きがちだが、生徒同士がそんな姿勢を学び合う時間でもある。

 だから集中して丁寧に

 手嶋教諭は4年前、吉塚中に着任。実は当初、この黙々スタイルに戸惑った。

 というのもそれまで5年間、京都府の中学校に勤務。1学年4クラスの同規模校で、掃除の時間は放課後の15分。「作業を怠らず」の前提ではあるが、「和気あいあい」の自由会話スタイルだったからだ。「日頃あまり話せない生徒と話せる時間。それが掃除の時間でした」

 なぜ、この学校では黙々なのか。やがて、手嶋教諭にもその背景が見えてきた。

 吉塚中ではかつて、昼休みに掃除をしていた。朝に変更されたのは2007年。同校では当時、学級崩壊が相次ぎ、掃除もままならなかった。学校再生に向け、新たに着任した当時の校長が始めた取り組みの一つが「朝のもくもく掃除」だった。

 教員自らが早出して、黙々と掃除に当たる。その背中を見て、生徒たちも変わり始める。始業前の朝が変わると、学校も少しずつ再生に向かった。

 「教室はクラスの心や秩序を映す。教室の床にごみが落ちていて、拾おうとしない生徒に、学びは始まらないですからね」(現在の坪井憲治校長)。学校再生のモデル校として、今は全国から視察が相次ぐ。

 でも、磨くべきものは何?

 他地域に目を向けると、こんな取り組みもあった。「自問清掃」と呼ばれる。ルールが斬新だ。(1)児童自らが掃除すべきだと思う所を掃除する(2)やる気にならない場合はやらなくてもいいが、人の邪魔はしない。

 福岡県みやま市の市立大江小学校では、3年前から「自問清掃」に取り組む。田畑が広がる一角にある1学年1クラスの小規模校だ。

 「学校の掃除は、教室や廊下を単にきれいにすることが目的だろうか。むしろ児童の心をどう磨くか、ではないか」。当時の校長のそんな問題提起が発端となり、長野県で定着している方式を導入した。

 問題はルール(2)。当初はクラスで2、3人、本当に掃除をしない子がいた。当時から指導に当たる池松美智代教諭が振り返る。「叱らない、褒めないが私たち教師のルール。子どもたち自らの気づきを待つ、ひたすら我慢の日々でした」

 4月21日、昼休みの「自問清掃」を見た。一見「黙々」と同じようだったが、やがて違いが見えてきた。例えば、吉塚中では「教室内外を生徒2、3人で」といった感じだったが、大江小では「学校全体に散らばり、1人で黙々と」が目立つ。

 5月の運動会を前に、グラウンドの草取りをしなきゃ。きょうもトイレをきれいにしたい。棚の奥にもごみがたまっているかもしれない…。

 児童の姿からは、先生の指示待ちではなく、それぞれの自問から生まれた目的意識やひたむきさが伝わってきた。掃除が終わると、教室に戻った児童は「自問ノート」に向かった。あすは何のために、何をしよう?

 学校にはそれぞれ規模、歩み、風土があり、子どもたちにとって何がベストの選択か、一律ではないだろう。でも、掃除の時間の中には、自由と規律を巡るそれぞれの学校判断があって、考えさせられた。

=2017/05/07付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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