協会ニュース2023年11月号

「新たな指針を活用しよう~基本指針30年ぶりの改定」

協会ニュース20231115本年10月26日に「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」(以下、基本指針)が告示されました。1992 年に制定された「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(以下、人確法)に基づき同年制定された指針が、約30年ぶりに初めて改定されたものです。

人確法は、1980年代の深刻な看護職不足に対応するため制定された法律です。日本で特定の職種の確保のための法律が制定されることはめったになく、社会にとって看護職の確保がいかに重要であるかということを示しています。人確法は、質と量の両面における看護師等(保健師、助産師、看護師、准看護師)の確保策を推進することによって、国民の保健医療の向上を図ることを目的として制定されました。そして、基本指針には看護師等の確保を促進するための措置について定められています。今後一層の少子化が進む中で、将来にわたって看護職を確保し、国民のいのちと暮らしをまもっていくためには、看護の魅力を高め、かつ、私たち看護職がライフスタイルに応じて、誇りとやりがいをもって働き続けられる環境にすることが必要です。

基本指針には、看護職の養成から人生100年時代において看護職としてのキャリアを歩む上での、処遇の改善、資質の向上、就業継続など、広範にわたる内容が含まれています。また、基本指針では、私たちの看護実践の現場や看護界の取り組みが明文化され、それを後押しするような内容となっています。新たに新興感染症や災害等に備えた看護職の確保対策についても項目が設けられました。いずれの項目にも看護職が生涯を通じ、専門職として働き続けるために重要な事項が書かれています。現在、そして将来の看護職をまもるための、とても大切な指針です。

基本指針が制定された30年前と比較して、看護職員数は約2倍になりましたが、まだまだ必要とされる場所で看護職員が充足されているとは言えません。かつ、この30年間で社会の状況も看護を取りまく状況も大きく変わりました。全世代に対する地域包括ケアシステムの構築や新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた医療提供体制の構築等の課題に対して、これまでの看護職確保の取り組みを踏まえ、今後の看護職のあるべき姿を視野に、新たな基本指針とする必要があります。また、今回30年ぶりの改定につながった大きな理由の一つとなったのが、新型コロナウイルス感染症下の看護職の尽力です。コロナ禍を経て、あらゆる場における看護職の重要性が改めて明確になり、社会を支えるために、政策的に看護職の確保策を推進することの必要性が認識されました。その結果、国において基本指針の改定について検討され、新たな基本指針が告示されました。コロナ禍における看護職である皆さんの、国民のいのちをまもるための役割発揮が、行政を大きく動かしたのです。

基本指針は、関係者が取り組むべき方向を示したものと位置付けられています。その内容は国の検討部会で十分に練られ、厚生労働大臣、文部科学大臣が定めたものであり、指針に示されていることを、私たちは自信を持って推進することができます。約30年ぶりの改定という今が、私たち看護職の価値を一層高め、誇りをもって働き続けられる環境とし、看護の質・量両面における確保のための、取り組みを推し進める、とても良い機会なのです。

本紙の特集企画(2、3面参照)では、基本指針についてさまざまな立場の方が紹介しています。ここでは、いくつか、ぜひ押さえておいてもらいたい改定のポイントについて紹介します。
まず、地域における看護職の役割、地域における連携について大きく取り上げられたことです。療養の場が多様化し地域包括ケアが推進される中で、看護基礎教育から看護職確保まで、地域に対応することの重要性が記載されています。また、看護管理者の役割として地域のさまざまな病院や施設等と緊密に連携する能力が求められていると明記されており、こうした良きリーダーシップを発揮できる看護管理者の養成についても触れられています。
次に、生涯にわたる資質の向上です。継続的に自己研さんを積めるような研修システムの構築等の環境整備や、キャリア中断からの復帰を含むキャリアアップの道筋を示すことが重要とされ、高度化・多様化が見込まれる医療に対する国民のニーズに応えるため、専門性の高い看護師の育成や、看護系大学、大学院における教育の質的な充実が明記されました。個々の看護職に対しては、特定行為研修の受講促進、専門看護師・認定看護師等の資格取得など、知識・技術・能力の向上が求められています。
そして、やはり看護職確保において重要なことは就業環境の改善です。夜勤時間の長さや仮眠時間の設定といった夜勤等の業務負担の軽減、勤務間インターバルの確保等の労働時間の改善、キャリアアップに伴う処遇改善の実現やハラスメント対策、ライフステージに応じた勤務環境整備など、多岐にわたり具体的に記載されています。また、就業促進のためには、ナースセンターの機能強化が必要です。本会としても、この指針改定を機に、都道府県看護協会と連携し、ナースセンターを利用することのメリットを増やしてまいります。

看護界が一丸となってこの基本指針を活用していく必要があります。日本看護協会は、都道府県看護協会、関係団体、行政と協働し、指針に基づく看護職確保に取り組んでまいります。皆さまも指針を基に、共に取り組みを進めていきましょう。