データ活用の成功プロセス|ポイントや事例も徹底解説

データ活用とは

 データ活用とは、「意思決定の向上」や「業務効率の向上」、「マーケティング力の向上」などを目的として、企業に蓄積されているデータや入手できる社外データを、取り組む経営テーマや解決する業務課題に沿って、日々のビジネスの中で継続的に活用することです。

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出典:総務省 2020年3月(令和2年)「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書」(外部サイト)

データ活用の現状

 総務省が発表した「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究(2020)」によると、大企業で約9割、中小企業でも半数を超える企業がデータ活用に取り組んでいると報告されています。
 また、データ活用の効果があったとする企業は半数を超えます。

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出典:総務省 令和2年版情報通信白書 第3章第2節「デジタルデータ活用の現状と課題」(外部サイト)

 一方で課題は、プロセスと体制に大きく分類できます。

 プロセスの視点では、上流工程での「効果がありそうなテーマを見いだす目利き力の不足」や「取り組みたいテーマや解決したい業務課題に合致するデータの不足」、中流工程での「効率的ではないデータ分析手法の選択」や「AIの活用不足」、下流工程での「現場の受け入れ」や「分析モデルの継続的な実行プラットフォームの不在」が挙げられます。

 体制の視点では、データ活用スキル人財が少ないことが挙げられます。特に「ビジネス課題解決」や「戦略検討」のスキルを持つ人財の不足感が目立ちます。

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出典:一般社団法人データサイエンティスト協会「データサイエンティストの採用に関するアンケート調査結果」(外部サイト)

データ活用とデータ分析の違い

 データ分析は、データ活用の中の1つの領域として位置付けられます。データ活用もデータ分析もビジネスに貢献することが目的です。データ分析はデータの中から知見を獲得することが目的だという見方もありますが、そうではなく獲得する知見もビジネスに貢献するように、事前にしっかりと準備する必要があります。

 データ活用とデータ分析の違いとして、分析が必要かどうかという点が挙げられます。分析とは具体的には、「探索的な可視化」、「統計的な分析」、「機械学習(AI)」、「最適化」などに含まれるステップと処理を指します。一方でこれらを行わないデータ活用の例は、業務のペーパーレス化、システムを利用したナレッジの共有、RPAなどを利用した業務の自動化、EDI等を利用した受発注業務の効率化などが挙げられます。

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 またデータ分析は分析に必要なスキルとして、基礎的な統計数理、統計的な視点でのデータの理解、データの加工や前処理、回帰予測・分類予測・時系列分析・異常検知といった分析問題に関する解法、自然言語処理や画像・映像認識といったデータサイエンスの知識と経験が必要になります。

→「課題粒度とAI・データ分析」を解説したコラムはこちら

ビッグデータの活用

 ビッグデータとは、量的な視点では典型的なサーバーの上で稼働するリレーショナルデータベースでは十分に取り扱うことが難しいサイズのデータを指します。

 ビッグデータの取り扱いにおいては、特にデータの蓄積よりも所望するデータを一定時間以内に取り出すという点がボトルネックになります。分かりやすいイメージとしては、細かい時間間隔で取得したセンサーデータ(位置・温湿度・加速度など)、数十万人の購入履歴やブログエントリー、文書やメールなどのオフィスデータ、ウェブ上の配信サイト等で提供される動画や音声などが挙げられます。

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出典:総務省 平成24年版情報通信白書 第1部第1節「「スマート革命」―ICTのパラダイム転換―」(外部サイト)

 ビッグデータをイメージしてみると、データもさまざまな種類があり、データの質的な視点で見ると、データの発生場所(データソース)が多様で、データのタイプも数字、テキスト、動画、音声と多様であることが分かります。

 そしてデータのボリュームが非常に大きいこと、データが多様であることから、一昔前はビッグデータの活用が難しかったのですが、現在はある程度活用が可能になっています。

 取り組みたいテーマや解決したい業務課題を明確に定義せずに、大量のデータがあるかというだけではビジネスに貢献するデータ活用は難しいですが、適切なプロセスと技術を用いれば、ビッグデータとAIで従来よりも精度の高い予測やレコメンドを行うことが可能になっています。

活用するデータの種類

 データの種類を分類するアプローチとして、社会的・企業的アプローチとデータ分析的アプローチがあります。

 社会的・企業的アプローチは、「平成29年版 情報通信白書」の「ビッグデータの定義および範囲」に記載があるように、「データ所有の軸(縦軸)」と「データ作成の軸(横軸)」で分類するのが良いです。

 データ作成の軸で自動的に作成されるかどうかという点は、作成されるデータのボリュームおよび品質に大きな影響を及ぼします。データが自動的に作成される場合は、一般的にはボリュームは大きく、品質は人が作成するデータと比較すると高くなります。

データ作成
人が作成 機械が作成
データ所有 オープンデータ 国、地方公共団体および事業者が保有する官民データのうち、国民誰もが容易に利用できるデータ
企業データ 企業内のシステムに蓄積されているデータやオフィスデータ M2M(Machine to Machine)から吐き出されるストリーミングデータ
パーソナルデータ 個人の属性、特定の個人を識別できないように加工したデータ 移動・行動・購買履歴、ウェアラブル機器等から収集された個人情報

 企業内のシステムに蓄積されているデータとしては、顧客データ、商談データ、売上データ、購買データ、生産データ、製品開発データ、設備稼働データ、人事データなどがあります。

 データ分析的アプローチは、分析に必要なデータの特性理解にフォーカスします。総務省統計局「なるほど統計学園」(外部サイト)にも記載があるように、代表的な分類は、「量的データ/質的データ」、「フローデータ/ストックデータ」です。
 ほかには、「構造化データ(テーブル形式データ等)/非構造化データ(テキスト・画像・動画・音声データ等)」などがあります。

データ活用の4つのメリット

メリット1:売上向上

売上データや商談データを活用することで、取り扱い商材のニーズを持っている可能性がある顧客を見つけることができます。

ECサイトなどを訪れたユーザーに適切な商品をレコメンドすることで、売上を伸ばすことができます。

詳細な商談データがある場合は、どのようなチャネルで顧客と接触し、以降でどのようなアクションを/どれくらいの間隔で/何回実施すると、成約の確率が高まるのかといったゴールデンパスを探る分析を行うことができ、営業プロセスでのDXを推進します。

ダイレクトメール(DM)などのコストがかかるマーケティング施策では、送付したDMに対する顧客の反応率を事前に予測することで、投資対効果を向上させることができます。

アフターマーケットでは、適切なタイミングを予測し、メンテナンスや部品交換を顧客にお勧めすることで、顧客とのリレーションの強化、顧客満足度の向上、売上の増加が見込めます。

メリット2:コスト削減

グループ内の企業や工場のマスタデータを含む購買データを統合し活用することで、同じ商材、部材や備品を最も安価に購入できている部門を見つけ、コスト削減につなげることができます。

保有している設備や車両の稼働データを活用することで、稼働率の低い資産を見つけ、コスト削減につなげることができます。

生産データや品質データを活用することで、ボトルネックになっている箇所を見つけ、原因を深掘りし、対策を打つことで、歩留まりを向上させることができます。

フォーマットに落とし込まれたデータ(申請書や写真)をインプットに、人がある程度のルールに基づいて何かを判断している業務(ローン審査や品質検査)では、AIをデータでトレーニングすることで、その判断の一部をAIに担わせ、意思決定のスピードを上げることができます。

メリット3:戦略策定と検証

受注データ、売上データ、出荷データ、キャンペーンデータ、イベントデータ、景況データなどでAIをトレーニングすることで、自社の商品やサービスの需要を予測することができます。

商圏データ、動態人口データ、過去の既存店の売上データなどを活用することで、新規出店の売上を組み上げたロジックのもとでシミュレーションすることが可能になり、新たなビジネスチャンスを発見できます。

商品・サービスの供給ネットワークのデータや障害データを活用することで、今まで発生していた障害を減らすために新しく導入する装置や部品を、ネットワークのどの箇所にいくつ設置・装着させることが、最も投資対効果が期待できるかをチェックすることができます。

キャンペーンや販促、課題解決のために打った施策について、課題・施策データ、施策で改善したいターゲット数値、ターゲット数値に因果関係が強くあると考えられる全ての要因のデータなどを活用することで、施策の効果を推定することができます。

メリット4:業務効率化、生産性向上

店内やバックヤードにAIカメラを設置し、来店客や店員の行動データを取得・分析することで、商品の陳列方法の改善やバックヤード作業の改善を進めることができます。

来店客数やメニュー出数を予測することで、店員のシフトスケジュールや仕入れの最適化に向けて取り組め、業務効率化を進めることができます。

出動需要を予測し、必要な車両をどこに配備するかを適切に整えることで、生産性向上に寄与することができます。

CAE(Computer-Aided Engineering)での望ましくない製品のふるまいについて、ベテランの解析員が原因を追究していく際の視点とシミュレーション結果データと組み合わせたツールを準備し、若手の解析員の生産性を向上させることができます。

データ活用における課題

 データ活用における課題は、投資対効果、データ準備、難易度、現場での活用に大きく分けられます。

 最も重要な視点は投資対効果であり、経営層からの理解およびスポンサーシップを得るためにも、明確にする必要性があります。

 データ準備について、データ活用に取り組む領域が広い場合は、必要なデータの収集や整備、構築したデータ品質を保つ仕組みやシステムの運営に大きなコストがかかります。加えて、収集するデータによっては各種法令の順守やプライバシーへの十分な配慮が必要となります。

 難易度は、主にデータ分析やビッグデータ処理に関する技術的な難易度であり、これらのスキルが不足していると十分な成果を得ることは難しくなります。

 最後にデータ活用は現場中心で継続してこそ、大きな成果を得られるものであり、現場での活用のためには現場の理解・変革が必須となります。

データ活用の3つのポイント

ポイント1:データ活用は経営テーマ・業務課題で決まる

 データ活用は目的・目標なくデータを集めても進みません。またこの状態では、集めるべきデータも明確にならないため、取り組み領域の的を絞ることができず、成果(利益および価値)を得ることができません。
ではどのようなアプローチを採れば良いのでしょうか?

 通常、企業や組織では「ありたい姿」があり、それと「現状」の差が「問題」として認識されます。そして問題を解消するために「やらなければいけないと決めたこと」を「テーマ・課題」とここでは定義します。

 データ活用はそれ単独では問題を解消しません。データ活用を使って経営や業務に貢献するためには、自分たちがこれから取り扱う経営テーマや業務課題を明確に定義する必要があります。

 これらを定義した後に、対応策である経営施策や業務施策を立案し、それらの施策に必要な情報を明確化します。必要な情報が明確化できれば、その情報をどのデータを使って、どのように作り出すのかを検討します。このようなプロセスを経ることで、はじめてデータ活用で経営や業務に役立つことができます。

データ活用をさらに詳しく解説

ポイント2:データを活かせる業種や領域を知る

 「データを活かせる業種や領域」については、「データ活用の4つのメリット」の章で記載した内容である程度想像していただけると思いますが、ここでは必要条件を整理して、もう少し俯瞰的に捉えてみたいと思います。

 まず必要条件ですが、「何らかの意思決定・判断・評価等を行っている箇所の特定」、「その意思決定等に関するデータが十分に利用できること」が重要だと考えています。

 そしてこのような箇所は企業・ビジネスの視点から眺めると「点」ですので、上から眺めた時に「点が多く集まっている領域」、もしくは「価値の高い点がつながっている領域」を見つけることがポイントとなります。

 領域の一例としては、「製品・サービスの開発」、「マーケティング」、「生産・製造」、「保守・メンテナンス・サポート」が挙げられます。業種は必要条件を満たせば、基本的に全業種でデータを活かすことができます。

ポイント3:データ分析の人財確保、ツール利用

 日本はデータ分析人財が不足の傾向です。データ分析人財が対応すべき範囲(工程)は、上流(要求定義および課題からの分析テーマ導出)、中流(データ分析タスクの実行)、下流(分析アウトプットのシステム化・業務組み込み)となります。

 しかし実際の問題として、AI・データ分析の技術革新のスピードが非常に速いことから、これらの3つを1人が十分にカバーすることは現実的ではありません。市場にもそのような人財はほとんどいないでしょう。

 専門家レベルで対応を進める場合は、3つの工程に対してそれぞれロール(役割)を定義し、1人に1つのロールを担当させるか、メインとサブで2つのロールを担当させるのが良いでしょう。当社では、上流はコンサルタント、中流はデータサイエンティスト、下流はデータエンジニアという形でロールを割り当てています。

 さてロールを分けることで多少なりとも、データ分析の人財を確保しやすくしましたが、それでも案件を独力で遂行できる人財はまだまだ少ないのが現状です。

 そこで検討すべきはツールの利用です。近年、「機械学習を自動化するAIプラットフォーム」の進化が進み、十分に実用に耐えるレベルに到達しています。このようなツールは高度な知識と技術を持つデータサイエンティストでなくても、数週間のトレーニングを受けたビジネス・ユーザーが使用できるように作られています。業務課題から分析テーマを導出し、分析の問い(回帰/分類/時系列/異常検知など)に落とし込み、必要なデータセットを準備できれば、数時間ぐらいで予測結果を得ることができます。

このように適切なツールをうまく使っていただく場合には、データ分析の人財に資格等は特に必要ありません。ご自身が担当しているビジネスや業務課題、利用できるデータについて、信頼できるデータ分析の専門家と繰り返し会話いただくことで、実践的な知識と勘所は身についていきます。

データ活用の8つのプロセス

プロセス1:目的の設定

 目的を設定するために、取り扱う経営テーマや業務課題を明確に定義します。そして、対応策である経営施策や業務施策を立案し、それらの施策に必要な情報を明確にします。

 必要な情報の例としては、経営層が何かを意思決定・判断する際のインプットとなる情報、業務担当者が何かを意思決定・判断した後に書き出す情報などがあります。


→「業務組み込みとAI・データ分析」を解説したコラムはこちら

プロセス2:分析テーマの導出

 必要な情報が明確化できれば、どのデータを使って、その情報をどのように作り出すのかを検討します。このタイミングで分析に必要なデータが実際にありそうかどうかを確認しておくと良いでしょう。

 検討した結果は、業務概要、業務課題、業務施策、ビジネスインパクト、必要な情報(分析アウトプット)、分析に必要なデータ、分析方法、ハードルなどの項目に整理して、分析テーマとして書き出します。

プロセス3:データ収集

 書き出した分析テーマに基づいて必要なデータを収集します。これらのデータは、「すでに利用できるデータ」、「所在は明らかだが今は利用できないデータ」、「所在も分からないデータ」に分類できます。

 「すでに利用できるデータ」以外のデータは不足データとなりますので、データの入手を検討する必要があります。データの入手方法の例としては、外部からの購入、センシングでの入手、Webスクレイピングでの入手、システム対応(データ連携や入手の自動化)などが挙げられます。データ活用は自社データと外部データの掛け合わせで大きな効果が出るケースもあるため、データは慎重に吟味すべきでしょう。

 データを収集する際には、データソース(データ発生元)、データオーナー、データ項目名、項目の内容説明などのメタデータも合わせて収集すると良いでしょう。

プロセス4:分析データの準備

 データを収集した後は、分析データの準備を行う必要があります。
収集したデータを実際に見て、内容の間違いや欠損といったデータ品質、データのバリエーション、データのボリューム(行数・列数・容量)をチェックします。

 データについては、内容に間違いがあれば、ユーザーやルールによるデータの修正、データクレンジングなどの対応を検討します。

 データのバリエーションについては、分析テーマに照らし合わせて、収集したデータの項目が必要な要因をカバーできているか、データ項目が持つカテゴリ値や数値に問題がないかなどをチェックするのですが、バリエーションが不足している場合は追加でデータを収集する必要があります。

 データのボリュームについては、機械学習を利用する場合はある程度のボリューム(例えば数十列、数万行のボリューム)が必要になります。

 収集したデータは複数のファイルに分かれていることなどが多いので、必要に応じて収集したデータをキーとなるデータ項目を使って結合します。

プロセス5:データ可視化と分析方法の設計

 どのようなデータ分析を行うにしろ、まずは準備できた分析データを可視化して、データの特長や傾向を視覚的に把握します。可視化は、データ項目の中から軸となる項目を選び、ヒストグラムや散布図を作成して行います。

 そして、「これまでの情報」と「今回把握した情報」を加えたものをベースにして、具体的な分析方法を設計します。設計の際には、収集したデータをインプットに、分析者が新たに作成するデータ項目(特徴量)を含めるようにします。

 分析方法の設計ができたタイミングで、分析アウトプットを使ってくれる現場部門やお客様に説明して、進め方を合意しておくのが良いでしょう。

プロセス6:データ分析

 データ分析には、業務知見を入れてデータ可視化をさらに工夫する「探索的データ可視化」、AI予測モデルを作成する「機械学習」、組み合わせなどの「最適化」などに大きく分類されます。

 探索的データ可視化では、追加で作成した特徴量を含めたデータ可視化に加えて、クロス集計や業務知見を利用した軸を持つ四象限などを利用し、意味のある差が現れるデータの切り口を探します。

 機械学習では、トレーニングデータとテストデータの分割、バリデーションの検討、利用するアルゴリズムの選択、予測モデルの作成、モデル精度を評価するための指標の選択、精度検証などを行う必要があります。

→「課題粒度とAI・データ分析」を解説したコラムはこちら

プロセス7:アクションプランの策定

 データ分析を終えて分析アウトプットができた後は、アクションプランの策定を行います。このアクションプランは分析アウトプットの種類に応じて、大きく2つに分かれます。

 分析アウトプットが出店計画や不具合解析のような分析レポートなどの1回ものである場合は、そのアウトプットをベースにアクションプランを策定します。

 一方、需要予測や異常予兆検知のような予測モデルのように、ビジネスや業務の中で定期的に繰り返し使用されることを想定した分析アウトプットである場合は、予測モデルをどうやってビジネスや業務に組み込んでいくかを盛り込んだアクションプランを策定します。

 プロセスの「分析テーマの導出」で書き出した業務施策をベースに、分析アウトプットを加味して、具体的なアクションプランを策定します。策定する際には、プロセスの前半で巻き込んでおいた分析アウトプットを使ってくれる現場部門やお客様に再度登場いただき、実現性の高いものにしていきます。

プロセス8:効果検証

 アクションプランに設定したタスクに基づき、効果を検証します。効果検証は、分析テーマに記載したビジネスインパクトが得られているかという視点で進めます。ビジネスインパクトを算出する式に組み込んだ変数の実績データを収集し、具体的に検証します。

 変数の実績データの収集方法として、予測が的中した数の集計、MAPE(Mean Absolute Percentage Error(平均絶対誤差率)の略)やRMSE(Root Mean Square Error(二乗平均平方根誤差)の略)といったモデル精度指標の算出、回帰モデルの利用、傾向スコア、A/Bテストなどがあります。

 効果検証をパスすると、その分析アウトプットは継続的に使われるようになりますが、ビジネスや業務の環境は日々変化していくため、「分析アウトプットを作成したタイミング(過去)」と「分析アウトプットを利用するタイミング(現在)」で現実世界を表現しているデータも変化していきます。そうすると、過去のデータで作成した分析アウトプットは、変化した現在に対応した予測結果などを出力することが難しくなります(モデル劣化)。

 こうした事象に対応するためには、最新データの収集および蓄積、分析アウトプットの劣化の検知、再分析および予測モデルの再作成、活用を継続的に行う必要があります。これらの活動を継続的に行うためには自動化が必要であり、これらの機能を持つデータ活用基盤を用意することが効果的です。

事例

事例1:店舗別の需要予測

 小売や飲食業において、適切な商品を適切な時期に手配することは、店舗経営を左右する非常に重要な課題です。その日の需要に対して、在庫や店員が過剰な場合は、売りさばくために大幅な値引きをしたり、過剰な人件費が発生したりすることで、利益が大幅に低下する可能性があります。

 POSデータ、キャンペーンデータ、商圏のイベントデータ、人流の増減に影響を与えるデータ、気象データなどを数年分そろえて、商品の販売数や店舗来客数を予測するAIモデルを作成します。

 予測精度の高いAIモデルを利用することで、日々の需要に対して適正レベルの在庫やシフトスケジュールを用意することができます。また、これまで店長やリーダーが人手で行っていた業務を自動化することで、より顧客対応に時間を割くことができるようになります。

事例2:営業プロセスの効率化

 複数のマーケティング施策、複数のチャネル、複数の営業フローを持つ多くの企業では、より成約率が高いパス、より成約までの期間が短いパスを見つけることは、重要な課題です。

 引き合いから成約までの間、営業プロセスを流れる商談と取ったアクションをデータとして収集し、時系列で確認できるようにします。どの商談が、どのチャネルから入ってきて、どのフローを流れていったかを集計し、図やグラフで可視化します。

 滞留期間やタイミング、手段も考慮に入れてフローを分けることで、このチャネルから入ってきたお客様にはこのタイミングで連絡を取るのが良い、連絡手段はメールよりも電話が良いといった洞察(インサイト)を見つけていきます。フローの分割には決定木などを利用することも有効です。

 営業プロセス内のインサイトを網羅的に調べて、より効率の良い営業プロセスを再構築していきます。

事例3:サービス離脱の予兆検知

 月払い・年払いやサブスクリプションの形でお客様にご利用いただいているサービスや商品には常に離脱のリスクがあります。この離脱の予兆を早期に検知し、離脱防止の施策を打つことは重要な課題です。

 お客様のご利用状況や状態を把握できるデータ(動的データ)を日々収集します。そして、お客様がいつ利用されたか、どのくらいの時間で利用されたか、何を利用されたか、前回の利用からどれくらい期間が空いているか、利用時間の推移はどういう傾向か、アンケートやスタッフの記録には何が書かれているかといったことを、業務エキスパートは業務の視点から、分析者はデータの視点から、お互いに気付きを共有しディスカッションすることで分析を進めます。

 分析アウトプットとして、十分に施策を打てる早いタイミングで離脱の予兆が検知でき、お客様とのコミュニケーションや動的データの傾向に応じて、離脱低減の施策を打つことができます。

事例4:ECサイトと実店舗の補完

 ECサイトでは、訪問されたユーザーへの商品のレコメンドがポイントになることが多いですが、実店舗がある場合はどのように補完の関係を構築するのかが重要な課題です。

 ECサイトの売上が思うように伸びていない場合、ユーザーの訪問理由をアンケートやインタビューを通して調べます。調査の結果、訪問理由として、「商品の購入」よりも「新商品のチェック」や「実店舗に行く前の商品チェック」であった場合は、実店舗とECサイトが連動する形で、施策を打つ必要があります。

 スマートフォンアプリをリリースし、お客様が求めている商品の情報や閲覧履歴、位置情報、お気に入り店舗といったデータを収集し、アプリ・ECサイトで得られる動的データをトリガーに、実店舗側でニーズに応えていくことができます。

事例5:車両アフターメンテナンスの高度化

 ビジネスで使用される車両は過酷な環境の中で長時間使用されます。一方、故障等で車両が使用できなくなるダウンタイムは、売上の減少に直結するため、回避すべき重要な課題です。ダウンタイムの回避のためには定期的なメンテナンスが有効ではありますが、時間が十分に確保できずに最低限で済まされることもあります。

 車両の稼働データを収集し、業務知見をすり合わせてデータ分析を行うことで、故障の予兆や発生前傾向をつかむことができます。つかむことができた予兆や傾向を、適切なタイミング・ルート・形式(メンテナンスや部品交換のレコメンド)で、ユーザーに伝えることで課題の解決に貢献することができます。

事例6:プラントや製造装置の異常予兆検知

 プラントや製造装置のダウンタイムを減らし、歩留まりを向上させることは、製造業にとって重要な課題です。

 製造工程のポイントとなる箇所でセンサー等を使って収集するデータや装置から入手できる稼働データ、正常に稼働している期間のデータ/異常が発生している期間のデータをタイムスタンプ等でデータを結合し、可視化、分析することで異常の予兆を把握できることがあります。

 製造の現場は不断の努力により、異常の件数等は非常に少ないことが多く、通常の機械学習に必要なデータ量(異常の分)に満たないことがほとんどです。このような状況下では、データを可視化して、業務エキスパートと分析者がディスカッションしながら、有効な特徴量を作成し分析を進めていきます。

 分析により予兆が検知できると、試行環境を整えて、現在行っている監視と並行して、異常予兆を検知する新しい仕掛けを稼働させて、効果検証を行います。

まとめ

 さてここまで、データ活用のポイント、手順、事例までを当社の知見や経験も盛り込みながら解説しました。
データ活用は、ターゲットをしっかりと決めて、正しい方法で進めれば、ビジネスの変革や業務の改善に貢献できる確率を大きく上げることができます。

 しかしここまでの解説で、データ活用を進めるためには、多くのことを考え、準備しなければいけないのかと不安に思われた方もいらっしゃるかと思います。

 ビジネス環境の変化が激しい今の状況では、対応の遅れが大きな後退につながる可能性があります。自社のコアを見定めて、それ以外の領域でスピードが要求される部分については、社外(パートナー)に委託するという選択肢は有力な手の1つです。

 この選択肢には、迅速に成果(データ活用による意思決定のスピードおよび品質の向上、業務効率化など)をあげられる可能性が高まる、自社のリソースを大きく消費しない、パートナーに任せることで試行錯誤が減りコストが低減されるケースがある、といったメリットが期待できます。

 一方で、データ活用で協力してもらうパートナーを選ぶ際の注意点としては、自社の目標や理念に共感してもらえるか、自社にない知見を持っているか、顧客(自社)のビジネス・業務・製品などのキャッチアップは早いか、ディスカッションで専門的な見地から意見を述べてくれるか、具体的かつ現実的な提案をしてくれるか、といった点が挙げられます。

 トップダウンでデータ活用の重要性を全社に説き、マネジメントで取り組む経営テーマや解決する業務課題を明確にして、現場レベルでデータを日々活用していくことが求められています。


2023年2月17日
株式会社オージス総研 IoTソリューション部 データ・アナリティクスチーム
マネジャー 小林 祐介

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2023年2月17日公開
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