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解説シリーズ:「収益認識に関する会計基準」第6回

~ステップ5:履行義務の充足による収益の認識~

プライムジャパン・コンサルティング
会計情報リサーチ

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わが国における収益認識に関する初の包括的な会計基準である「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が2021年4月から適用開始予定となっています。この新しい会計基準の適用に伴い、企業の収益計上に関する考え方が大きく変わろうとしています。新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、いま現在、企業を取り巻く収益環境は激変していますが、当該会計基準は経理財務部門だけでなく、営業部門や製造部門、IT部門等の企業内部の幅広い領域に大きな影響を及ぼす可能性があります。そこで本シリーズでは、「収益認識に関する会計基準」(以下、「会計基準」という)について、事例等も交えながらわかりやすく解説していきたいと思います。

 

第6回は、収益の認識基準に係るステップ5「履行義務の充足による収益に認識」について解説します。

 

1.概要

 

第1回で触れましたように、収益認識に関する会計基準の特徴は、5つのステップを適用して収益を認識することにあります(会計基準第17項)。すなわち、本会計基準では5つのステップを基本原則として、収益を「いつ」、「いくら」で認識するかを決定します。最後のステップ5では、ステップ4で履行義務に配分した取引価格に基づいて、それぞれの履行義務の充足した時点または充足するにつれて収益を認識します。

企業は、約束した財またはサービス(以下、「資産」と記載することもある)を顧客に移転することによって、履行義務を充足した時にまたは充足するにつれて、収益を認識します。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、または獲得するにつれてとされています。

 

具体的には、次の3つの要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することにより、当該期間にわたり履行義務を充足し収益を認識します(会計基準第38項)。

 

  1. 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
  2. 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じるまたは資産の価値が増加し、当該資産が生じるまたは当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
  3. 次の要件のいずれも満たすこと
    1. 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
    2. 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

上記3つの要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識します。

2.一時点で収益を認識する場合の指標

 

一時点で収益を認識する場合、資産に対する支配を顧客に移転した時に収益を認識します。「支配」が顧客に移転したことを示す指標としては、次の5つが挙げられます(会計基準第40項)。

上記5つの指標すべてを満たす必要はなく、優先順位もありません。また、これらの指標の一つに該当したとしても、ただちに支配が移転しているわけではなく、取引の実態に即して「支配の移転」があったことを総合的に勘案します。

 

 

3.一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する場合の見積方法

 

履行義務が一定の期間にわたり充足される場合、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることにより、収益を認識します。進捗度の見積方法には、アウトプット法とインプット法の2つがあります。

進捗度の見積ができない場合

 

履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができなくとも、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準により処理します(会計基準第45項)。

 

 

【設例:一定期間にわたり収益を認識する方法】

期間がごく短い工事契約および受注制作のソフトウェア

 

本会計基準では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、代替的な取扱いを定めています。

 

例えば、工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、会計基準第38 項の定めにかかわらず、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。また、受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて同様に処理することができます(適用指針第95項、第96項)。

 

 

【他社開示例】一時点で収益を認識している事例

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 2020年3月期有価証券報告書(IFRS)

「重要な会計方針」の「顧客との契約から生じる収益」に関する注記の抜粋

 

 

 

【他社開示例】一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識している事例

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 2020年3月期有価証券報告書(IFRS)

「重要な会計方針」の「顧客との契約から生じる収益」に関する注記の抜粋

以上

 

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