部下が上司を評価する制度のメリットとは|360度評価の項目・例文と失敗を防ぐポイント

部下が上司を評価する制度として導入されているのが「360度評価」です。部下の視点を評価制度に取り入れることで、管理職育成やマネジメント力の向上をはじめ、コンプライアンスの浸透など人材管理面においても多様なメリットを得ることができます。

本記事では、部下が上司を評価する制度を取り入れるメリットを整理するとともに、リーダー・管理職向けの評価項目と例文、導入・運用のポイント、よくある失敗例と対策まで解説します。

※関連記事:360度評価(多面評価)とは? 導入する目的とメリット

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

部下が上司を評価する制度とは

従来の評価制度は、上司が部下を評価する一方向的な視点で行われるのが一般的です。多くの企業が慣れ親しんでいる手法ですが、一方で「上司によって評価が異なるため公平性に欠ける」「相性がよくない上司が評価することに不安を感じる」などの声が少なくないという問題を抱えてきました。

評価制度は従業員のモチベーションに大きな影響を与えるものであり、納得感がない状態を放置してしまうと、パフォーマンスが低下したり会社・組織に対する信頼感がなくなったりする可能性が生じます。この問題の解決に役立つのが、多面評価とも呼ばれる360度評価です。

360度評価とは、評価対象者となる従業員に対し、上司・部下・同僚などの異なる立場にある複数名の人が職務行動や遂行能力を評価する手法のことです。仕事上、様々な関わり方をする従業員が多角的な視点で評価するため、公平性・客観性のある人事評価を実現することができます。また、部下が上司を評価する制度では、上司自身が自覚していなかった多様な気づきを与えられるため、マネジメント層の育成の面でも期待が寄せられています。

部下が上司を評価する制度を取り入れるメリット

部下が上司を評価する360度評価を取り入れることで、どのようなメリットが得られるのかを見ていきましょう。

上司にとってのメリット

上司にとってのメリットには、次のことが挙げられます。

  • 部下の視点から評価・フィードバックを受けることで自身の強み・弱みがわかり、行動の改善につなげられる
  • 自己評価と部下の評価のギャップを知ることで、行動改革のきっかけとなる
  • 部下から評価されるという意識を持つことで日々の行動を見つめ直す機会が増え、より良いパフォーマンスやマネジメントができるようになる
  • 部下からの評価がわからないという不安がなくなり、自信を持って業務を進められるようになる

部下から評価される制度というと戸惑いを見せるマネジメント層が少なくありませんが、上記からわかるように、360度評価は上司自身の成長を後押しするものです。行動の改善が進めばパフォーマンスやマネジメント力が向上し、部下との信頼関係を強めることにつながります。

部下にとってのメリット

上司を評価することで、部下にとっては以下のようなメリットが期待されます。

  • 上司に改善してほしいこと・期待することを伝えられるため、より良い組織づくりに貢献できる
  • 上司を評価する中でマネジメント層の役割を学ぶことができ、自身の行動・意識の改革につなげられる
  • 他者を評価するノウハウ・スキルが身につく

従来の評価制度では部下は常に評価される側ですが、評価者としての役割を持つことで多様な学びを得ることができます。また、より良い組織づくりに貢献できるため、モチベーションが向上するというメリットもあります。

会社にとってのメリット

会社として得られるメリットは、次のように整理できます。

  • 部下による評価という新たな視点を取り入れることで、従業員にとって納得感がある公平性・客観性のある評価制度を実現できる
  • 評価・フィードバックへの納得感が強まることで、個々の従業員のパフォーマンス向上が期待できる
  • 上司・部下ともに評価者となることで組織運営における当事者意識が高まり、エンゲージメントの向上につながる
  • 会社が期待するコンピテンシー(優れた成果につながる行動特性)の浸透が期待できる
  • パワハラやセクハラなどのハラスメントを抑止したり、兆候を早期に捉えたりできるようになるなどコンプライアンス(法令や社会規範の遵守)の浸透に役立つ
  • 多面的な評価データを得られることで自社の組織課題が明確になり、精度の高い人事戦略が可能になる

360度評価は公平かつ客観的な評価制度を実現できることに加え、評価する側・される側の双方に多様な気づきをもたらします。そのため、人材育成をはじめ、コンピテンシーやコンプライアンスの浸透にも役立ちます。また、ハラスメントは加害者が自覚していないケースも少なくありませんが、360度評価を導入することで自身の行為に問題がないか見直す意識が高まるため、ハラスメント対策としても有効といえます。

360度評価では個々の従業員の課題を把握するだけでなく、会社・組織全体の傾向や課題についても明らかにできるため、効果的な人事戦略の策定に役立てることができます。

部下が上司を評価する360度評価の項目と例文

調査・評価専業会社であるリアルワンでは、部下が上司を評価するリーダー・管理職向けの360度評価において「3カテゴリー・16職務行動・48評価項目」を設定しています。これは、リーダーシップ論の世界的権威であるGary Yukl教授が提唱するMPS(Managerial Practices Survey)をもとに日本の企業向けに開発した独自モデルで、リーダー・管理職がどの程度リーダーシップを発揮しているか、効果的にマネジメントを行えているのかを明らかにすることができます。

実際には各企業の経営方針や評価対象者の職位・権限などに応じて構成を決めますが、ここでは標準的な評価項目と例文を紹介します。

業務課題への取り組みについて

部下の日常的な業務を管理・監督・運営するための行動です。具体的には次の6つの職務行動を評価します。

職務行動例文
役割の明確化・経営理念や方針を踏まえた上で、業務における役割を明確に示している ・部署が目指している目標を明確に示している
職務遂行の監督・職務の遂行状況について管理・監督の役割を果たしている
短期計画の立案・短期(1年)計画の立案およびメンバーへの説明が行われている
問題解決行動・チーム・組織における問題の解決に向けて行動している ・客観的に状況を判断し、必要な判断を行っている
模範・例示・部下の模範となるような行動を心がけている
組織学習の促進・知識やスキルがチーム・組織に共有されるよう取り組んでいる

関係構築・維持の取り組みについて

組織において適切な人間関係を構築・維持するための行動です。次の5つの評価項目があります。

職務行動例文
周囲への相談・配慮・部下の成長や将来のキャリアについて親身に相談に乗っている ・考え方や価値観の違う相手に対しても、それを受け入れ、双方にとって最善な方法を探そうとしている
サポート・部下が成長できるよう適切な支援を行っている
仕事の評価・部下の仕事に対して適切な評価とフィードバックを行っている
育成・指導・部下の能力・特性を把握した上で適切な指導を行っている ・会社や他部署からの期待や評価を部下に伝えている
権限委譲・部下への権限委譲により成長の機会を提供している

変革の取り組みについて

組織のより良い未来に向けて、先見的な行動をとっているかを評価する項目です。以下の5つの職務行動があります。

職務行動例文
変革の構想・現状を把握した上で、あるべき姿への構想を示している
変革リスクの受容・旧来のやり方に固執せず、常により良いやり方を探し試そうとしている
革新的思考の奨励・会社・組織にとって価値がある新しい考え方やアイデアの創出を奨励している
外部環境の監視・ビジネス環境の変化を素早く捉え、会社・組織の価値向上について考えている
変化の必要性説明・組織や業務における問題を共有し、変化の必要性を説明している

360度評価を導入・運用する際のポイント

360度評価を導入・運用するにあたって押さえておきたいポイントをまとめました。一つずつ見ていきましょう。

導入目的を周知する

360度評価では上司・部下・同僚といったそれぞれの立場において評価者・評価対象者のどちらにもなることがあるため、はじめは不安を感じるものです。そのため、実施する前に説明会などの場を設けて、従業員の理解と納得感を得ることが不可欠です。

以下の事項を明確にし、丁寧かつ具体的な説明で従業員の不安や懸念、疑問を解消できるようにしましょう。

  • 導入の目的・背景
  • 従業員や組織にとっての意義・メリット
  • 評価の基準・ルール
  • 運用時のルール
  • フィードバックの方法
  • 実施方法
  • スケジュール
  • 相談窓口

説明会の中で質問ができなかったり不安が解消されなかったりする従業員が出てくる可能性もあるため、相談窓口を設けることをおすすめします。

事前に評価の基準・ルールをインプットする

評価の基準・ルールが不明瞭なまま実施してしまうと、評価者によるバラつきが大きくなり適切な結果を得られなくなることがあります。とくに部下が上司を評価する場合、やり方がわからないという声が多くなると想定されるため、基準・ルールを明確にした上で事前にインプットしておく必要があります。

評価者として留意しておきたいポイントには、以下のことが挙げられます。

  • 好き嫌いや感情的な評価・コメントをしない
  • 評価対象者の成長につながることを意識した客観的な評価を行う
  • 改善してほしいことをコメントするときは、批判にならないよう具体的な提案や助言を心がける

上記の観点を踏まえ、適切な評価を行えるようルール化しておくとよいでしょう。事前に評価方法についての研修を実施するのも良い方法です。従業員の目線が揃うことで、360度評価の有効性が高まります。

目的に応じて評価項目・回答形式を設定する

360度評価を実施する目的は、評価対象者に振り返りや内省の機会を与えることで成長を後押しする「人材開発」と、コンピテンシーやコンプライアンスの浸透による適切な「人材管理」の2つに大別されます。

評価項目を設定する際は、「会社・組織が期待する行動を適切に評価できるか」「結果を受けた評価対象者が自身の行動改革につなげることができるか」の2点に留意し、自社の目的に沿って精査することが重要です。以下の点を意識しながら進めましょう。

  • 評価者によって捉え方に迷ってしまう設問文になっていないか
  • 行動改革につなげられるレポートを作成できる評価項目となっているか(強み・弱みを把握できる、自己評価と他者評価のギャップをつかめる など)

また、評価項目を検討する際は項目数についても考慮しましょう。項目数が多すぎると回答者の負担が大きくなり、回答の精度が下がってしまうことがあるため注意が必要です。一般的には20~50問程度、回答時間は15~20分程度を目安とするケースが多くなっています。

360度評価の回答形式は5段階評定(そう思う・どちらかというとそう思う・どちらともいえない・どちらかというとそう思わない・そう思わない)と自由記述で構成するのが一般的です。とくに自由記述では「どのようなコメントを書けばいいのかわからない」という声が多く上がります。書き方の例やポイントを提示するなどして、有益なコメントが増えるよう工夫しましょう。

運用ルールを決める

360度評価をスムーズに運用するには、ガイドラインとなる運用ルールを決めておくことも大切です。盛り込むべき内容の例を以下に挙げます。

  • 実施回数:単発的に実施、年1回のペースで継続的に実施する など
  • 閲覧者の範囲:評価対象者、上長、人事、経営層 など
  • 結果の活用範囲:配属、昇進・昇格、人事評価、人材育成計画を検討する際の参考にする など
  • 評価者の匿名性:基本的には誰による評価かわからないよう匿名とするのが望ましい

運用ルールでとくに注意したいのは、報酬に関わる人事考課には組み込まないほうがよいという点です。従業員の不安が大きくなるほか、高評価となるよう従業員同士で根回しをしてしまうなどの事態が起きやすくなり、実態に即さない評価制度となってしまう可能性が生じるためです。

360度評価は人材開発や人材管理の面で効力を発揮することを理解した上で、従業員に誤解を与えないよう活用範囲を明確に示すことが重要です。

適切なフィードバックを行えるようにする

360度評価では適切なフィードバックを受けてこそ、従業員の意欲や高いパフォーマンスを引き出します。これを実現するには、フィードバックを受けた評価対象者が「成長のヒントを得られるか」「行動改革につなげられるか」という点を念頭に置いて企画・設計することがポイントとなります。

以下の観点を参考に、効果的なフィードバックを実現できるよう進めましょう。

  • 長所と改善すべき点、自己評価と他者評価との違いなど様々な気づきを得られる評価項目とする
  • 会社・組織から期待される能力や行動を具体的に把握でき、意欲的に取り組めるようにする
  • 長所や改善すべき点を踏まえ、次に取るべき行動プランや目標が具体的にイメージできるようにする

また、評価結果を渡したら終わりではなく、面談をして評価対象者が振り返れるよう支援する、リーダー・管理職の自己分析と行動プランの策定に役立てる、マネジメント力向上のための研修を実施するなど、継続的なフォローを行うことで360度評価の成果が高まります。

部下が上司を評価する360度評価で起こりがちな失敗と対策

様々な成果が期待できる360度評価ですが、残念ながら失敗に終わってしまうケースも見受けられます。ここでは、部下が上司を評価する際に起こりがちな失敗例と、回避するための対策について説明します。

上司と部下の関係性が悪化

360度評価の失敗として多いのは、職場内のコミュニケーションがうまくいかなくなり、上司と部下の関係性が悪化してしまうことです。

たとえば、部下の評価が悪かった場合に上司が疑心暗鬼になってしまい、率直な意見交換や円滑なコミュニケーションができなくなるというケースです。また、上司との関係性を気にする部下が評価にさじ加減を加えたり、従業員同士で高評価をつけあう忖度が起きたりし、結果として本質的な信頼関係が築けなくなってしまうこともあります。

このような問題が起こる要因は、360度評価の意義やメリットがしっかり伝わっていないことが挙げられます。また、評価結果が報酬に紐づけられていると、恣意的に評価を調整する事態が起こりやすくなります。

これらを回避するには、360度評価が評価者・評価対象者にとってどのようなメリットがもたらされるのかを具体的に伝えるとともに、報酬とは連動しないことを従業員の懸念が解消されるまでしっかり説明することが重要になります。

部下の評価が気になり適切な指導ができなくなる

上司が部下の評価を気にするあまり指導が甘くなったり、部下の印象を良くすることばかりに気を取られたりして適切なマネジメントができなくなってしまうという失敗例です。部下から評価されることに慣れていない管理職にとっては、360度評価自体がストレスに感じられることもあるでしょう。

こうした状態が起こると組織力の低下や業績への影響も懸念されるため、しっかり対策を講じる必要があります。具体的には、部下による評価の受け止め方や読み解き方について、理解を深めるための管理職向け研修を実施するという方法があります。部下からのフィードバックが自身のマネジメント力向上につながる貴重な機会であることがわかれば、上司として本来あるべき姿勢で部下と向き合えるようになります。

評価が低い場合にモチベーションが低下

部下からの評価が悪かったり、評価コメントに厳しい内容が書かれていたりした場合に、上司が自信を失いモチベーションが著しく低下してしまうことがあります。とくに自己評価とのギャップが大きかったときに、ショックを受けてしまう管理職が多いようです。一時的にモチベーションが下がっても行動改革のきっかけになれば問題ありませんが、気持ちの切り替えができず組織運営に支障をきたしてしまうケースもあります。

この問題を回避するには、上司・部下の双方に対策をとることが必要です。上司に対しては先述の通り、部下のフィードバックをどのように自身の成長につなげていくのか、理解を深める場を設けることが有効です。結果の良し悪しだけにとらわれず、自身のマネジメント力を磨ける貴重な機会であることが理解できれば、評価を客観的に受け止められるようになります。

部下に対しては、正しい評価の仕方を丁寧に説明することが重要です。なかでも自由記述については、感情に任せた批判とならないようレクチャーする必要があります。良いコメントと悪いコメントの違いを、例を挙げながら説明するなどの工夫をするとよいでしょう。

また、調査対象者に向けてフィードバック面談を行うなど、実施後のフォローアップまで計画に組み込んでおくことも大切です。

評価に納得できない

360度評価の結果に納得できないというケースもあります。たとえば、部下によって評価が大きく異なっている場合に公平性に疑問を持ち、360度評価に対して反発心が生まれたり、意味がないと受け止めたりしてしまうことがあります。

この問題が生じる要因には、評価の経験がない部下も評価者となるため評価の仕方にバラつきが出やすいこと、感情的に評価してしまうことが挙げられます。評価についてのノウハウ・スキルを習得している上司からすると、このような評価制度に意味があるのかという疑問が生まれてしまうわけです。

この失敗を避けるには、評価の基準・ルールを具体的に定めて評価のブレをできる限り小さくすることが重要になります。また、評価者が判断に迷ったり感情的になったりしないよう、評価項目や設問文を精査することも必要です。

とはいえ、評価スキルは従業員によってある程度の差が生じるものです。この点を踏まえても、部下からのフィードバックには、自身の成長につながる貴重なヒントがたくさんあることに目を向けてもらえるようフォローするのが望ましいといえます。

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働き方の多様化や目まぐるしく変化するビジネス環境において、マネジメント力・組織力の強化を経営課題に挙げる企業が多くなっています。360度評価は、公平性の高い評価制度として従業員の信頼感を醸成するとともに、人材育成における効用にも期待が寄せられている手法です。2019年に、全省庁の課長職以上に360度評価が導入されたことも話題を集めました。

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