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人間社会と酷似 「サル団子」優位なオスほど内側に

小豆島「お猿の国」のサル団子は数十匹から100匹超と数が多いのが特徴だ=香川県土庄町
小豆島「お猿の国」のサル団子は数十匹から100匹超と数が多いのが特徴だ=香川県土庄町

瀬戸内海の小豆島(香川県)の冬の風物詩は、標高約350メートルの銚子渓自然動物園「お猿の国」(土庄(とのしょう)町)で多数のニホンザルが体を寄せ合って暖をとる巨大な「サル団子」だ。ときに100匹を超える巨大な「サル団子」は小豆島か淡路島(兵庫県)でしか見られないという。最近の研究では、序列上位のオスは基本的にサル団子の中にいられて暖をとることができる特権の存在も分かってきた。サルの群れの不思議な習性を実際に見るため現地を訪れた。

イノシシが乱入

温暖な気候でオリーブ栽培が有名な小豆島は面積約153平方キロ、2万6千人ほどが暮らす。土庄港から車で約20分の銚子渓に約500匹が生息するお猿の国がある。昭和31年に餌付けを始め、周辺を整備して観光施設として開園した。ともに200匹以上が属するA群とB群に分かれ、高台の屋根付き寝床はA群が確保している。

飼育スタッフによると、A群は穏健派、B群は体育会系といい、A群第1位の団十郎は「周りから信頼され、年齢的にも若く穏やかな性格でおねだり上手」、第2位の猿之助は「団十郎とともに群れを引っ張り、りりしい表情で群れを引き締めている」、第3位の吉衛門は「マイペースで権力闘争には無縁、穏健派を象徴し、群れのことを見守っている」と分析している。

日が暮れたり風が強くなったりして寒さが厳しくなると、A群のサル団子ができ始める。この日、団十郎は石積みの前で、猿之助は寝床で数十匹で身を寄せ合った。数は寝床の方が多かった。しばらくして寝床のサル団子に一本化していき、団十郎は後から悠然と内側へと割り込んでいった。

餌やりが始まると団子はばらけた。食事が一段落すると、斜面上部の木陰から1頭のイノシシが出没した。食べ残しを目当てにほぼ毎日現れるのだという。サルたちも逃げまどってはいるものの、一定の距離を保ちながらやり過ごしているようにもみえた。

イノシシが出没すると、サルたちは騒がしくなり、動きが俊敏になった
イノシシが出没すると、サルたちは騒がしくなり、動きが俊敏になった

上位オスほど好位置に

この地で研究を続ける東邦大学の石塚真太郎研究員(29)=日本学術振興会特別研究員=は「高順位のオスほどサル団子の内側に陣取って多くの個体と接触しており、集団内で高い序列を得ることは多くの食物や繁殖機会を得るだけでなく、効率よく寒さをしのぐことにもつながっている」と令和3年1月、研究成果として発表した。

平成29年冬季にA群を対象として野外調査を行い、サル団子を約100枚撮影。順位が判明している全オトナオスの団子内の位置と接触個体数を調べた。高い順位のオスほど内側を陣取っていること、内側の方が外側よりも多くの個体と接触できることが分かった。

「団十郎がいつでも中心付近に陣取っている印象があった。印象を科学的に証明でき、生物学的な意義まで考察できた」と話す。

サル団子はメス猿の方が作りやすく、小猿を抱えて参加することも多い。中央奥で頭一つ出ているのが第1位オスの団十郎
サル団子はメス猿の方が作りやすく、小猿を抱えて参加することも多い。中央奥で頭一つ出ているのが第1位オスの団十郎

サル団子は親密な数頭が体を寄せ合い暖をとる行動で日本各地で見られるが、100匹規模のものは小豆島と淡路島モンキーセンター(兵庫県洲本市)でしか見られないという。人間に比べて他者への寛容性が低いとされるが、複数の研究グループにより、寛容性の地域差や淡路島などのサルの寛容性の高さなどについて研究成果が発表されている。

石塚さんは「小豆島や淡路島の猿は他個体に対して温厚に接し寛容性が高いことが他の研究で示唆されており、寛容性の高さが巨大サル団子を可能にしているのかも」と推測する。

2カ所でできていたサル団子が合流して1つになり巨大化した
2カ所でできていたサル団子が合流して1つになり巨大化した

メスもしたたか

サル団子は基本的に①親密な少数個体が小さなサル団子を作る②小さなサル団子に親密でない個体も参加して巨大化-の2段階で形成されることが多い。

優位オスが動いた先に後から集まって団子が形成されるか、できている団子に優位オスが割り込むパターンがある。ただ、「第1位オスが内側にいる割合が高いが必ずしも中心に近いというわけでもない」という。

サル団子でも分かるように、優位オスは劣位オスよりもさまざまな面で利益を多く得る。多くの動物においてその代表例は繁殖だがニホンザルは例外で、メスの交配者選択が強く作用するという。優位オスは劣位オスと同等以上に交尾を行うものの、実は多くの子を残すケースはほとんどないそうだ。

群れ内の在籍期間が長いオスは繁殖相手として避けられるという。石塚さんは「立場をめぐって派手に争い、中心的存在である第1位オスも、子孫繁栄がメスによって知らないうちに牛耳られていることを知ると、なんだか哀愁が漂ってくるのでは」という。

そして「男たちの覇権争いと女たちの駆け引きが織り交ざる社会の様相を見いだすことができる」と話していた。(和田基宏)

サル団子は例年2月末ごろまでみられる。ただ、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、お猿の国は2月18日まで臨時休園している。感染状況により変更する場合がある。

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