SNS判事に弾劾裁判 「私的投稿」罷免になるか

会員制交流サイト(SNS)などに不適切な投稿を繰り返したとして、国会の裁判官弾劾裁判所に訴追された仙台高裁の岡口基一判事(55)の初公判が3月2日に開かれる。インターネット上への私的な投稿を理由に弾劾裁判が開かれるのは初めて。異例の審理の行方が注目される。

私的行為も対象

仙台高裁の岡口基一判事
仙台高裁の岡口基一判事

問題とされた岡口判事の投稿は、自身が担当していない2件の刑事・民事裁判に関するものだった。

訴追状によると、平成29年12月~令和元年11月、女子高生殺害事件の遺族やペットの返還をめぐる民事訴訟の当事者に対し、ツイッターやフェイスブック、ブログに計11回にわたり、侮辱したり社会的評価を不当におとしめたりする投稿をしたとされる。

弾劾制度は戦後、日本国憲法の制定に伴い創設された。憲法では公務員の選定と罷免は「国民固有の権利」と規定。司法権の独立の観点から強い身分保障を持つ裁判官についても、国民の代表である国会議員が裁判官役を務める弾劾裁判を経て罷免できるとされている。

職務上の義務違反や職務放棄だけでなく、職務外の私的な行為についても「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」と認定されれば罷免される。過去に罷免された裁判官は7人。平成以降の3件は、児童買春やストーカー行為、盗撮行為など、いずれも職務外での犯罪行為が理由だった。

繰り返された投稿

一連の投稿をめぐり岡口判事は、遺族や当事者から抗議されたほか、東京高裁長官からの厳重注意や、分限裁判で最高裁から戒告の決定も受けていた。

訴追状では、岡口判事が厳重注意や戒告処分を受けた後も投稿を続けていた点に言及。一連の問題について岡口判事側が開いた記者会見や週刊誌の取材を受けた際の発言なども、訴追の理由とした。

通常、訴追請求は最高裁が行うことが多いが、今回は投稿により名誉を傷つけられたなどとする遺族らが行っている。女子高生殺害事件の被害者の母親、岩瀬裕見子さん(53)は「『同種の投稿は二度としない』という約束を守っておらず、理解ができない」と憤る。

裕見子さんは、夫の正史さん(52)とともに岡口判事の投稿で侮辱されたとして昨年3月、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴訟は現在も続いている。

不罷免求める声も

一方、罷免された裁判官は裁判官の身分とともに法曹資格を失い、退職金も支給されない。岡口判事の支援団体は「表現行為は主観的な評価に関わる事例で制度の目的を逸脱している」として争う構えを見せている。

各地の弁護士会からも、「行為と結果のつり合いがとれない」などとして罷免しないよう求める声明が相次いでいる。岡口判事が現在所属する仙台高裁がある宮城県の仙台弁護士会は昨年10月、「投稿・発言内容は重大な違法性を有しているとまでは認められない。裁判官の表現活動を理由に罷免できる先例となれば、裁判官の独立に対する重大な脅威となる」とする会長声明を発表した。

弾劾制度を研究する日本大法学部の柳瀬昇教授(憲法学)は「司法の正統性の源泉は司法に対する国民の信頼。罷免判決の本質は国民の信頼に背いた裁判官を辞めさせることであり、法曹資格の喪失は付随的な問題に過ぎない」と指摘。

その上で「弾劾裁判所は、私的な表現行為が裁判官の身分を失う結果に見合ったものか否かを判断すべきだ」と話している。(村嶋和樹、塔野岡剛)

弾劾裁判 衆参各7人ずつ計14人の「裁判員」で構成。原則として公開の法廷で行われる。刑事裁判と似た手続きを経て、3分の2以上の賛成があれば罷免される。判決に対する上訴は認められず、言い渡しと同時に確定。判決から5年が経過し、弾劾裁判所が認めれば法曹資格は回復する。

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