細田前議長最後の会見 執拗に質問重ねた一部記者に覚えた違和感 

辞任会見で安倍晋三元首相の名前が入った湯飲みを手にする細田博之衆院議長(当時)=10月13日午後、衆院議長公邸
辞任会見で安倍晋三元首相の名前が入った湯飲みを手にする細田博之衆院議長(当時)=10月13日午後、衆院議長公邸

逝去した細田博之前衆院議長が最後に注目を集めた舞台は議長辞任を表明した10月13日の記者会見となった。議長としての功績や人柄に焦点が当たる場面はほとんどなく、女性記者へのセクハラ疑惑や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関連追及に終始された。三権の長に対する疑惑の追及は然るべきとはいえ、体調悪化を理由に退く細田氏に対し、設定時間を約25分超えてなお〝制限なき質問〟を求め続けた一部記者の在り方に違和感を覚えた。その場にいた身としても反省したい。

「持病を抱えたようなものだ。この程度のことは支障はない。大丈夫だ」

細田氏は10月13日の会見で、議員活動は継続する考えをこう強調していた。任期途中で議長から退かざるを得ない脳梗塞の後遺症を抱えて、議員を続けられるのだろうか。記者も、「議員の職責を軽く見ていると見られかねないのではないか」と質問したが、納得できる説明は得られなかった。

細田氏の衰えは明らかだった。6月に閉会した通常国会で見かけた姿は見る影もなく痩せ細り、足取りはおぼつかなく、言葉はか細かった。

自身の評判を落としかねない発言もあった。取り沙汰されるセクハラ疑惑について、被害者女性が名乗り出ないことを理由に、「どうして私がセクハラ議長といわれなければならないのか」と開き直ったかのような回答に終始した。女性記者からは「セクハラは上下関係があるなど難しい状況で起こる。(被害者は)なかなか言い出せないという認識をもっていただきたい」と指摘する声もあがった。

三権の長にふさわしくない疑惑も抱えた細田氏だったが、容態の悪化を考慮しない記者団の姿勢には改善すべき所はあっただろう。

会見の在り方を巡って衆院記者クラブは当初、議長側から①撮影は冒頭発言のみ②時間は30分程度③参加者は国会を取材する記者クラブ加盟社から各社1人ずつ─などと打診された。クラブ加盟の朝日新聞社が問題視する形で、クラブは議長側と交渉し、結果として会見中の撮影は全て許された。会見時間に関しては、議長の判断で延長される可能性は否定されないとされた。30分程度に設定した理由は「議長の体調を考慮した」だった。

実際、細田氏は設定時間を複数回延長して、記者団の質問に応じた。旧統一教会との関わりについては「パーティーに呼ばれ、あいさつした程度の話。それ以上のものはなにもない」と述べるにとどめた。満足いく回答ではなかったのか、記者団の一部はヒートアップする。

最終的に事務方が会見終了を宣告した後も、会場を去ろうとする細田氏の背中に、「手が挙がっている間は会見しませんか」「ずっと説明されなかったから、これだけ質問が出ている」と質問を浴びせ続けた。怒声もあった。

体調悪化が明らかな79歳の細田氏に対する一部記者の姿勢は疑問視されるものだったが、事務方も、「細田氏の体調を考慮」して会見を終える理由について、当日、明確な説明はなかった。後日知った理由は、細田氏本人が議員活動を続ける上で、体調の悪化をことさらクローズアップしたくないというものだった。

記者が印象に残った細田氏の言葉は、昨年7月に銃撃され死去した安倍晋三元首相に対する思いが強くにじむものだった。

「安倍氏の苦しみを思い、悲しんでいる。なぜ、死ななければならなかったのか。私は、ずっとうつ状態といっても、おかしくはない」

安倍氏は旧統一教会に恨みを持つと供述する男による理不尽な凶弾に倒れた。細田氏は会見で、「安倍氏が殺されることと、まったく統一教会問題は関係がない」とも述べた。永田町も含めて聞かれることの少なかった正論で、安倍氏を擁護しようとしたのだろうか。

細田氏が会見で手にしていた湯飲みに安倍氏の名前が刻まれていたことも後で知った。鬼籍に入った細田氏。天国でおおいに安倍氏と政治談議に花を咲かしてもらえれば、と思う。(奥原慎平)

細田議長が政府・与党の足かせに


細田博之氏、会見を振り返る㊦

細田博之氏、会見を振り返る㊤

細田博之前衆院議長が死去、79歳

会員限定記事会員サービス詳細