ビブリオエッセー

「自分との和解」へ到る道 「奇跡の四国遍路」黛まどか(中公新書ラクレ)

四国八十八カ所の霊場巡礼、1400キロを歩いた著者にまず敬意を表したい。この新書は「歩き遍路」の道中記だ。途切れずにすべてを巡る「通し打ち」にこだわったという。

最初に「旅の理由」が記されていた。かつてスペインのサンティアゴ巡礼も経験した著者だが、今回は「両親や自分の病、仕事など様々なものを抱えたまま」歩くことになった。

持ち歩く金剛杖は弘法大師空海の化身とされる。だから「同行二人」。お大師様とともに。お遍路さんは橋の上では杖は突かないそうだ。修行中の空海が橋の下で野宿したという伝説に因む慣習らしい。初めて知った。

著者は疲れた足取りで宿に着くとその日の出会いや言葉、風景などをノートに記した。俳人である著者ならではの一句が添えられ、そこに思いが込められている。

<菜の花の風に遍路の歩のはづむ>

<一片の紙のごとくに遍路過ぐ>

人それぞれの遍路。著者は結願の八十八番大窪寺で再会した男性から「きっと良いことがありますよ。あなたにも……そして、私にも」と言われ、「遍路とは〝自分との和解〟である」と気づく。得られる幸福感は目的地ではなく道沿いの花の中にあるとも書いていた。

さて私は故郷の高松に戻り、長年の夢だった四国遍路の旅に出るつもりだったが妻が足を痛め、徒歩ではなくマイカーでの巡礼となった。といってもまだ2カ所、これからだ。道の駅で粘った末に安値で買った渋柿は干し柿へと手を加え、風通しのよい場所で揺れている。

手元には納経帳や納経軸、そして大切な金剛杖がある。風景を堪能しながら、いつの日か妻と満願成就を果たしたい。

高松市 竹内健一(77)

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