太陽系の外にある惑星発見 存在証明「無理」 常識覆す 

嶺重 慎の星空をみあげて

私たちは、地球という星に住んでいます。地球は太陽の周りを1年かけて回っていますが、同じように太陽の周りを回っている星がたくさんあり、それらをまとめて「太陽系」と呼びます。その中で比較的大きな星が惑星と呼ばれます。みなさんも知っていると思いますが、太陽に近い方から、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つです。

さて、太陽は宇宙の中でありふれた星ということがわかっています。似たような大きさの星がたくさん見つかっているからです。すると疑問が湧きます。太陽系は「特殊な存在」なのだろうか、それとも「ありふれた存在」なのだろうか、と。

ここ20年ほどで飛躍的に進展した研究分野に、「系外惑星」があります。系外惑星とは、太陽系の外に続々と見つかってきた惑星のことです。今年2月段階で6千近い数の惑星が見つかっています。なんと太陽系は特殊な存在ではなかったのです。

太陽のような星の回りにある惑星を最初に見つけたのはスイスのマイヨールさんで、1995年のことです。京都で開催した国際会議に招待して親しくお話をさせていただきましたが、とても気さくな方だったのが印象に残っています。いつもニコニコしていて、楽しそうに研究の話をしてくださいました。2019年にケローさんとともにノーベル物理学賞を受賞されています。

太陽系と異なるタイプ

じつはこのマイヨールさんの発見は「予想外」の成果だったのです。太陽系のような惑星は、当時の観測精度で見つけることが難しいことが分かっていたのです。だから常識にとらわれていたら、発見に至らなかったでしょう。「そんなこと無理だ」と思い込んでいるからです。

皆さんの周りにも、すぐに「そんなことは無理だ」という、頭の固い人がいるかもしれません。ところが、彼はそんな「常識」を意に介しませんでした。あえて観測を続けてついに惑星を見つけたのです。それは太陽系にはないタイプの惑星でした。

どこが違うかを説明する前に、太陽系惑星の特徴を説明しておきましょう。太陽系8惑星のうち、太陽に近い水星、金星、地球、火星は地球型惑星と呼ばれます。岩石主体の惑星なので「岩石惑星」とも呼ばれます。木星、土星は木星型惑星です。地球型惑星よりずっと巨大で、水素・ヘリウムのガスをまとっているので「巨大ガス惑星」とも呼ばれます。天王星、海王星は天王星型惑星です。地球型惑星より巨大で氷が主成分なので「巨大氷惑星」と呼ばれます。

大事な違いはその大きさです。木星型および天王星型の大きさは、それぞれ地球の約10倍、5倍もあります。質量(重さ)も地球よりずっと重いです。太陽に近いところに小さな惑星、遠いところに大きな惑星、というのが太陽系惑星の特徴です。

系外惑星も、太陽系惑星と同じように太陽のような星(中心星といいます)の周りを回っています。マイヨールさんが最初に見つけたのは、水星軌道より中心星に近いところを回っている木星ほどの大きさの惑星でした。

先に観測データ得た学者も

地球は太陽の周りを1年かけて回っていますが、最初に見つかった系外惑星はわずか4日で公転していたのでした。1年が4日ということです。4日で次の正月が来るということです。忙しい惑星ですね。しかしおそらく四季はないでしょう。あまりにも中心星に近いところを回っているのでとても高温だからです。1年中夏です、いや夏以上です。水はとても存在できません。生物もいないでしょう。

そのような惑星はホットジュピター(高温の木星)と呼ばれています。この星は太陽からずっと遠く(光速でも数年かかる距離)にありますが、仮に近くにあったとしても、あまり行きたくはないですね。なぜそのような変な惑星が最初に見つかったかといいますと、それは惑星の見つけ方と関係しています。

解説しますと、惑星は中心星の周りをぐるぐる回っているのですが、中心星も惑星の重力に引かれてわずかに運動しているのです。その中心星の運動を検出するのです。中心星の運動は、惑星が重いほど、そして中心星に近いほど激しくなります。だからホットジュピターは見つけやすいのです。

じつは同じ星を同じ手法で観測していた天文学者も米国にいました。しかし、まさか4日で公転している惑星があるとは夢にも思わず、観測データを解析することなく、そのまま置いていました。その人は「太陽系」の常識にとらわれていたということになります。

しかし、マイヨールさんの話を聞いて慌ててデータ解析をしたら、同じ結果を得たということです。油断していたためノーベル賞を逃しました。読者のみなさんも、何か思いついたらすぐに手を動かすことが大事です。逆にいうと、マイヨールさんの発見はいかに常識外れであったかがよく分かります。

先に書いたように、今では6千近い系外惑星が見つかっています。太陽系のように、ひとつの星の回りを複数の惑星が回っている「惑星系」も多数見つかっています。そのような例をひとつあげましょう。

トラピスト1とよばれる奇妙な系外惑星系です。中心星は太陽より軽い星ですが、水星軌道より中に7つもの岩石惑星がお行儀良く回転しているのです。ちょっと想像してみてください。いわば地球のすぐ近くに、地球と同じような惑星が6つもあるのだから、昼間でもよく見えるでしょう。月が6つあるようなものですが、月よりは遠くにあるので月よりは小さく見えるでしょう。

こうして太陽系とは違った興味深い天体の存在が明らかになると、次に「生物はいるのか」ということが気になってきます。

嶺重慎

みねしげ・しん 昭和61年、東京大大学院理学系研究科(天文学・博士課程)修了、理学博士。海外の研究機関(マックス・プランク天体物理学研究所、テキサス大オースティン校、ケンブリッジ大)で研究員を歴任した後、茨城大理学部、京都大大学院理学研究科、基礎物理学研究所で研究・教育に携わる。令和5年3月、京大を定年後、京大名誉教授。専門のブラックホール研究に加え、一般書執筆、バリアフリー天文教材の制作やワークショップ活動も精力的に行っている。

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