食塩摂取量

私たちの食生活に欠かすことのできない塩ですが、過剰摂取すると体にさまざまな影響を及ぼすことが分かっています。健康な生活を送るために、さまざまな指針において1日あたりの食塩摂取量の目標値が定められています。
この食塩摂取量の目安は、私たちの生活にどのような影響を与えているのでしょうか。

日本人の塩分摂取量の基準

国で定められている食塩摂取量の基準値

厚生労働省がまとめた「日本人の食事摂取基準」(2020年版)によると、1日あたりの18歳以上の方の食塩摂取量の目標値は、男性で7.5g未満、女性で6.5g未満です。※1
そもそも日本人は、普段の食生活で塩分摂取量が不足することは考えにくいとされています。
そのため、むしろ過剰摂取を回避することを目的に、この目標値が設定されました。
高血圧の予防や治療という点でいえば、食塩摂取量は1日6 g未満が望ましく、できるだけこの値に近づくよう食塩の摂取を控えるべきと考えられています。※1
日本人の健康増進のための指針である「健康日本21」(第二次)では、男女とも成人の目標塩分摂取量は1日あたり8gとされています。「日本人の食事摂取基準」(2020年版)と比較すると、やや高めの目標値です。※2
しかしこの目標値についても、2013年に健康日本21が(第二次)として改正実施される以前までの目標値と比べると低下傾向となっています。日本人の塩分摂取量の基準は、徐々に低下してきているのです。※2

日本人の食塩摂取量の基準値の推移

日本人の食塩摂取量の基準値について、どのように変化してきたのか推移を見ていきましょう。
1979年に改定された「日本人の栄養所要量」では、日本人の食塩摂取量の目標値は、成人1人1日あたり10g以下と定められていました。
この1日あたり10g以下という目標値は、年々低下していきます。
現在、日本人が摂るべき栄養素やエネルギーの基準は、厚生労働省が5年ごとに発表している「日本人の食事摂取基準」に基づいています。2010年版では、18歳以上の男性で1日あたり9g未満、18歳以上の女性で7.5g未満とされていました。2015年版では、18歳以上の男性が1日あたり8g未満、18歳以上の女性で7g未満と、年々目標値は低下しています。直近の2020年版では前述のとおり、18歳以上の男性で1日あたり7.5g未満、女性で6.5g未満にまで引き下げられています。※3、4、5、6

2012年にWHO(世界保健機関)がまとめたナトリウム摂取量に関するガイドラインでは、成人に対し、食塩相当量を1日5 g未満と強く推奨しています。これは、1979年の日本の目標値と比較すると、半分以下です。
しかし、習慣的な摂取量として1日5g未満を満たしている日本人は極めてまれであると考えられます。
厚生労働省がまとめた「国民健康・栄養調査報告」には、1歳以上の方の1日あたりの食塩摂取量が報告されています。これによると、1995年では1日あたり13.2gと、1979年時点での目標値の2倍以上もの食塩を摂取していました。
その後は徐々に減少していくものの、2015年時点で1日あたりの食塩摂取量は9.7gと、依然として目標値の約2倍もの量を摂取しています。※5
この推移を見ても、食塩摂取量の目標値を1日5g未満とするのは、実施可能性の観点から適切ではないと判断されました。そこで、「平成 28年国民健康・栄養調査」における摂取量の中央値と、WHOが提示した1日5g未満という目標値の中間値をとり、「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では男性で7.5g未満、女性で6.5g未満を成人の目標値として定めたのです。※1

食塩摂取量の基準値が引き下がってきた理由

食塩の過剰摂取は、血圧上昇だけではなく、動脈硬化や脳血管障害、腎機能障害、胃がんなどさまざまな健康障害を引き起こすリスクがあることが分かってきました。※4
食塩と健康障害に関する研究では、過剰摂取が身体にさまざまなリスクを与えることが証明されています。しかし、食塩量を極端に少なくすれば健康状態が改善されるのか、食塩を減らすことが身体にとってどれほど良いことなのか、という点は明らかにはなっていません。※4
とはいえ、全世界の心血管病※による死亡のうち約10%は、1日5gを超える食塩の摂取によるものと推定されています。食塩の過剰摂取は、何らかの健康障害を引き起こしているといっても過言ではないでしょう。
WHO加盟国は、2025年までに世界の人々の食塩摂取量を30%削減することで合意しています。※7
このことからも、今後、日本人の食塩摂取量の基準値はさらに引き下げられると予測できます。
厚生労働省が発表する「日本人の食事摂取基準」は5年ごとに改正されますので、次に改定される2025年にはまた基準値が変わっているかもしれません。

※心血管病:脳卒中や心筋梗塞など、高血圧や動脈硬化によって起こる病気の総称

参考資料

※1 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
※2 国立研究開発法人医薬基盤・栄養・健康研究所 国立健康・栄養研究所 https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/kenkounippon21/mokuhyou05.html
※3 わが国における食塩の目標摂取量に関する二,三 の考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcdp1974/29/1/29_1_34/_pdf
※4 日本高血圧学会減塩委員会編集 2019年5月発行 減塩のすべて―理論から実践まで 南江堂
※5 公益財団法人塩事業センター 
https://www.shiojigyo.com/study/upload/sessyuryo27.pdf
※6 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書を取りまとめました
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041733.html
※7 公益社団法人日本WHO協会
https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/salt-reduction/

日本人の食塩摂取量の現状

日本人は食塩摂取量の基準を守れているのか

日本WHO協会によれば、ほとんどの日本人が1日あたり平均して9~12gの塩分を摂取、または推奨される最大摂取量の2倍前後の塩分を過剰に摂取しているとされています。
食塩摂取量の目標値をしっかりと守って塩分を摂取できているという方は、実際にも少ないのではないでしょうか。※7
日本を含むアジア圏は、世界的に見ても塩分摂取量が多い国です。
特に日本は、地域によって食文化が異なるため、地域によって塩分摂取量が異なるという特徴があります。
食塩摂取量の平均値を見ても、東北地方などの寒い地域における塩分摂取量は全国平均値よりも高い傾向にあります。
しかしながら、数十年前と比べれば地域差は縮まる傾向にあります。国内でも食塩摂取量が多い東北地方と、塩分摂取量が比較的少ない近畿地方では、数十年前までは5g以上の食塩摂取量の差があったものの、2016年に行われた調査では、その差は1g程度にまで縮まっています。地域を問わず全国的に、塩分摂取量を見直し始めていることがうかがえる結果となりました。※4

どのような食事が食塩の過剰摂取につながっているのか

それでは、一体どのような食事が食塩の過剰摂取につながっているのでしょうか。
食塩摂取源となっている食品のランキング(20歳以上)を見てみると、カップめんやインスタントラーメンといった「即席めん」がトップとなっていました。さらに、漬物や塩漬けの魚など日本の伝統的な食品が上位にランクインしています。※8
また別のデータを見ると、醤油、味噌汁、漬物、塩漬けの魚、たらこなどの魚卵といった、日本人の食生活に密着した、ご飯のお供として欠かせない食品がトップに並んでいました。※4
このことから、日本人特有の食生活によって塩分摂取量が上がっているということが考えられます。※9

即席めんと聞くと、塩分が多く含まれているというイメージをもつ方も多いかもしれません。しかし、即席めんは「食品表示基準」および「即席めんの表示に関する公正競争規約」によって、めんとスープに分けて食塩相当量が表記されています。
つまり、同じ即席めんを食べても、スープを飲むか飲まないかで塩分の摂取量が変わるということ。スープまで飲み干すことで、塩分の過剰摂取へとつながってしまうのです。※3、10

世界の食塩摂取量の基準値は

日本の食塩摂取量の現状についてはお分かりいただけたかと思いますが、諸外国ではどうなっているのでしょうか。
諸外国の基準値はナトリウムの摂取量で定められています。具体的には、アメリカ、カナダ、オーストラリアでは1日あたり2,300mg未満のナトリウム摂取が基準値とされています。これは食塩相当量に換算すると、6g未満に値します。
イギリスは1,600mg未満とさらに少なく、諸外国の塩分摂取量の基準値は極めて少ないということになります。※7
また、目標値だけでなく実際の食塩摂取量を見ても、日本や中国などアジア系の国と比較して少ないことが分かっています。これは、食文化や食習慣が関係していると考えられています。※9
例えば、香辛料で調味をすることが多かったり、バターなどの脂を使って調味したりするほか、塩の入っている調味料そのものをあまり使用しない食文化の国もあります。このように、調理法や一般的に使われる調味料の違いなどによって、塩分摂取量が大きく変わるのです。
さらに、原始的な食生活を行っている民族では、1日の塩分摂取量は3g以下といわれています。※4
塩なし民族ともいわれるアボリジニ、イヌイット、ブッシュマン、ヤノマミインディアン、パプアニューギニアなどにおいては、狩猟をした食物に味を付けずそのまま食べたり、栽培した食物に調味料を極力使用せず調理したりしています。
つまり、食塩を摂取する機会がほとんどなく、食塩摂取量が先進国と比べて抑えられているということが分かっています。※11

参考資料

※4 日本高血圧学会減塩委員会編集 2019年5月発行 減塩のすべて―理論から実践まで 南江堂
※7 公益社団法人日本WHO協会 https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/salt-reduction/
※8 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 https://www.nibiohn.go.jp/information/nihn/files/8404cee25d908752943d20f6a3233af289ee95ea.pdf
※9 聖霊女子短期大学紀要第39号 成人の食塩摂取の現状 https://www.jstage.jst.go.jp/article/swjcb/39/0/39_KJ00008041319/_pdf/-char/ja
※10 一般社団法人日本即席食品工業協会 https://www.instantramen.or.jp/uso_hont/story-salt/
※11 内閣府 食品安全委員会 塩と健康~あなたの塩分摂取量は大丈夫?~ https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20160624ik1&fileId=030f

食塩摂取量を増やさないためにできること

調理法を工夫して薄味を心がける

普段の食生活において、1日あたりの食塩摂取量全体の約7割は、調味料類から摂取しています。
裏を返せば、調味料の使い方の工夫をすれば、食塩摂取量を減らせるということです。
塩が含まれている調味料といえば、多くの方が味噌や醤油、塩などを思い浮かべるかもしれません。
しかし、ドレッシングやオイスターソース、コンソメやカレールーなど私たちが日常でよく使うさまざまな調味料にも塩分は含まれています。
食塩や各種調味料を使い過ぎないように調理することはもちろん重要です。しかし、食塩の量を控えるだけでは、味気なく、食事が楽しくなくなってしまいます。塩味には食欲を増進させる効果も期待できるので、食塩をむやみに控えてしまうと食欲自体が低下してしまうおそれもあります。
したがって、食塩をただ控えるというよりも、さまざまな調味料を併用していくことがおすすめです。
例えば、酢や香辛料、うまみ成分が含まれるだしなどを利用することで味の相乗効果が生まれ、減塩をしてもおいしく仕上げることができます。
ただし、手軽にだしを取ることができる顆粒だしなどには塩分が含まれていますので、ご注意ください。※12

つけ過ぎ、かけ過ぎに注意する

調味料は調理中に味を決めるだけでなく、直接食材につけて食べるという方法でも使用されます。例えば、刺身や冷奴を食べるときには醤油をつけ過ぎないようにする、サラダにドレッシングをかけ過ぎないようにするといった工夫だけでも、塩分摂取量を控えることにつながります。
皿の底に残るほど調味料を使ってしまうと、かけ過ぎになってしまいます。料理に直接にかけず小皿などに調味料を取り分け、少しずつつけながら食べるなどの工夫もおすすめです。※12

野菜や果物を積極的に摂取する

バランスのよい食生活のなかで、野菜や果物を積極的に摂取するのもおすすめです。こちらは、食塩摂取量そのものを増やさないというよりも、体内に塩分が溜まるのを防ぐための方法です。
塩分の成分であるナトリウムは、そのほとんどが尿として体外に排出されます。※4
ナトリウムの排出を助ける作用をもつのが、カリウムという成分です。カリウムが多く含まれる野菜や果物を積極的に摂取することで、ナトリウムを身体の外に出しやすくしてくれます。体内の塩分量を調節する効果が期待できます。 ※13、14
ただし、野菜をたくさん食べようとして、サラダにドレッシングや塩、マヨネーズをたっぷりかけてしまっては本末転倒です。
塩分を使わずに野菜や果物を摂取できる工夫が必要でしょう。
また、カリウムは水に溶けやすいという性質があります。野菜をゆでたり、温野菜にしたりすると、多くのカリウムが流れ出てしまいます。※13、15
例えば、お味噌汁やスープにしてゆで汁も一緒に味わうことで、カリウムを効率よく摂取することが可能です。
なお、慢性腎臓病など一部の疾患をもつ方は、カリウムの摂取量を制限されることがあります。通常、カリウムが過剰になることはまれであるといわれていますが、腎臓に疾患のある方は医師または管理栄養士の指導を受けるようにしましょう。

参考資料

※12 厚生労働省 e-ヘルスネット 調味料の使い方

調味料の上手な使い方


※13 厚生労働省 e-ヘルスネット カリウム 

カリウム


※14 厚生労働省 e-ヘルスネット 栄養・食生活と高血圧
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-002.html 
※15 東邦大学 
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/neph/patient/tjoimi0000000aor-att/tjoimi0000000b91.pdf

自分の食塩摂取量は目標値を超えていない?

塩分チェックリストの活用

そもそも自分が食べている料理が食塩摂取量の目標値を超えていないかどうか、気になる方も多いのではないでしょうか。
本来、厳密に塩分量を測定するには塩分計が必要です。
しかし、塩分計を所有している家庭はあまり多くないと考えられますし、毎日測定するのは手間のかかる作業です。
さらに厳密に自分の食塩摂取量が目標値を超えていないかを知るためには、食事の全体量を測定し、食品成分表を使用して塩分量を算出するという方法もあります。
しかし、この方法はトレーニングされた調査員が評価をすることが望ましく、一般の方が自分の食塩摂取量を算出するのは非常に難しいと考えられています。
そこで、一般の人でも活用しやすいのが「塩分チェックリスト」です。塩分チェックシート、塩分チェック表などと呼ばれることもあります。
これを使えば、普段の食生活における食塩摂取量を手軽にチェックすることができます。※4

塩分チェックリストとは

塩分チェックリストとは、自身の食生活においてどのくらい塩分を摂取しているかを知ることができる簡易的な一覧のことです。自治体や病院・クリニック、外食チェーンなどさまざまな機関が塩分チェックリストや塩分チェックシートを公開しており、いずれも概ね同じような項目で構成されています。
まず、漬物や味噌汁、練り物、塩蔵されている魚、パンやめん類など、塩分が含まれる食材を食べる頻度に丸をつけていきます。さらに、めん類のスープを飲み干すかどうかや外食の頻度、調味料の使用頻度、食事量などについても、当てはまる項目に丸をつけていきます。丸をつけた項目によって点数化し、自分の塩分摂取量を調べることができます。
さらに厳密に食塩摂取量を調べるためには、塩分チェックリストと合わせて、24時間かけて行う尿検査を併用することも推奨されています。

塩分チェックリストのみで厳密な食塩摂取量を測定することは難しいですが、自分の食生活で塩分摂取量が一般的な基準を超えていないかどうかを知る目安にはなります。何より、非常に簡単な方法なので、栄養成分に関する専門的な知識がなくても手軽に行えるのが特徴です。※4
自分の普段の食生活を振り返り、どの点を改善すれば食塩摂取量を抑えることができるのかを知るためにも、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。

参考資料

※4 日本高血圧学会減塩委員会編集 2019年5月発行 減塩のすべて―理論から実践まで 南江堂

執筆者 岡部 美由紀 看護師兼ヘルスケアライター

埼玉県内および東京都内の総合病院手術室勤務、眼科クリニック勤務等を経て、IT関連企業へ。
2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向けの疾患啓発サイトや書籍原稿執筆、医療従事者向け情報サイト等での執筆、医療従事者への取材などを行う。健康食品管理士の資格を活かし、栄養成分やサプリメント等に関する記事執筆も多数あり。