GNSS測位精度における主な誤差原因

2023.09.05 | GNSS測位

衛星測位において、代表的な誤差原因を大きく分類すると3つあります。

・衛星に関する誤差(衛星の軌道情報による誤差・衛星クロック誤差)
・電波伝達に関する誤差(電離層遅延誤差・対流圏遅延誤差)
・受信機に関する誤差(マルチパスによる誤差・受信機クロック誤差)

各誤差原因を削減することで高精度な位置を算出することができます。

誤差原因の分類

【衛星に関する誤差】
<衛星の軌道情報による誤差>
衛星から送られている信号は、衛星の健康状態(測位に使用していいか)・時刻補正データ・軌道情報(エフェメリス・アルマナック)・電離層補正データなどの航法メッセージを含んでいます。
衛星の位置を計算するには軌道情報(エフェメリス)の軌道6要素を使用します。このデータは地上の管理システムが衛星軌道追跡データに基づいて計算された予測値です。しかし、実際の衛星位置は様々な影響により計算経路から少しずつ逸れていきます。そのため、エフェメリスデータは、2時間に1度の頻度で更新されています。
実際の衛星位置と更新された軌道情報から計算した衛星位置の差を、衛星の軌道情報による誤差と言います。その誤差は、同一衛星からの信号を2台の受信機で観測することで、相殺することができます。

<衛星クロック誤差>
各衛星には、高精度なセシウム原子時計と予備でルビジウム原子時計が各々2基搭載さてれおり、その時刻は地上の管理システムにて管理しています。受信機の位置を出す上で、衛星の位置と同様に時刻はとても重要です。衛星の時刻が、1マイクロ秒(1秒の100万分の1)ずれると約300m誤差が出ます。いくら高精度な原子時計を使用していても、日々の積み重ねによって時刻誤差は生じます。そのため衛星からの信号には、時刻の補正情報が含まれています。この補正情報により補正しても残る誤差を衛星クロック誤差と言います。その誤差は、同一衛星からの信号を2台の受信機で観測することで、相殺することができます。

 

【電波伝達に関する誤差】
<電離層遅延誤差>
電離層とは、地球上空約50kmから約1000kmまでの高さに広がっている、電離された気体(自由電子やイオン等)の存在している領域の事を言います。電離層内は、高度によって異なる電子密度の層(D層・E層・F1層・F2層)で構成されていて、太陽活動の活発さ・季節・時刻・場所など、さまざまな要因で常に変化しています。

電離層による誤差

衛星からの電波が受信機に伝わるまでの時間を観測しますが、媒質(波を伝える物質)中を電波が伝わる速度は、周波数・波長によって異なる性質があります。周波数によって電離層遅延量が変わるからです。
電離層遅延量は、衛星から受信機までの電波経路の総電子数に比例し、電波の周波数の2乗に反比例します。
その特性を使用して、複数の異なる周波数(L1・L2・L5)を受信できる受信機では、複数の周波数を受信することで、電離層遅延量を消去することができます。

<対流圏遅延誤差>
対流圏とは、地上から約10km程度までの濃い大気が存在する領域の事を言います。対流圏には、乾燥大気と湿潤大気があり、電離層と同じく対流圏を通過する電波は屈折します。対流圏では、電波の伝達は周波数に依存しないため、電離層の時のように、異なる周波数を使用して遅延量を算出することができません。そのため、対流圏で遅延量を算出するには、衛星の仰角・方位角と伝搬経路上の気温・気圧・水蒸気分圧が必要となります。しかし、実際には精密に計算するのは困難のため、一般的な対流圏遅延モデルを使用して遅延量を算出します。

対流圏遅延量=(乾燥大気(気圧・高度)による天頂方向の遅延量×係数)+(湿潤大気(気温・水蒸気分圧)による天頂方向の遅延量×係数)
※仰角によって係数は変化します。

対流圏遅延補正は、受信機の高度・衛星の仰角によって変わります。そのため、基準局と移動局の高低差がある場合は、高度が同じ所までの補正量は相殺できますが、その先の補正量は相殺できません。ネットワーク型RTK(VRS方式)を使用すると、移動局の近傍に仮想基準局を作成するので、先程の高低差における遅延量補正遅延を軽減することができます。

 

【受信機に関する誤差】
<マルチパス(Multi-path)>
衛星からの電波は直進性が強く、物体に当たると反射しやすい性質があります。受信機のアンテナは、衛星からの直接波とは別に、受信機近くの建物や地面等の反射した反射波も受信してしまいます。このように複数の経路(Multi-path)を辿って受信機に届くことをマルチパスと言います。
※反射波は直接波に比べ、遅れて受信機に届き、信号強度も小さくなっています。
マルチパスは、高層の建物がある都市部や、仰角の低い衛星を使用すると大きく現れます。そのため、反射物の近くで観測をしない、受信機の設定で仰角の低い衛星を使用しないなど、対策をすることでマルチパスを軽減することができます。

マルチパス

<受信機クロック誤差>
受信機に使用されている時計は、衛星で使用されている高精度なセシウム原子時計に比べ、安価な時計を使用しています。位置を出す上で時刻は重要で、地上の管理局が管理しているGPS時刻と、受信機に内蔵されている時刻でズレが生じます。その時間のズレを受信機クロック誤差と言います。その誤差を消すために、複数の衛星を使用し、時間差を算出することで受信機クロック誤差を消すことができます。
<GPS単独測位について>